成長し、世界を探索する。30秒だけのブロック崩し『Breaker』

たまにはゲームの話でも。

奇妙なブロック崩しです。なにせ制限時間が30秒しかありません。

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だったら、壊せるブロックなんて限られてるんだから、つまんねーだろ、と思われるかもしれませんが、そうではないのです。

本ゲームでは、ブロックを壊すとお金がもらえます。このゲーム内のショップで使えるお金です。ショップでは、それぞれボール、オプション・ボール、レーザー、バーに関するパワーアップアイテムが販売されています。それを購入すると、威力やサイズやらが向上するのです。

すると、どうなるか?

同じ時間でも壊せるブロックの数が増えます。となると、手にできるお金の金額も増え、また新しいパワーアップアイテムを購入でき……と、ぐるぐる循環が回っていくことになります。

でも、フィールドにあるブロックには限りが……。

心配ご無用。一定数のブロックを破壊すると、世界が一段階拡がります。何を言っているのかわからないと思いますが、Googleマップでひゅっと視点の高度を上げた状況をイメージしてください。当然、その先には新しいブロックが待っています。

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という風に、ボールや自機を成長させ、どんどん新しい世界へと歩みを進めていく、というのが『Breaker』という少し変わったブロック崩しの基本です。

思ったこと

一つ面白いと思ったのが、「30秒」という制限です。これはスマートフォンで遊ぶゲーム、というのが強く意識されているのでしょう。

普通ブロック崩しと言えば、上達すればするほどプレイ時間が長くなるわけですが、時簡に追い立てられる私たちにそのような精神的余暇はあまりありません。でも、30秒ぐらいだったらちょっとやってみようかな、という気がしますね。しかしながら、結局何回もやっちゃって5分くらいは軽く過ぎてしまうわけですが。


また、ゲームデザインで言うと、プレイヤーが何度も繰り返すことがきちんと折り込まれています。「新しい世界へと歩みを進めていく」と言っても、ゲームスタート時は毎回同じ箇所(一番小さい世界)から始まります。何度も繰り返せば、やっぱりそれは飽きてきますね。

しかし、このゲームでは、ボールやら自機やらをパワーアップさせると、初期の部分はほぼ1秒ぐらいで通過できます。というか、操作の必要すらなく、ただ見ているだけです。これはレベルアップの爽快感も生み出していますし、またレベルアップしたのに初期箇所で操作をミスして死んでしまう、という「つまらない」状態も避けることが可能です。

プレイヤーが「ブロック崩し」を頑張るのは常に最前線の箇所であって、それ以前のステージは無双シリーズをプレイしているかのような感覚で駆け抜けていけるのです。

これも30秒というゲーム時間の制約があったからこそ生まれて来たデザインなのでしょう。


最後に、広告設計のお話。このゲームは無料なのですが、パワーアップアイテムを現金で購入することができます。一気にレベルを10上げてしまうアイテムが各120円、そして各種アイテムのレベルアップ詰め合わせが360円。高いのか安いのかはわかりませんが、一つ言えるのは、これらは単に時間的ショートカットでしかない、と言う点です。

ゲームをプレイしてコツコツお金を貯めて……、というやや面倒な行為を省略するためであって、「現金を通してしか入手できないアイテム」を手に入れるためではないのです。

さらにもう一つ、ゲームが終了するとたまにお宝箱みたいなものが提示され、それをクリックすると広告動画が流れてきます。最後まで見終えると、ゲーム内のお金が手に入ります。この金額も実にうまくデザインされているのですが、だいたいそのレベルで十数回プレイしたぐらいの金額が提示されるのです。結局これも、時短のためなわけです。

私はこうしたゲームで意識的に広告動画をクリックしたことはありませんでしたが、実に不思議なことにこのゲームでは何度も広告動画を見ています。

その理由を考えてみると、第一にこれらが「ズル」ではない、ということがあります。現金を支払うことや、広告動画を見ることだけで手に入る強力なアイテムを使ってゲームをクリアしてしまうと、何となくゲーマー的罪悪感にかられてしまいます(もちろん、個人の感想です)。しかし、このゲームではこれらは時短でしかありません。「あと十何回かやれば、同じ結果にたどり着く」ものを、少し早めに手にしているだけなのです。だから、広告動画を見ることに対する拒否感は生まれてきません。

さらに言うと、広告動画はどれも30秒以下です。つまり、プレイ時間(30秒ですね)と同じか、それよりも短いのです。ここで不思議な対比が出現します。1プレイ時間か、それよりも短い時間で、十数プレイ分の報酬が手に入る。こんな比較をしてしまえば、お得にしか見えてきません。もし、この対比が出現しなければ、広告動画を見る時間など無駄なもの余計なものと認知されてしまうでしょう。なにせ時間は貴重なのです。

しかし、限定的な対比によって、あたかも広告動画を見るのがお得なように感じる心理的フレームが発生してしまうのです。

もちろん、これは私だけの話かもしれませんが。

さいごに

一応クリアがあるゲームだと思うので、作業時間が無限に吸い込まれてしまう、ということはないとは思いますが、一日やり込んだ私でも、以下の順位であることを考えると、忙しい人は手を出さない方が賢明かもしれません。

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ストレス下の脳__『マシュマロ・テスト』を読み込む 第二回

前回:目に飛び込んでくる刺激とその解釈__『マシュマロ・テスト』を読み込む 第一回

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 ウォルター・ ミシェル 柴田 裕之

早川書房 2015-05-22
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脳には二種類の反応システムがある。本書ではそれは「ホットなシステム」「クールなシステム」と呼ばれている。

冷静で、理知的で、長期的なメリットを考慮した判断が出てくるのは「クールなシステム」だ。その日暮らし、その瞬間暮らしから抜け出すためには、こちらのシステムを積極的に稼働していきたい。

そこで問題になるのがストレスである。

長く続くストレスは、前頭前皮質にダメージを与える。そして、前頭前皮質はクールなシステムの発動に関わっている。簡単に言えば、長期的にストレスの影響下に置かれていると、クールなシステムが発動しにくくなる、ということだ。

著者はハムレットを喩えに用いながら次のように書いている。

ストレスが長引いたとき、問題解決に欠かせない彼のクールシステム、具体的には前頭前皮質と、記憶にとって重要な海馬が、萎縮を始めた。同時に、ホットシステムの核心にある扁桃体が、過度に大きくなった。この脳の変化の組み合わせのせいで、自制とクールな思考が不可能になった。(後略)

追い詰められた人が、そうでない人からみると愚かしい行動を取ってしまう要因の一つがここにあるのだろう。

私たちは普通に生きている。日常活動の多くは、習慣と名付けられた無意識的行動によって構成されている。それで、たいした問題は起きない。しかし、人生は人間の理想通りには進まない。理性からすると受け入れがたい体験が発生する。そうしたとき、ストレスが発生する。

であれば、状況に対応しなければならない。行動を起こし、問題を解決しなければいけない。なのに、そうした行動が出てきにくい状況に脳が陥ってしまうのだ。まるでアリジゴクのようではないか。

では、どうすればよいのだろう。

いろいろなことが言えるのだが、真っ先に述べておきたいのは、「頑張ればなんとかなる」という考え方は一切効果が無いばかりか、有害ですらある、ということだ。

体が疲れている、というレベルならば根性論で乗り切れるだろう。しかし、脳がダメージを受けているのならば、「頑張る」は明らかにタブーである。無理してはいけない線を越えてしまう可能性が高い。その意味で、お気楽な仕事術(というか自己啓発)は、あくまで脳が(ある程度は)通常状態の人にのみ適用されるべきで、そうでない人にとっては劇薬になってしまう可能性がある。

普通の人からみれば、「そこまでしんどいなら辞めたらいいじゃない。というか辞めるでしょ、フツー」という判断が脳機能的にできなくなってしまっている可能性は常に留意しておきたい。そういう場合は、外部からの強制力を用いて環境を変えるぐらいしか手はないだろう。

また、一気に卑近な例になるが、強いストレスを感じているときは、禁煙やダイエットはまず成功しない。なぜなら、タバコを我慢することや、食べたいものを我慢すること自体にもストレスがかかるからで、二重苦な状況を生み出してしまっている。あれも、これもは手にできない、ということである。
※タバコを我慢することが楽しくなれば、話は別だが。

もし、日常の行動に「自制」を持ち込みたいのであれば、ストレスには十分注意を払う必要があるだろう。ストレスが少なければ少ないほど、「自制」が成功する可能性が高まる。もちろん、誰だってストレスの真っ直中で生活したいとは思っていないから、こんな話は無用かもしれないが。

それでも、とりあえず言えることは、強いストレス下にあるときは、「自制」を要する新しい習慣を作ろうとはしないことである。単に自分を苦しめるだけになるかもしれない。ストレスの発生源に立ち向かう方が(あるいはそこから立ち去る方が)、現実的な解となるだろう。もちろん、もはやそういう判断すらできなくなってしまっている可能性があることは先ほども述べた通りだ。

もう一つ、逆向きの視点を持つと、強いストレス下に置かれている人に、「自制」を要するような行動を求めても詮無い、という点がある。

他者を見つめる視点として、このポイントは非常に大切になってくるだろう。

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【書評】妻を帽子とまちがえた男(オリヴァー・サックス)

オリヴァー・サックス氏の訃報(※参照)を見かけた。

ガンを患っていた話は聞いていたし、高齢でもある。その意味で意外感は少ないが、喪失感は大きい。2009年のTEDでは、椅子に座りながらもしっかりと講演している。

オリバー・サックス: 幻覚が解き明かす人間のマインド:TED

ある種の人たちが共通して持つ、あのユーモラスを含んだゆったりとした笑み。その視線は知的好奇心と慈愛に満ちている。彼は脳に興味を持ち、そして、その脳を持つそれぞれの人間にも興味を持っていた。その不思議な統合は、彼の著作からもうかがえる。

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) オリヴァー サックス Oliver Sacks 高見 幸郎

早川書房 2009-07-05
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私たちは彼が患者について(あるいは患者の人生について)語る言葉を聞きながら、患者の人生について(あるいは自分の人生について)想いを馳せずにはいられない。

そこには科学的な知識のひけらかしもなければ、患者を異物として排除するような視線もない。機能に障害を持った脳が、それでも「現実」となんとか向き合おうとするように、それぞれの患者も「自分の人生」を生きている。それがどれくらい価値のあることなのか、驚嘆すべきことなのか。


「症例」だけを切り取ってしまったとき、そこに残るのは生物としてのヒトであって、人間ではない。言い換えれば、そこには「生きる」という体験が欠落している。その人の精神世界にしか存在しないものが、__科学では扱えないという理由から__そっくり抜け落ちてしまっているのだ。

同種の問題は、脳科学以外の分野でもきっと起きてはいるのだろうが、「生きている」という感覚を生じさせているのがまさにその脳だからこそ、問題はより本質的である。


本書には24編のエッセイが収められ、それぞれにかなり奇妙な症状を抱えた患者たちが登場する。そうした患者のストーリー(あるいはナラティブ)に触れるとき、私たちは「自分とは違う、可哀想な人たち」という視線を禁じられる。むしろ、「自分が生きている」ことの奇妙さに気がつかされるはずだ。

表題ともなっている「妻を帽子とまちがえた男」では、抽象的にしか物が見えない男が登場する。彼はハサミはハサミだとわかる。しかし、妻の顔はわからない。ボケているわけではない。音楽の授業はきちんとできるのだ。それでも、自分が音楽学校で教えている生徒の顔がわからないという。が、生徒が何か動作をすると、その動きで誰だかわかるという。

いったいぜんたい、私たちの「見る」というメカニズムはどのように構成されているのだろうか。少なくとも、光を感光材料の上に投影しているのとはまったく違うことはわかる。

他のエッセイも同様である。それぞれに、少しずつ違った形で「生きるとは何なのか?」という問いを刺激してくる。

それは、もうほとんど哲学的な問いである。そして、人間についての理解の一歩でもある。

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メディアの拡散力と車のブレーキ

あるテクノロジーが持つパワーが大きくなればなるほど、それを制御するための技術の重要性も増してきます。軍事、航空、発電。いくらでも例はあげられるでしょう。

車一つとってもそうです。もし自動車というものが5km/hしかスピードが出ないなら、中学生が運転していても大事故は起きないでしょう。しかし、実際は軽くアクセルを踏むだけで60km/hなんて簡単に出てしまいます。不注意な運転が、運転者だけに留まらず通行している人に甚大な被害を与えることはあえて書くまでもありません。

仮に運転免許という制度がなかったらどうなるでしょうか。

家電量販店に行き、まるでパソコンを買うみたいに車が買えて、そのままドライブに出かけられるような社会であれば。

もちろん前には進めます。操作方法はトリセツを3ページも目を通せば了解できます。かといって、安全に目的地に到着できるかはわかりません。難しいのは「アクセルを踏む」「ブレーキを踏む」といった動作ではなく、「いつそれを行うのか」「なぜそれを行うのか」「どのくらいそれを行うのか」という体験や理解に関する部分です。

見通しの悪い道では速度を落とす。急カーブでは速度を落とす。

そうした一つ一つの注意が事故の発生確率を下げます。そして、日本中で運転しているドライバーが同様の注意を払っているからこそ、車の事故は溢れかえるほど多い、というほどにはなっていません(もちろんゼロでもありませんが)。

もし日本で車を運転している人が一人であれば、彼が払う注意はずいぶんと少なくなるでしょう。あるいは、日本の道路という道路が直進レーンで、歩行者など一切近寄って来れない場合でも似たようなものかもしれません。

しかし、実際は、走っている車は多く、道路にはほとんどトラップと言えるような困難な箇所があり、車以外の交通者も関与しています。注意して運転すること、そしてアクセルを踏んで前進するだけでなくブレーキを踏んでスピードを落とすことは__個人の利益からも公共の福祉からも__必須の要素となります。


ということを考えたときに、日本国にインターネットが普及して、個人が簡単にパブリッシュできる環境を手にしたということは、即ち個人がパワーを手にしたということであり、それによって個人の情報が日本中に拡散することで影響力を獲得できるようになった反面、ブレーキの踏み方を知らないととんでもないことになる、ということがおぼろげに浮かんできます。

パブリッシュにおける「ブレーキの踏み方」にも、きっといろいろな要素が含まれていることでしょうが、基本的には「何を書かないか」ということだと思います。どんな表現を使わないか、どんなテーマは持ち出さないか、といったことです。

古き良きインターネットでは参加している人が限られており、しかもそういう人たちはある種「偏って」いたので、ブレーキの技術をもともと持っていたか、あるいはなくてもさほど困らない状況だったのでしょうが、今はそうもいってられない状況になっています。

まあ、メディア・リテラシーということなんですけれども、その重要性みたいなものは、誰も回りのことを気にせずに運転している車社会を思い浮かべてみると、なんとなく見えてくるのかもしれません。

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本の情報と接点のメディア

「本の情報」について、最近いろいろ考えている。

少し前の話になるが、「アメトーーク!」という番組で漫画『キングダム』が取り上げられたらしい。結果、売り上げに大きな影響があったと聞く。

「キングダム芸人」が大反響 電子版全巻累計100万DL以上に – ライブドアニュース

集英社の広報によると、1巻~38巻までの累計発行部数は1,600万部以上で、「アメトーーク!」放送後、6月末までの約1か月間で電子版全巻累計100万ダウンロード以上を記録。「ふだんマンガを読まない層の方々にまで、作品にご興味を持っていただく機会になり、喜んでおります」とコメントした。

同じ番組で、「読書芸人」という企画があったときも同種の動きがあったようだ。

「アメトーーク!」効果で全国書店から消えた!若林も又吉も大絶賛で今、入手困難のアノ本とは? | ダ・ヴィンチニュース

「本の番組ではなくバラエティー番組で芸人さんが紹介することは、世間一般の方たちが小説って面白いなと思ってくれる良いキッカケになるのでとてもありがたい」と嬉しい悲鳴をあげると同時に、石井さんは、文芸作品に追い風が吹いていることに確かな手応えを感じているという。

こうした現象を「テレビメディアの強さ」とだけ捉えればよいのだろうか。たしかに、ネットが存在感を増しているとは言え、まだまだテレビは強力である。しかし、それだけで説明できるのだろうか。じゃあ、テレビでやたらめったら本を紹介しだしたら、飛ぶように売れるのだろうか。

嬢曰く。

以前書評をアップした『バーナード嬢曰く。』という漫画がある。お読みになっただろうか。

バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)
バーナード嬢曰く。 (REXコミックス) 施川 ユウキ

一迅社 2013-04-19
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本当に面白いくらいに、この漫画を読んでいると、本が読みたくなってくる。私がSF好きだから、という点もあるだろうが、それだけではないことはこれまでまったく興味がなかった『KAGEROU』にもわずかながら関心を持ったことからもうかがえる。

おそらく、この漫画を読んで、紹介されている本を買った人も多いことだろう。あるいは書店で見かけたときに、「あっ、」となったこともあるだろう。

もちろん、販売数が激変するほどの影響ではないはずだ。おそらくその部分こそが「テレビメディアの強さ」である。ただし、その数字の差分を抜いて考えると、共通項みたいなものはきっと立ち上がってくる。

身近なメディア

一つ言えるのは、これらが「私たちと身近なメディア」であるということだ。それはテレビであり、漫画である。普段漫画を読まない人でも接するメディア、普段本を読まない人でも接しているメディア。そこに情報を乗せることは必須と言えるだろう。

その意味で『海外SFハンドブック』などは素晴らしい本ではあるのだが、普段SFを読まない人はまず手に取らない本であり、ノンカスタマを顧客に引き込む効果はあまり期待できない。

ドラッカーは『ネクスト・ソサエティ』でノンカスタマの重要性を説いている。

あらゆる組織にとって、もっとも重要な情報は、顧客ではなくノンカスタマについてのものである。変化が起こるのは、ノンカスタマの世界においてである。

顧客とは、すでに情報のパイパスがつながっている。私は毎月電撃文庫の新刊を買っているし、本の中には「今月の新刊」という小冊子が付いてくる。それをみて他の新作を知ることができる。つまり動線が確立されている。しかし、他のライトノベル文庫の新作についてはわからない。ノンカスタマなのだ。

本の売り上げをアップさせたければ、「意識的に新刊の情報を求めている人に届く情報ルート」とは別のルートを確立しなければならない。そして、そのルートはそれぞれの人が日常的に接しているメディアになるはずだ。

何を伝えるのか

もう一つ、仮にそうした情報ルートを確立したとしても、どのような情報を流すのかも重要である。

書誌情報を流しただけではまったく足りない。なにせその人たちはノンカスタマなのだ。控えめに言っても「目利き力」はない。どうにかしてその本の価値を、あるいは魅力を伝える必要がある。

そこで力を持つのは、やはり感想である。「この本って、これこれこれがこう面白いんですよ」という感想である。「気がついたら朝になってました」という体験である。そうしたものが「へ〜」という関心を惹き付ける。なぜなら人間は共感の動物であるからだ。
※もちろんこれを悪用することもできるが、それはさておき。

人の心の動きという波は、それを受け取った人の心にも波を起こす。書誌情報を示しただけでは、こうしたことは決して起こりえない。

人の関心を惹き付けるものは、他にも「ランキング」や「値引き」といったものがある。これらもマーケティング的には重要な要素かもしれない。ただし、ランキングは対象が非常に限定的であり、値引きは体力勝負になる。施策の一つとしてキープしておくことは必要だが、それだけに頼り切ってしまうのは少々心許ない。

さいごに

どれだけメディアが発達し、高度化し、高速化しても変わらないことがある。

それは本は面白いということだ。まわりのメディアがどれだけ変化しても、本の面白さは何一つ欠損してない。少々傲慢なものいいになるが、本を作っている人たちはそのことにもっと自信を持っていい。その上で他のメディアと協力すればいいのだ。

優れた本ならば、手に取り、表紙をめくり、一行目を読んだ途端、読者をずるずると本の世界に引き込んでいく。それはフィクションだけに限らない。本には世界を移転させる力がある。その力は読者を大いに満足させるだろう。

「本が読まれなくなった」というのは、別に本の魅力が減じたわけではない。「相対的に見て、本というメディアはうんぬん」という言説は、ひとたび読書に熱中し始めたら雲散霧消する。

だとすれば、打てるだけの手を打ち、「本って面白いんですよ」ということを、ノンカスタマに向けて発信していくことが必要だろう。ただし、メディアの選択とどのような情報を発信するのかには十分な注意が必要である。

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広い目で見たクリエーター

ふと考えたんですが、「クリエーター」ってかなり漠然としてますよね。括りが大きいというか。

自らの情熱や葛藤を芸術作品として生み出す人もクリエーターですし、他の人を楽しませるために作品を作り出す人もクリエーターです。あるいは、業務上の効率性を高めるためにプログラムを書く人も、クリエーターと言えばクリエーターです。

そんなことを言えば、何かを教える人も授業という体験をクリエートしていますし、そこで使う教材なんかも作っているかもしれません。これだってクリエーターでしょう。

さらに畳みかければ、報告書やプレゼンテーションを作ることだって、クリエートと言えるかもしれません。だったらもう、なんだってクリエーターではないでしょうか。


クリエーターの反対と言えば、デストロイヤーとかになるのかもしれません。いかにも恐ろしいですね。

たとえば、重機を使って廃ビルを解体している人は、クリエーターというよりもデストロイヤーに近しいイメージがあります。しかし、見方を変えれば「空き地」を作っているとも言えるわけで、それだってクリエーターかもしれません。

詐欺師は「ついつい引っかかる美味しそうな話」を作りますし、起業家は会社を、物乞い(beggar)は寄付する機会を、水道料金の調査人は請求書を作っています。人類皆クリエーター__というのはさすがに言いすぎにしても、仕事の多くは何かを作っていて、アンドロメダ銀河のように広い目で見れば、それをクリエーターと呼ぶことだってできるでしょう。


かといって、それらが同じである、と断ずるのも少々短絡的です。

  • アーティスト
  • エンターテイナー
  • エンジニア
  • プレゼンター
  • エデュケーター
  • メンテナンサー
  • トリックスター

とか適当に書きましたが、いろいろな表現があります。

何かを作るとして、何のためにそれを作っているのか、どのような結果を求めてそれを作っているのか。そういう違いに注目した方が良いのでしょう。そうすれば「クリエーター同士の噛み合わない会話」みたいなものを避けられるでしょうし、間違ったノウハウを吸収してしまう可能性も減りそうです。

「作る」や「生み出す」の部分は共通していても、何を求めてそれをするのかによって、適用できるノウハウや守るべき基準といったものも変わってきます。TED動画を参考にして、会社の新商品プレゼンテーションを作る? 論文の形式を守りながら娯楽小説を書く? というのはいささか極端な例にしても、やはり違うものには違うルールがあるわけです。あるいは違うルールがあるからこそ、違うものになっているわけです。

これは同じ人であっても、行為を行う場所によって、何かを変える必要があることも示しています。その辺のさじ加減がわからないと手痛い失敗をしてしまうかもしれません。


たぶんこれは「ライター」とか「ブロガー」とかにも言えるのかもしれませんね。

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本日の日替わりセールに『Evernote豆技50選』が。そしてランキング1位に。でもって、8/24 〜 8/29 今週のまとめ

今週のまとめエントリーですが、その前に臨時ニュース。

本日8月30日、Amazonの「Kindle 日替わりセール」に『Evernote豆技50選』が選ばれております。

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通常価格280円のところ、本日限り99円。

Evernote豆技50選 (Espresso Books)
Evernote豆技50選 (Espresso Books) 倉下忠憲

倉下忠憲 2015-03-29
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よろしければ、この機会にどうぞ。

ちなみに、確認したらKindleの有料ランキングで1位をゲットしておりました。ありがとうございます!

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フォントサイズ256pxぐらいで大騒ぎしたいところですが、さすがに鬱陶しいのでやめておきましょう。

それでは、今週のまとめです。

  1. WorkFlowyからScrivenerへインポート
  2. 【書評】マシュマロ・テスト(ウォルター・ミシェル)
  3. 楽しくなければ……
  4. 目に飛び込んでくる刺激とその解釈__『マシュマロ・テスト』を読み込む 第一回
  5. 成功者の本、後日談
  6. 本日、監修した本が発売となりました。/月くら

なかなか面白い記事が多かった週でした。『マシュマロ・テスト』の読み込みは続けていきます。

今日の一言

今日の一言はこちらでつぶやいております。

8月24日

なにせ途中は完璧にあっているので、「間違っているかもしれない」という発想が出てきません。

8月25日

バランス。

8月26日

作業領域の確保。それがまっさきに行うべきことです。

8月29日

回りとの相互作用を無視することはできません。

今週触った本

買った本・頂いた本

グーグル秘録
グーグル秘録 ケン・オーレッタ 土方 奈美

文藝春秋 2010-05-14
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発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法 トム・ケリー Tom Kelley ジョナサン・リットマン Jonathan Littman 鈴木 主税

早川書房 2002-07-25
売り上げランキング : 9942

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ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵
ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵 トム・デマルコ ティモシー・リスター 松原 友夫

日経BP社 2001-11-26
売り上げランキング : 220582

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歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) マーク・ブキャナン Mark Buchanan

早川書房 2009-08-30
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数学ガール 乱択アルゴリズム (数学ガールシリーズ 4)
数学ガール 乱択アルゴリズム (数学ガールシリーズ 4) 結城 浩

ソフトバンククリエイティブ 2011-03-02
売り上げランキング : 16672

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六花の勇者 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)
六花の勇者 (ダッシュエックス文庫DIGITAL) 山形石雄 宮城

集英社 2011-08-25
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夏の魔物: Out of Standard
夏の魔物: Out of Standard 王木亡一朗

ライトスタッフ! 2015-08-30
売り上げランキング : 4149

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読了した本

日常(8)<日常> (角川コミックス・エース)
日常(8)<日常> (角川コミックス・エース)” /></a></td>
<td valign=あらゐ けいいち

KADOKAWA / 角川書店 2012-10-26
売り上げランキング : 535

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日常(9)<日常> (角川コミックス・エース)
日常(9)<日常> (角川コミックス・エース)” /></a></td>
<td valign=あらゐ けいいち

KADOKAWA / 角川書店 2013-12-10
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悔しくなるくらい面白いですよね。

Kindleのまとめサイトでどうにかこうにか1000日間生計をたてた話
Kindleのまとめサイトでどうにかこうにか1000日間生計をたてた話 きんどう zon 鈴木小波

きんどう 2015-08-29
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アフィリエイトしている人は読んでおいて間違いないでしょう。

読み始めた本

タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書)
タモリと戦後ニッポン (講談社現代新書) 近藤 正高

講談社 2015-08-20
売り上げランキング : 1271

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タモリ本なんだけど、それだけではない。不思議な魅力を持った一冊です。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) ケン・リュウ 古沢嘉通

早川書房 2015-04-22
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抜群の短編集。

明日のメルマガ告知

毎週月曜日に配信しているメルマガ。来週号の目次はこんな感じです。

○BizArts3rd 「優先順位のサンプル」
○SS 「ガラスと鏡」
○あたらしい時代の知的生産の技術 「情報の仕入れ先」
○今週の一冊 「書籍の解体とフラグメント・コンテンツ、氾濫するアメーバ・センテンスや、クリエイターのアイデンティティーと過ぎ去りし書店員の憂鬱、およびキュレーションの価値とホット化したメディアについての詩」
○知的生産エッセイ「独創性との付き合い方」

→メルマガの過去分エッセイは「Facebookページ」にて読めます。

頂いた感想など:

Weekly R-style Magazineは、毎週月曜日の朝7時に配信されているメルマガです。

Weeky R-style Magazine
Weekly R-style Magazine ~プロトタイプ・シンキング~(まぐまぐ)

ブログに書けないテーマ、長期的な連載、日々考えていることなどをお送りしています。

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本日、監修した本が発売となりました。/月くら

超メモ術 ―ヒットを生み出す7つの習慣とメソッド (玄光社ムック) (玄光社MOOK)
超メモ術 ―ヒットを生み出す7つの習慣とメソッド (玄光社ムック) (玄光社MOOK) 倉下 忠憲

玄光社 2015-08-29
売り上げランキング : 8738

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監修を担当させていただいた本が発売となりました。

上のリンクをみると私の単著みたいに見えますが、ムック本で監修担当です。あと文具王も監修に参加されております。

まだ手元に見本誌が届いていないので、全体がどうなっているのかはちょっとわからないのですが、私が担当した部分は以下のような感じです。

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書店で見かけたら、パラパラとご覧ください。


書籍の解体とフラグメント・コンテンツ、氾濫するアメーバ・センテンスや、クリエイターのアイデンティティーと過ぎ去りし書店員の憂鬱、およびキュレーションの価値とホット化したメディアについての詩
書籍の解体とフラグメント・コンテンツ、氾濫するアメーバ・センテンスや、クリエイターのアイデンティティーと過ぎ去りし書店員の憂鬱、およびキュレーションの価値とホット化したメディアについての詩 倉下忠憲

2015-08-27
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一ヶ月遅れの月くらです。

詩です。
ポエムです。
しかも、SF詩です。

ちょっとやってみたかった感にドライブされて作りました。現在進行形で黒歴史を生成しております。

こちらからは以上です。

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成功者の本、後日談

少し前、軽い気持ちで以下のエントリーを書いたら、

成功者の本

思った以上にリアクションが頂けました。ありがとうございます。

私が確認できているものをリストしてみます。

おおよそ回答の方向性は近しいと感じます。

正確に書くのは難しい

「成功者が100%の善意を持って、自分の成功のノウハウを伝えたいと願い、自らの成功の理由を完璧に抽出し、それを再現可能な形で、MECEに沿って、人にわかりやすい文章を用いて書かれた本」

「そうして生まれた本に書いてあることを、実行するだけの動機付け」

かなり確率は低そうですが、バラ色のような上の二つが揃ったとき、はじめて成功を手にすることができるでしょう。ただし、成功に「運」が一切関与しない、という前提がつきます。

運の関与度が2%程度であれば、試行回数を増やすことでカバーできるでしょうが、もしそれが96%ならいささかギャンブルです。というか、それってノウハウあんまり関係なくね? みたいな疑問も湧いてきます。

そうした状況下でのノウハウは、4%の確率を8%ぐらいに上げるもので、相対的にみれば倍の効果がありますが、実質的には微妙な違いでしかありません。もちろん、微妙な違いを笑う人は微妙な違いに泣かされるわけですが。

仮に運の問題を克服できたとしても、やはり本の内容の問題が残ります。

100%善意に関しては良いとして__成功者の皆さんは人を騙して儲けようとは思わないはずですよね。よね。__、「自らの成功の理由を完璧に抽出」が困難です。非常に困難です。

一つにはバイアスの問題があって、何かを過剰に評価してしまっている可能性があります。それでは機能するノウハウは生まれません。仮にそうしたバイアスがない場合でも、「因果の特定」は容易なものではないでしょう。狭い実験室の中の、適切にコントロールされた環境ならばともかく、ここで話題にしているのはいわゆる「社会的成功」です。つまり、多くの人間が複雑に関係し合っている状況です。

人間の認識力だけで、バラフライ効果を解析することができるでしょうか。いささか難しいと言わざるを得ません。

そもそも、蝶が羽ばたいただけで竜巻が起こるわけではないのです。気象的な環境があってこその話なので、仮にバタフライを特定できても「ほら、バタフライ! バラフライ!が原因なんだ」と騒いでしまうのはどうにも違います。でも、『バタフライで年収が10倍』なんていうのが生まれがちなこともたしかです(これは多分にバイアスの影響)。

また仮に、そうしたもろもろが奇跡的にうまくいったとしても、成功者当人が理解していることを、うまく文章に移し替えられるかどうかはわかりません。自分で文章を書いた経験をお持ちの方ならば「考えていることをうまく書けない」というもやもやに晒されたことが何度もあるでしょう。その人が成功者だからといって、文章の成功者であるとは限りません。

総じてみると、成功者の本の危うさはいろいろと見えてきます。

二つのタイプ

というわけで、成功者の自伝的な本に書かれていることを、自分にそのまま置き換えるのはどうにも違うだろう、ということがわかりました。

それはいかにも成功しそうに書いてありますが、成功者が書いてあるのですから後付けの理屈でしかありません。少なくとも、科学的に受容できるものではないでしょう。

ただしそうした本がまったく無価値かというとそういうわけでもなく、単純に読み物として面白い部分はあるでしょうし、ある種の読み方をすれば得られるものもあるでしょう。

その点を考えれば、佐々木正悟さんが指摘されている「人間の一般的な傾向に着目した本」は、より実用的・実際的に読めます。ようは「自分のトリセツ」がそこに書かれているわけで、スペックアップというか自分の持っているスキルや熱意みたいなものをうまく社会的に着地させられる見込みは高まります。ただし派手さはありません。

たぶん、それも問題の一つで、「人間の一般的な傾向に着目した本」は、よしやろう!という気にあまりならないのです。自伝的な本は(短期間であれ)モチベーションを高めてくれますが、こうした本は、ふむふむと頷いても、それで終わってしまう可能性があります。この辺りは難しい問題で、もちろんそれは物書きの仕事なわけですが、一度書き手からの視点を持ってみることで、読み方も変わってくるのではないかと思い、問3を設けました。

さいごに

こうして考えてみると、「本の読み方」というのはかなりの部分がスタンスというか視点の問題だな、ということに気がつきます。食材を活かすのも調理法次第、というのに近しいかもしれません。

それはそれとして、個人的には『ビジョナリー・カンパニー』のようなアプローチで、世間一般に大切だと言われていることでも、成功している人とそうでない人がいることに注目し、そこにある差異を抽出していくような感じの本があると楽しく読めそうです。

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目に飛び込んでくる刺激とその解釈__『マシュマロ・テスト』を読み込む 第一回

書評記事でも書いた通り、しばらく『マシュマロ・テスト』を読み込んでいく。

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 ウォルター・ ミシェル 柴田 裕之

早川書房 2015-05-22
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本来こうした企画はメルマガのBizArtsで行うべきなのだが、現状別のテーマで盛り上がっているので、当ブログで展開していきたい。

マシュマロ・テストの詳細やその周辺的な事柄については一切省略する。興味のある方は本書を直接ご覧頂きたい。

さっそくはじめよう。

マシュマロ・テストの条件変更

実験では、いくつもの条件が変更された。たとえば、報酬でもらえるマシュマロについてどう考えるのか、という点だ。

この仮説を検証するため、実験者は一方の条件では部屋を出る前に、もっちりして甘いマシュマロの味という、ご褒美のホットで欲求をそそる魅力的な特徴を考えるように子どもたちを促した。一方、「クールに考える」条件では、マシュマロのことを丸くふっくらした雲だと考えるように促した。

結果、どうなったか。「クールに考えた」子どもたちは、ホットに考えた子どもたちの倍待つことができた。もちろん、広告業界はこんなテストをしなくてもそのことをよく知っている。

面白いことに、マシュマロを目の前にした子どもに、プレッツェルについてホットに考えるように促すと、やっぱり待つことができた。これが示唆することは興味深い。何かがワクチン的に機能することを予感させる。

また、楽しいことを考えている子どもと悲しいことを考えている子どもでは、前者の方が長く待てる。私たちの感情と決断には、どうやら関係があるらしい。

他にも条件を変えた事例がいくつも紹介されている。重要なのは以下の点だ。

とはいえ、その力は刺激そのものが持っているのではなく、その刺激が頭の中でどのように評価されるかで決まる。したがって、それを頭の中でどう思い描くかを変えれば、本人の感じ方や行動が受ける影響も変わる。

どれだけ美味しそうなマシュマロでも、その子どもが虫歯の真っ最中ならば誘惑に引っ張り込まれることはないだろう。つまり、マシュマロを目にしたら、何が何でも食べたくなるわけではない。大人であれば、有名な評論家が「マシュマロは健康によくありません。こんなデータが出ています」などと言っているのを聞いた後であれば、マシュマロを食べたい意欲は減退しているだろう。

感じ方を変えることが、行動を変える。

おそらく「測るだけダイエット」が行っていることもそれに近しいのだろう。目の前に美味しそうな食事がある。食べればきっと満足できるだろう。ただし、それを食べれば体重が増える、ということが毎日体重計に乗ってグラフをつけていると実感としてわかるようになってくる。つまり、感じ方が変わってくるわけだ。

おそらく「タスクシュート」を使い続けることによって生じる変化も、この辺りに共通点がある。何かに時間を使うと、後々の自分がどうなるのかがわかってくるのだ。

排除できないパターン

そもそもとして、目に入ってくる刺激を排除できるならば、それにこしたことはない。隔離された状態であれば、わざわざクールに考える必要もないだろう。集中して作業するために、ある時間帯はTwitterに接続できないようにする、というのがそうしたアプローチだ。

が、そうしたアプローチが必ず使える、というわけでもない。また、Twitterに接続できなくてもFacebookに接続してしまう可能性はいつだって残っている(別に他の何かでも構わない)。

つまり、戦略の引き出しには、刺激を排除できない状況に対応できるツールも必要なわけだ。

さいごに

一つ言えることは、自制心とはピンク色のカバだけを目にしながら、ピンク色のカバのことを想像しないように我慢する、といったものではない、ということだ。それを自制心だと考えていたら、あらゆる試行が失敗に終わるだろう。いわゆる無理ゲーというやつだ。

目を逸らす、気を逸らす、別のことを考える、別な風に解釈する。

そんな風にして、水の流れを変えていくことで、ついやってしまう行動をとらないようにしていく。

決して、激流の前に立ちふさがり、「僕は流されません!」と壁のように構えたりしてはいけない。当たり前のように流されてしまう。挙げ句の果てに、自分は流されたかったんだと思ってしまう。このあたりの「結果から動機を修正する」も脳のやっかいな(あるいは素晴らしい)性質の一つなのだが、それについてはまた後ほど触れることになるだろう。

とりあえず、もうしばらく「クールに考える」について考えてみるとしよう。

第二回に続く)

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