section #00 頭の奥の工場

「頭の中の工場?」
「違うわよ。頭の奥の工場」
 今月号のWebライターズマガジンのページをめくりながら、アルテさんの話の聞いていたら、どうやら聞き間違えたらしい。あたまの・おくの・こうじょう。ガタン、ゴトン、ブシュー。ガタン、ゴトン、プシュー。
「そこでは、何が作られているの?」
「そりゃいろいろよ。だいたいはアイデアと呼ばれるものだけども」
 僕は工場のラインから、ピカッと光る電球が次々に流れてくるシーンを思い浮かべた。
「君は、その工場の存在を感じたことがある?」
「僕はないかな」
 そう、とアルテさんは少し考え込む。
「その工場はね、頭の奥の方にあるから姿形を見ることはできないの。きっと遠すぎて音も聞こえてこない。でも、私にはその存在が感じられる。ラインが動いている鼓動が、波動のようにはっきりと届くの」
ガタン、ゴトン、ブシュー。ガタン、ゴトン、プシュー。
「どうやらその工場には忙しさに波があるみたいで、とっても騒がしいときと、全然稼働していないときがあるの。稼働していないときは、私はその存在を感じられない。まるで、そんなものなんてどこにもないみたいに。でも、忙しく稼働しているときは、脳内にあたらしい感覚器官が生まれたみたいに感じられる」
 僕は頭の奥の工場で働く人々を思い浮かべる。きっとそこではたくさんのコビトが働いているのだろう。普通に仕事をするコビトもいれば、すごく義務的に仕事をするコビトもいる。もちろん、イヤイヤ仕事をしているコビトだっているはずだ。でも、忙しくなってくれば、やれやれ仕方ないな、という感じでみんなが協力しはじめる。配置されるコビトの数は増強され、ラインの速度もあがる。シフトは24時間の3体制に移行し、全てが慌ただしさと熱気を持って動き始める。日常はどこかに吹き飛び、ただピカっと光る電球を生み出すために資本が集中される。
「工場への資材は大丈夫なのかな?」
「資材?」
「つまり、何かを生み出すためには材料が必要で、ラインの速度が上がれば、材料の消費量もあがるわけだよね。それが枯渇する心配はないのかなって」
「その工場のさらに奥には、地底へと続く洞窟があるの。そして、そこには大きな湖が広がっている。とても湖とは思えないぐらいの大きさよ。ほとんど海といってもいいくらい。その豊かな湖から採集された資源が、工場へと運ばれていくわけ。だから、材料についてはあまり心配することはないわ」
「あまり、ということは心配はあるわけだね」
「そう。でも、それはまた別の物語が必要だわ」
「なるほど。で、アルテさんの頭の奥の工場は今は稼働しているの」
「とおっても忙しく稼働しているわ。だから、こうして話しているの。どこかに出荷しないと倉庫がパンクしそうだから」
「だったら原稿を書けばいいんじゃないのかな。たしか締め切りは今月だったよね」
「もちろん書くわよ。でも、私の執筆時間は決まっているの。いつも通りに書き始めて、いつも通りの時間に書き終わる。そのルーチンを外れたくないの。だから、今はとりいそぎという感じね」
「とりいそぎのアウトプット」
「そう、とりいそぎのアウトプット」
 頭の奥の工場と、真っ暗な地底湖。チャプン、と魚が跳ねる音が聞こえた。

(つづく、かも)

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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