そんなことを言われても

「もう犯人がわかったんですか」
「もちろんだとも」
「ぜひ聞かせてください。密室で殺されたこの科学者は、どのように殺害されたのでしょうか。それに凶器はどこに消えたのでしょう」
「ちょっと考えてみればわかるだろう。犯人は未来からやってきたんだ」
「未来から?」
「このグラスで覗いてみるといい。ドア付近をじっくり見るんだ」
「あっ」
「そうだ。この部屋のガンマ崩壊進行係数が異常値を示している。特にほら、E遷移とM遷移のバランスがおかしいだろう。これは、何者かが時間を超えてやってきたことを示している。断定は難しいが、M遷移の割合から見て未来からやってきたと考えて間違いないだろう」
「だとすれば、この部屋の密室には意味がなくなりますね」
「そもそも、この世に密室殺人なんて存在しないんだよ。密室に見えるだけなんだ」
「なるほど。しかし犯人と凶器はどこに消えたんですか。未来に帰ったとしたら、痕跡が残るはずでは」
「たしかにそうだ。でも、この場合はその心配をする必要はない」
「なぜですか」
「さっきも言っただろう。犯人は未来から、この部屋にやってきたって」
「だとしても……、はっ、そうか。時空間転送の転送先指定にはプライベートキーが必要でしたね」
「そうだ。だから、この部屋に直接転送できた人間は限られている。被害者に身内はいなかったというね。だとすれば……」
「科学者本人が犯人?」
「そうなるだろうね。彼は最先端の素材科学を研究していた。おそらくそこに何か問題が発生したのかもしれない。だから彼は自分で作った素材を持って、過去に移動してきた。そして、その素材を用いて自分を殺した」
「とすると、タイムパラドックス修正圧によって犯人の存在継続可能性が0に修正され……」
「彼自身が作り上げた素材もそのまま消滅してしまう」
「なるほど、これならつじつまがあります。でも、なぜ彼はわざわざ密室を作り上げたのでしょうか」
「おそらく、その意図は無かったんじゃないかな。たまたま過去にやってきたタイミングが密室的状況だった、ということだろう」
「そんなオチで読者は納得しますかね」
「そんなことを言われても、事件は読者のために起きているわけではないからね。それは探偵の管轄外だよ」

Related Posts with Thumbnails
Send to Kindle
Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です