【書評】サピエンス全史 -文明の構造と人類の幸福(ユヴァル・ノア・ハラリ)

圧倒的である。もうそう言うしかない。率直な感想を尋ねられたら「みんな読もうぜ」となってしまう。

360度を捉えるようなパースで「文明史」を記述し、その先の世界について問題を提示する。まずは目次をご覧いただこう。

  • 第1部 認知革命
    • 第1章 唯一生き延びた人類種
    • 第2章 虚構が協力を可能にした
    • 第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
    • 第4章 史上最も危険な種
  • 第2部 農業革命
    • 第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
    • 第6章 神話による社会の拡大
    • 第7章 書記体系の発明
    • 第8章 想像上のヒエラルキーと差別
  • 第3部 人類の統一
    • 第9章 統一へ向かう世界
    • 第10章 最強の征服者、貨幣
    • 第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
    • 第12章 宗教という超人間的秩序
    • 第13章 歴史の必然と謎めいた選択
  • 第4部 科学革命
    • 第14章 無知の発見と近代科学の成立
    • 第15章 科学と帝国の融合
    • 第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
    • 第17章 産業の推進力
    • 第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
    • 第19章 文明は人間を幸福にしたのか
    • 第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ

地球上にまだ複数の「人類」がいたころから話は始まり、そこから「文明」の歩みを辿っていく。上下巻であり、ちょっとボリュームが多いかな、と思われるかもしれないが、話はまるで逆である。よくまあ、この内容を上下巻に収めたな、というのが正直な印象だ。10冊以上の本になってもおかしくない視野の広さが本書にはある。それを一人の著者が書き上げているのだから、もう言葉が出てこない。

考え方を変えれば、ジャンルの違う教養新書を15冊くらいパッケージしたと捉えればいいかもしれない。それが一続きになって読めるのだから、これはもうお得である。なおかつ、本書は読みやすく、面白い。学術的な固さもなければ、博聞強識を誇るようなうんざりする引用の乱発もない。本当に、あっという間に読めてしまう。

そういうもろもろの感情をひと言でまとめると、「みんな読もうぜ」なのだ。

人類とサピエンス

本書のタイトルでは、人類ではなく「サピエンス」という言葉が使われている。これは別にトリッキーさを狙ったものではない。

人類__つまりひとのたぐい__には、本来我々ホモ・サピエンス以外の人類種も含まれている。よって、我々が、自分たちだけを指して「人類」と呼ぶのは、いささか傲慢なのである。その傲慢な呼称には、二つの不都合な事実が隠されていて、その一つは「我々は所詮その他の動物と同じであり、≪兄弟≫もたくさんいたのだが、なぜだか我々だけが今のところ地球上に残り、そして繁栄している」ということだ。我々は別に神の寵愛を受けて生まれたわけではないし、地球の支配者として定められているわけでもない。

本書はその名称をきちんと区分することで、(私たちが一般的に使う意味での)「人類」を相対化する。その上で、なぜそのような生物の一種でしかない存在が、ここまで地球上で猛威を振るうようになったのかを解き明かしていく。それが本書の大半を構成する要素であり、副題の「文明の構造と人類の幸福」の前半でもある。そして、副題の後半は、不都合な事実の二つ目と関わってくる。

本書は、現在(サピエンスの繁栄)を一つの点とし、人類の出発点からそこに至るまでの矢印を伸ばす。となると、次はどうなるか。現時点から未来に向けてその矢印は伸びていくだろう。

それを示すのが、第19章「文明は人間を幸福にしたのか」と続く第20章の「超ホモ・サピエンスの時代へ」である。本書において一番重要なのがこの二つの章でもある。言い換えれば、それまでの章は、「文明は人間を幸福にしたのか?」という問いに向き合うための下準備であると言ってもよい。「我々はこれからどう進めばいいのだろうか?」という問いに取り組むためには、まず「我々とは何か?」について考えなければいけない。本書は、見事にそれを達成している。

さいごに

二つ目の不都合な事実についてはあえて書かないでおく。本書を読んでいれば理解されることだろうし、一つ目の事実から自然と導き出されるものでもある。

その事実は、事実としてぽんと提示されるだけではたいして実感されないだろう。文明史の流れにのせることではじめて質感をもって感じられるようになるのだ。そして、そこで私たちは足を止めて考えることになる。非常に難しい問いについて、きわめて慎重に。

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