目標に水を差す

前回:着手を限定する3プロジェクト・マネジメント その2


前回は、プロジェクトの3つのステージについて書きました。「やりたいこと」は捨てずに貯めておきながらも、行動に近ければ近いほど、それを限定してしまう。そういうやり方です。

これにより、(おおげさに言えば)大志を失わず、かつ現実的な行動を拠り所にできます。

今回は少し違ったお話をしてみましょう。三つのお話です。

移動する価値の基準点

人間というのは、多かれ少なかれ目標を立てるものです。

目標という言い方がきつすぎるなら、抱負や希望、期待という言い方でも構いません。「こうありたい」「こうなって欲しい」「こうなったらいいな」__そんな希求の気持ちを持つことは自然なことでしょう。むしろ、それがあるからこそ、前向きに生きていけるという側面もあるかもしれません。

それはそれで別段かまわないのですが、不思議とその「こうありたい」状態が、価値の基準点になってしまうことがあります。

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現在の状態、つまり「こうありたい状態」にはまだ至っていない状態ではなく、「こうありたい状態」を基準点にしてしまうのです。そこにたどり着けなければ、自分はダメだ、人生は失敗だ、と考えがちなのです。

このような考え方は、だいたいにして人を苦しめます。少なくとも、そこに辿り着くまでの間ずっとマイナスの状態が続くことは間違いありません。

「人が苦しむこと」自体にも、プラスの意義があるかもしれないので、そのすべてを否定できませんが、かといって、わざわざそちらに向けて進む必要もないでしょう。なにせ、生老病死は避けて通れないわけで、結局どこかの時点で人は苦しまなければなりません。仮にそれにプラスの意義があるにしても、余計に荷物を背負い込む必要はないのです。

ともかく、上記の基準点の移動から考えると、目標そのものが人を苦しめているわけではないのです。目標(やそれに類するもの)によって価値の基準点が移動し、現状の状態がマイナスとして捉えられてしまうことが問題なのです。
※あるいは価値の基準点が移動した結果として、目標が表出してくるとも考えられます。

だからといって、頭にメスを入れて脳梁を切断し、未来について何も期待を抱かないようになることが解法かと言われれば、それはちょっと首をかしげたくなります。「人間的な悩みは、人間でなくなれば消失する」というのはあまりに大胆で、いささか取り返しのつかい意見でしょう。

これが一つ目。

移動させられる価値の基準点

行動を生み出すには、動機やモチベーションと呼ばれるものが必要なようです。

だから、新しいノウハウを提供するビジネス書・実用書は、さかんにその動機になるような燃料を提供してくれます。薪をくべてくれるのです。

それはそれで結構なことなのですが、そうして高められすぎたモチベーションは、理想を高い方に押し上げてしまう弊害を生みます。その人では__さまざまな要因から__絶対にたどり着けない地点にまで高めてしまうのです。

しかもそれは、「やってもやらなくてもいいよ」という形ではまず語られません。明示されるかどうかは別として「こうするのが良いんだ」「こうすべきなんだ」「こうなって当然なんだ」という価値観と共に語られます。それがモチベーションを刺激する上で一番効果が高いからです。

結果的に、高すぎる理想が、「そうなって当たり前」の状態として認識されます。価値の基準点を大きく変化させるのです。本人の現実は無視してです。

これが二つ目。

実行を疎外する情報提示

本を読んだとき、そこに有用な情報がたっぷり詰まっていた方が良い気がしますね。どうせなら1から10まで解説して欲しい。より具体的に、より詳細に語られていた方が望ましい。

では、ノウハウ本についてはどうでしょうか。

『なぜ、ノウハウ本を実行できないのか』では、ノウハウ本の内容が実行に移されない理由を三つ挙げています。

なぜ、ノウハウ本を実行できないのか―「わかる」を「できる」に変える本
ディック・ルー ケン・ブランチャード ポール・J・メイヤー
ダイヤモンド社
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  1. 情報過多
  2. ネガティブなフィルター装置
  3. フォローアップの欠如

簡単にまとめると、知識を得ることばかりに注意が向き、いかに実行に移すのかが意識されないこと、うまくできるかどうか自信が湧いてこないこと、短期的なフィードバックサイクルによるフォローアップがないので行動が継続しないこと、この三つです。

これを踏まえると、行動を必要とするノウハウ本の場合、提示される情報は必要最低限であるのが望ましく、さらに「こうなれば完璧」という理想図を提示しない方が望ましく__提示してしまうと「自分にはそんなの無理」となってしまう__、できるだけ短いスパンでループを回していける方が望ましい、ということになります。特に「人によって、それぞれ実行のスタイルが違う」というノウハウの場合は__言い換えれば、職人的な「この通りにやればよい」という”正解”がない場合は__、より顕著にそうだと言えるでしょう。

つまり、ノウハウ本はちょっと物足りないくらいがちょうどいいのです。あまり書きすぎると、その書かれたことが読者を縛りつけます。むしろ余白があった方が、「自分ならどうするかな」という思考が促されるかもしれません。

これが三つ目。

さいご

さて、困った事態となりました。

人は目標(やそれに類するもの)を抱きがちで、それが動機の要因にもなります。ノウハウ書は、その動機を強める情報の提示を行い、懇切丁寧に膨大な量の知識を手渡してくれます。

結果、「知識は得たが、行動は生まれなかった」という状態になりがちです。

人が目標(やそれに類するもの)を抱かずにはいられないように、ノウハウ本も動機を刺激しないわけにはいきません。少なくとも、その力を有していないノウハウ本は、役立たずだと断じられてしまうでしょう。

だから、そう水を差すのです。

人間の前を見る力を否定するのではなく、それを受け入れた上で、いろいろ未来について想像する。そのことは全然悪くありません。生きる意欲を生んでくれたりもします。しかし、それを立てた後で、「いや、ちょっと待てよ」と現実にかえります。「現実的なこと」を考えるのではなく、1日には24時間しかなく、人間には寿命があり、体力や意志力にも限界があることを思い出すのです。

そうなれば、そうやって思い浮かべたバラ色の未来からいくつかを選択する__つまり、いくつかを捨てる__ことができるでしょう。また、「理想は現実ではないから理想なのだ」と気がつけば、価値の基準点が前に行きすぎることも避けられるでしょう。大切なのは、今を歩いて行ける力の方です。

同じように、ノウハウ本も、動機自体は刺激します。でないと、そもそも行動は生まれないでしょう。でも、最後の最後でそれに水を差します。料理の用語で言えば、「締める」わけです。グツグツに煮えた鍋でゆがいた後、すぐさま氷水に移して締めてしまう。そのような仕組みがあれば、ノウハウとうまく付き合っていけるのではないでしょうか。

大切なのは二つの視点を持つことで、もっと言えば、一方向に向きすぎた視線を瞬間的に「戻す」体験を持つことです。

ええ、以下の本についての話ですよ。

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