読書目標からみる目標の浸蝕

「今年はもっと本を読む!」

そう決意することは、おそらくは良いことでしょう。そこで、一年で100冊読了するという目標を立てたとします。なにせ100という数字はキリがいいですからね。

すると、100を12ヶ月で割り算して、8.3という数字が出てきます。一ヶ月でまず8冊読んで、次の1冊の1/3を読む、という感じでしょうか。数字を丸めると、一ヶ月9冊、あるいは8冊という数字が月ベースの目標となります。一ヶ月を30日として計算すると、9冊目標なら、3.3日に1冊、8冊目標なら3.75日に1冊読了すればOKです。言い換えれば、一日に一冊の1/3を読めればいいわけです。

本の平均ページを仮に300とおけば、一日に100ページを読了することになりますし、一日に1時間しか読書時間がとれないのならば、その1時間で100ページを読了することになります。1ページ1分30秒くらいでしょうか。

まともな頭で考えれば、この目標を達成するためには、

1.本を早く読む技術
2.読みやすい本の選択

が必要なことはわかるでしょう。「今年はもっと本を読む!」という目標の設定から、どんな風に本を読むのかと、どんな本を読むのかが方向付けられてしまったことになります。

で、それってやりたかったことなのでしょうか。

根拠less

『「目標」の研究』で書いたことですが、人間は非常に楽観的に目標を立て、計画を立案します。

「目標」の研究
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まず1年間に100冊という最初の目標自体、何の根拠もありません。「そうあったらいいな」という理想であって、現実の何にも依拠していないのです。もしかしたら、そういうことを誇らしげに語る方がいらっしゃったのかもしれませんが、標準偏差でみれば、そのような人はかなり偏った場所におられて平均とはかなりズレているかもしれません。

たとえば、日本人の一年間の平均読了冊数が50冊だと聞いた後で、年間100冊という目標を設定できるでしょうか。あるいは平均数が12冊ならどうでしょうか。

もちろん、理想の地点を目標にすること自体は悪いことではありません。あこがれは立派な原動力となります。しかし、そうして立てられた目標を達成するために、肝心の読書の行為自体が変質してしまうなら本末転倒と言えるでしょう。そこは落ち着いて考えてみたいところです。

Re:目標

年間100冊、月間9冊という目標を立てても、実際一月を終えてみたら、4冊しか読めていなかったという事態に陥るかもしれません。それはかなりがっかりする結果ですが、少なくとも依拠できる何かが一つ確認できたことはたしかでしょう。

加えて、「4冊は読んだ」という事実も残っています。それは捨てたものではありません。あと、案外周りを見てみたときに、一ヶ月4冊も読んでいない人は大勢いるかもしれません。上と比べれば悲惨な気持ちが湧いてきますが、見上げることにキリはありません。そこで視点の切り替えが必要となります。

一ヶ月で4冊読了できたのなら、それを12倍して、48冊を年間目標に再設定するのがよいでしょう。当初の半分以下になってしまっていますが、そもそも100冊という目標自体が何の根拠もなかったのですから、そこはまるっと忘れて大丈夫です。むしろ、その48冊という目標の方を大切にしたいところです。

意欲的な人ならば、もう1冊上乗せして、60冊の目標を設定するのもありでしょう。チャレンジ精神気質が多い人ならば、その方がモチベーションが刺激されることもあります。どのように目標を再設定することも自由ですが、少なくとも当初の100冊にこだわらないようにすることだけは肝要です。それを欠いては、前には進めません。

Re:Re:

でもって、その再設定された目標ですら、通過点なのです。

一月はたまたま調子が良かったり、時間が多くとれたりして4冊読めたのかもしれません。人間生きていれば、トラブルやら不調やらに見舞われます。すると、3冊の月もあったり、0冊の月もあったりするでしょう。平均すれば、2.5冊くらいになるかもしれません。それはまたガッカリする事実ですが、それもまた依拠できる事実です。

そして、その事実を確認すると、「なるほど、読書の時間というのはなかなかとれないものなのだな」という認識が生まれてきます。そのような貴重な果実をどう使うのかという視点は、本選びに影響を与えるかもしれません。与えないかもしれません。

どちらにせよ、そこで立てる目標は、それまでの目標とは数も質も変わってくるでしょう。がむしゃらに冊数を追いかけるのを止めたり、分厚い本に長く熱中したり、一度読了した本をとことん追求したりといった行動が生まれてくるかもしれません。それはそれで、一つの読書のスタイルです。本を読むことは、ステータスを手にすることとは違うわけですから。

さいごに

もう一度確認しておきますが、別に「一年で100冊読了する」という目標を立ててはいけない、という話ではありません。人間は基本的楽観思考ですし、何も依拠するものがなければ、そのような目標が出てくるのは避けられないでしょう。それが避けられると想定してしまうこと自体がある種の楽観思考に彩られています。

ただ、最初に立てた目標を、まるで刷り込みのように(あるいは刻印のように)絶対視しない方が良い、という話です。設定した目標は、状況を踏まえて、現実を織り込んで、再設定していきましょう。

少なくとも、最初に立てた目標を絶対視するあまり、行為そのものを歪めてしまうことは避けたいところです。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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