誤謬と習慣 [タスク管理概論]

なぜタスク管理を行うのか。脳だ。脳に問題があるからだ。

人の記憶はあやふやで、長期的な情報管理には適していない。また、複数の要素を並べて比較し、その中から今やるべき行動を見つけ出すようなことにも適していない。

そのような弱点があるからこそ、タスクを管理する作業が必要になってくる。でもって、この意味合いにおいて、タスク管理と知的生産の技術はかなり重なる。脳の弱点をカバーする、という根源は同じなのだ。

いずれにせよ、タスク管理は脳の弱点を補うために行われるのだから、その思想に人間の弱点が織り込まれていないと、どうしても不自然なものになる。そして、私はそのようなタスク管理を基本的には信用しない。頭でっかちの経済学者が、自説に適合するデータだけを抽出して作り上げた経済モデルと同じようにみえる。

取りかかれない気持ち

タスクリストにタスクが記載されていても、なかなかそのタスクに着手できないことがある。「とりかかった方がよい」と思う自分と、とりかかれない自分が分裂するのだ。

タスクに取りかかれない理由としては、たとえば次のようなものがあげられるだろう。

  • それをすべきかどうかに確信が持てない(≒理由が腑に落ちていない)
  • それができるかどうかわからない(≒自信がない)
  • それをやる体力が残っていない

こうしたものは、基本的に感覚である。だからこそ、タスクの名前を変えたり、細分化すれば着手できるようになる。あるいは、「将来成りたいものを強く思い描けばモチベーションが湧いてきます」というプラシーボ的な力も援用できる。人の感覚は、たとえば視覚なら錯視という現象があるように、対比の力でコントロールできてしまう。そして問題はここにある。

上記のようなハックは、ようするに「とりかかった方がよい」と思う自分が、とりかかれない自分を付き従わせる、という行為である。とりかかれない自分の感覚をねじ伏せると言い換えてもよい。

ではなぜ、「とりかかった方がよい」と思う自分が正しいのだと言い切れるのだろうか。彼が、間違っている(≒誤謬性を含んでいる)可能性はないと言い切れるのだろうか。

Kaziba Power

ポモドーロテクニックというものがある。タイマーを使ったタスク実行法であり、これは単純に言って強力である。私も一時期はたいへんお世話になった。今でも、「ここぞ」というときには使っている。

そのポモドーロテクニックを使い始めたばかりのころの話だ。私はフリーランスなので、時間の裁量はほとんど完全に私にある。だから私は、「一日に何ポモドーロできるのか」という実験をしたくなった。あるいはゲーム感覚と言い換えてもよい。なにせタイマーを動かしてタスクに取りかかれば、集中できるのだ。だとすれば、あとはそのセットを増やしていけば、生産性は増大してく。楽しい感覚だ。マッチョな感覚だ。

4ポモドーロが5ポモドーロになり、それはやがて6、7、8、と増えていった。そして、燃え尽きた。一日にみっちり6時間集中して作業してしまうと、次の日にまったくモチベーションが湧かなくなってしまうのだ。

「火事場のクソ力」という言葉がある。緊急事態には、普段見せないようなすごい力が発揮される、という現象を指すわけだが、「じゃあ、四六時中火事場だったら?」と考えるのがマッチョ型の思想である。

むろん、人間の脳が普段クソ力を出していないことには理由がある。それはリミッターのようなものであって、過負荷を避けているのだ。

このことを踏まえたとき、分裂した二人の自分のうち、「とりかかった方がよい」と思う自分が本当に正しいのかには疑念が湧いてくるだろう。まっとうな疑念である。

習慣と誤謬

習慣の対義は、判断である。

何かが習慣になっているとき、そこにはどのような判断も働かないし、何かしらの判断を必要とするならば、それはまだ習慣になっているとは言えない。

何かの行動を自分に実行させる場合、「習慣にすること」は非常に強力な方法である。そして、あらゆる「非常に強力な方法」と同様に、それは取り扱いに注意が必要なものでもある。

何かが習慣になれば、そこには判断が働かない。状況がやってくれば、実行が発生する。それをノウハウとして利用することは、「とりかかった方がよい」と思う自分の天下であることを意味する。とりかかれない自分に出る幕はない。どんなサインもそこからは発せられない。

ではもし、その天下人が誤っていたらどうなるだろうか。

そのような問いかけが、習慣化には伴っていなければならない。

人の脳には弱点があるのだから。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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