精度と複雑さ [タスク管理概論]

3時間後の天気予報と、一週間後の天気予報は、精度の点で大きく違う。10秒後と一年後ならなおさらだ。

レシートとノート

タスク管理は、規模の小さいうちならば話は簡単である。

私はコンビニのアルバイト時代、一枚のレシートの裏でタスクを管理していた。その日やるべきことを書き入れ、実行すれば横線を入れて消す。その繰り返し。それだけで十分に回っていた。10秒後の天気予報と同じようにややこしい話はどこにもない。備忘録と実行タイミングの制御が、小さな紙片の上で実現されていた。

ややこしくなったのは、店長になってからだ。

まず単純に仕事が増えた。量が増えた。それに種類も増えた。実作業、教育作業、企画・計画作業、経理作業、報告作業。レシート一枚には到底書ききれない。しかも、実行期間が長くなった。アルバイト時代では「その日」のことだけを考えていればよかったが、店長ともなると、店舗のレイアウト変更作業を数日間かけて行う段取りを立てなければならない。そして、他の人の予定を調整しなければならない。レシートにその役目を背負わせるのはあまりにもかわいそうだろう。

そこで私はノートを使った。その辺に売っている__というか、まさにコンビニで売っている__大学ノートだ。今でも大切に保管してあるそのノートは、それまでの学生業で使っていたノートの総数を余裕で上回る。やるべきことを書き、注意すべきことを書き、売上げデータを記録し、クレーム処理を書き込む。そこにはさまざまな情報が書き込まれ、「気になること」もまた保存されていく。

扱う情報が増えたのだ。タスク管理の手法もまた変化しなければいけない。

量が増えただけならばまだいい。それは線形的拡大であり、分散処理でなんとかカバーできる。しかし、種類が増え、期間が長くなったことは複雑性が増したことを意味する。線形的拡大ではないのだ。これまでと同じようにはいかない。

複数の、しかも種類のことなる「やるべきこと」があるとして、その中からどれを「今日やること」に選択するのか。

「今日やること」を選ぶ手順と同じように「一ヶ月後にやること」が選べるのか。今日はこれをして、明日はこれをして、明後日はこれをして、ということを一ヶ月先まで精緻に決定できるのか。

問題は山積みである。

可能性と限定

「今日やること」だけを管理するならば、話はすごく単純で済む。記憶力のよい人ならばツールのサポートすら必要ないかもしれない。が、「今日やること」を管理するのと同じように、「明日やること」「明後日やること」……と拡大していくことは難しい。天気予報と同じである。シミュレーションの精度が徐々に落ちてくるのだ。なぜなら、それは複雑だからである。

状況を限定すれば限定するほど、シミュレーションの精度は高くなる。「仕事で今日やること」がうまくいくのはそのためだ。でも、たとえば「今日」というフレームを外せばどうなるか。あるいは「仕事で」という限定を解除すればどうなるか。

そう考えたとき、「一年後の自分をどうにかする」というノウハウは、かなり眉唾であることを覚悟した方がいいことがわかる。あるいは、人生の可能性を著しく狭めてむりやりシミュレーションできる形に追いやっているのかもしれない。限定すれば精度が上がるのだから、それは一つの手ではあろう。ひどく息苦しい思いをするはめに陥るとは思うが。

さいごに

「できるだけ単純な方がいい」

それはその通りだろう。心理的にも脳の省エネ欲求的にも理はある。

が、問題は現実に起こる事象の総体__つまり、人生__は複雑だ、ということだ。複雑なものを単純なもので管理するためには、対象を単純化するか、手法に再帰的なものを組み込むしかない。前者はある意味での自己洗脳であり、後者はレビューだ。前者はひどくつまらないようにも感じるが、その手法でしか辿りつけない場所もあるだろうから、特に批評はしない。

でも、もう一つの手もある。単純な手法だけで管理できるものだけを管理し、そうでないものは管理しない、という方法だ。これもこれで、選択肢であるとは思う。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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