短編に比べると長編はたいへんだな、ということ #DrHack

懲りもせず、新刊『Dr.Hack』について。

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以下のような感想を頂いて、とても喜んでいます。

まさにそういう雰囲気というか空気感を楽しめるのも小説の良いところですね。エッセンスの情報だけではなく、それを包み込む雰囲気もまたメタ・メッセージなわけです。そしてそれを描くためには、それなりの文字数が必要となってきます。

というわけで、今回は小説と分量の話なんかを。

短いから長いへ

私は小説も書くのですが、これまではどちらかと言えば短編志向でした。短いものが多いのです。

今までに出した本を並べてみると、

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短い、

Category Allegory
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ショートショート集、

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全体の半分は解説パート、と丸々の長編は一つもありません。その意味で、本書は初めての長編作品です。なにせ10万字ほどありますからね。

で、短い作品と長い作品の何が違うのかと言えば、それはもちろん長さなのですが(当たり前)、それに付随するさまざまな違いも生じます。

たとえば、推敲に時間がかかります。10万字の小説は、2万字の小説の(最低)5倍は時間がかかります。だから、2万字のものと同質の推敲クオリティを維持するならば、その作成期間は相当長く見積もっておかなければなりません。単に書くだけでも長い方が時間がかかるわけですが、推敲の回数が多ければ多いほど、全体の長さの違いは作成期間に強い影響を与えることになります。

今回の感覚から言うと、一ヶ月に一冊のペースでは10万字の本はたぶん難しいでしょう。最低でも二ヶ月、余裕を持って三ヶ月は欲しいところです。

でもって、それに関係して、タスクの粒度がだいたい大きくなりがちです。2万字の推敲ならば、一呼吸の作業ですが、10万字の推敲ならば五呼吸となります。それをいっぺんにやろうとすれば、間違いなく面倒になります。規模が大きいならば、タスク分割の技法は必須でしょう。短編ならば勢いでも押し切れますが、長編だとそうはいかないわけです。戦略が必要なのです。

で、これまでは基本的に単純な文字数の話だけしてきましたが、もちろんそれだけではありません。10万字の一つの物語では、制御しなければならないものがたくさんあり、しかも複雑に絡み合っています。主人公というものの自己同一性、それぞれのキャラクターの話し方、場面や環境設定の整合性、といったものを全体を通して整えていかなければなりません。挙げ句の果てに、それが単調にならないように、リズムと変化をつけていかなければならないのです。

幸いというかなんというか、Dr.Hackは一応一つの物語ではありますが、どちらかと言えば全5編の短編の集まりに近いものです。実際は、話は続いている(前の話に、次の話が影響を受けている)ので、純粋な短編集ではありませんが、少なくとも、話と話は分断されているので、制御しなければならない要素は通常の長編よりは少なかったと言えるでしょう。もちろんこれはこれで、また別の制御要素が生まれてきたと言えるわけですが、複雑さの指数は減っていたかと思います。

とは言え、やはり『Category Allegory』などに比べると、今回の推敲はたいへん疲れました。文章というか文体の制御に、体力的なものの必要性を感じずにはいられません。よく使われるたとえを用いれば、それはまさにマラソン的執筆活動です。今こうして書いている文章なんて、ショートダッシュみたいなもので楽チンではあるのですが、これをいくら繰り返しても、マラソンの達人にはなれないでしょう。

今回の推敲作業を通して、そんなことを強く感じました。別の引き出しが必要なのです。

それはそれとして、今回のこの『Dr.Hack』は一年以上かけてメルマガで連載してきたものであり、「毎週コツコツ2000字書くのを一年続けて長編を作る」という試みの初めての達成だと言えます。おそらく今後も似た形で、「連載→長編の本」という本作りを行っていくことでしょう。これはかなり有用なスタイルだと個人的には感じます。

ただし、今回は連載終了後すぐに本の作成に取りかかったわけではなく、かなり長い期間が空いていたので、ちょっとした困難もありました。本にしてまとめる文章が、ほとんど別人のものなのです。別の言い方をすれば、今の自分ならこう書かないだろうな、という風に思えるのです。だったら、初めから書き下ろせば(書き直せば)という発想も出てきますが、たぶん今の私が書いたら、この雰囲気を持つ作品にはなっていないでしょう。そういう予感めいたものがあります。やはり、そのときにしか書けない物語はあります。世界を見る目が変われば、紡がれる物語も違ってきます。

だからこそ、今書ける物語を全力で書き残していく必要があるのではないかな、と思ったりもしています。出来の善し悪しはあれ、ただ全力に、精一杯に。

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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