Posts tagged: アルテさんと僕

Episode 1-2(アルテさんと僕)

「じゃあ、作ってみればいいじゃない」とアルテさんは言った。
「作るって何をですか?」
「決まってるじゃない。本を、よ」
「自分で本を作れってことですか、そんなの無理ですよ」僕は首を振って言い返す。アルテさんはときどき突拍子もないことを言い出すのだ。たしかに本を書いてみたい気持ちはあるが、だからって自分で本を作るだなんて、ジョークにもならないだろう。
「なぜ?」
 アルテさんは心底不思議そうに聞いてきた。
「なぜって、僕、そんなことやったことないですよ」
「で?」
「でって……」
「悪いけど、ちょっと論理のつながりがわからない。やったことがないのはわかる。で、なぜそれが無理になるの?」
「知識も経験も無いんですよ!」僕は少し強めに言い返した。
「知識は覚えればいいし、経験は積めばいい。無理な理由にはならない」
 アルテさんは淡々と切り返す。まるで真理の掲示板を読み上げているかのようだ。
「そりゃ、理屈はそうですけど……」
「理屈じゃないとしたら、何が問題なの?」
 アルテさんの瞳には好奇心の光が宿っている。本当に興味があるのだ。別に僕をバカにしているわけではない。
 僕はネクスト反論ズボックスに積まれていた言説をなぎ払い、自分の心に目を向ける。一つの箱を見つけ、それを開く。そしてその中身をじっくりと観察する。
 僕はアルテさんに言った。
「そうですね。たぶん、怖いんだと思います」
「怖い? 本を作ることが?」
「そうではなく、たぶん失敗することが」
 ふむ、とアルテさんは沈黙した。僕も押し黙り、もう一度箱の中をのぞき込む。
 長さの分からない時間が過ぎていく。
 気がつくと、アルテさんは人差し指を伸ばしていた。その指がぐるぐると宙を踊る。何かを指揮しているような、あるいは空中にある見えない透過ディスプレイを操作しているような、そんな動きだ。僕はその動きに吸い込まれていく。
 何の前触れもなく、その動きが突然止まる。アルテさんの瞳には、先ほどと同じかそれ以上の輝きが宿っていた。
「恐怖心を理屈で消すことはできない。別のレイヤのことだから。だからその恐怖心を、どこかにやることは不可能」
 そう言ってひと呼吸置いてから、ニヤりと笑ってアルテさんは続ける。
「現時点では、ね」
「だったら、いつ消せるんですか」
 まるで魔術にかかったように僕は聞き返す。まさにその問いをアルテさんは求めていたのだろう。すぐさま答えが返ってくる。
「いつか、慣れたとき」
 その答えに僕は拍子抜けしてしまう。いつか、慣れたとき。そりゃ、慣れたら恐怖心は消えるだろう。でも、それまではどうするのだ。
「最初のうちは誰だって怖い。でも、それでも歩いて行くの。恐怖心は影のように付いてくるし、ときどきに君に何かを語りかけてくるかもしれない。でも、それでも歩いて行くの。必要なのは恐怖心を消すことじゃない。そんなことをしたら、大切な別のものまで消えてしまうわ。手の影に怯えているからといって、手を切り落とせば済む話じゃないでしょ。本当に必要なのは、恐怖心があっても前に一歩踏み出すこと。そういう歩き方に慣れることよ」
 そう言いながら、再びアルテさんの人差し指は踊っていた。僕はその指を見つめる。
 はたしてそんなことができるだろうか。僕は自分の影を想像する。その影は、夕暮れのそれと同じでひどく大きく誇張されている。実際の僕よりもはるかに大きい。その影が僕を見上げている。あるいは見下ろされているのは僕なのだろうか。
 アルテさんは、換気扇を回すように言った。
「もちろん一人では厳しいかもしれない。でも、大丈夫よ。君には私が付いてるじゃない」
 屈託なくそう言うアルテさんに、僕は頷き返すことしかできなかった。

(Episode 1-3に続く)
(Episode 1-1もいつか書きます)
 

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Scrivener→でんでんコンバーターで気をつけたいこと(アルテさんと僕)

「アルテさん、助けてください!」
「何?」
でんでんコンバーターでEPUBファイル作ったんですけど、エラーが出ちゃってうまく表示されないんです」
「エラー文でググってみて」
相談はそれで打ち切り、と言わんばかりに本のページをめくるアルテさん。
「いや、一応僕もウェブ時代に生きていますから、それぐらいはやってみましたよ。でも、英語のページばっかりでさっぱりなんです」
「ウェブ時代に生きてるんだったら、英語ぐらい読めないとね」
ページをめくる手は止まらない。厚みのある文庫本は、まだはじめの方だ。きっと買ってきたばかりの新刊なのだろう。
「ア・ル・テ・さん!」
目一杯のアピールをすると、やれやれと大げさに首を振ってから、アルテさんは机に本を置いた。
「どんなエラー?」
「Char value 12なんちゃらっていうのが出てくるんです」
眉をぴくりと上げたアルテさんは、「みせて」と僕のノートパソコンを引き寄せる。

screenshot

「どうやってこのEPUBを作ったの」
ほとんど詰問口調でアルテさんが尋ねてくる。
「ええっと、この前教えてもらったScrivenerというアプリで、テキストファイルを作って、それをでんでんコンバーターにアップしたんですが……」
「そのファイルは? テキストじゃなくて、おおもとの方」
「これです」
えらく画面に近いアルテさんの顔に遠慮しながら僕はキーボードを叩く。
「ちょっといい?」と僕の返事を待たずに、アルテさんはトラックパッドに指を置く。繊細な長い指。ピアノの鍵盤が似合いそうだ。
「これね」

screenshot

ディスプレイにはCompileの設定ウィンドウが表示されていた。「このPBが悪さをしてるの」。アルテさんは、画面右の小さい文字を指さす。そこには「Pg Break Before」とあった。
「Pg Break? プログラマーをぶっ壊すってことですか。なかなか物騒ですね」
「その発言の方が物騒だと思うけど」
コホンと咳払いを一つしてから、アルテさんは続ける。
「PgはPage。Page Breakで改ページの区切りってところね」
「それをBefore?」
「そう、ようするにこのテキストの後に改ページを入れます、というのがこのチェックマークの意味」
「それを入れるとどうなるんですか」
「もちろん改ページされるわよ。テキストファイルでは意味がないけれども、たとえばPDFでコンパイルしてみればわかるわ」
「これが何か悪さをしてるんですか」
「まあ、そうね。さっきのEPUBのもとになったテキストファイルを開いてみて」
アルテさんが立てた指をクルクルと回す。
僕は、tab + commandでアプリを切り替える。ちょうどさっき開いていたところだ。

screenshot

「ほら、ここ」とアルテさんが指さす。
「何かありますか?」
「よく見なさいよ」
「この横棒ですか?」
「そう、それがChar value 12ね。その行を削除してみて」
言われた通りに、僕は行頭でdeleteキーを押す。

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「ほら、消えたでしょ。これならエラーは出ないわ」
「ということは、さっきのコンパイルの設定でチェックマークを外せばOKなんですね」
「まあ、そうね。ただし、注意する箇所がもう一つ」
「もう一つ?」
「Scrivenerだと、コンパイル時にSeparatorsの設定ができるの。テキストとテキストの間とかテキストとフォルダの間に、任意の文字列なんかも潜り込ませられる。そこにも、Page breakがあるから、そこもチェックしておいた方がいいわね」

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「なるほど」
パタパタとチェックマークを外し、Separatorsの設定も確認する。アルテさんはじっとその作業を見つめている。テキストファイルでコンパイルし、一応その中身も確認する。変な横棒はついていない。
でんでんコンバーターにそのファイルをアップロードして、iBooksで確認。

screenshot

エラーはどこにもなかった。
「ありがとうございます」
僕がそう言うと、コクリとアルテさんが頷く。
「ところでその本、面白そうね」
「でしょ。といっても、まだ取りかかったばかりなんですが。完成したらまっさきにアルテさんにお見せしますよ」
ありがと、とだけ言ってアルテさんは自分の席に戻っていった。再び文庫本に手が伸びる。僕も原稿の手直しに戻る。
ぱらりぱらり、カタカタ、カタカタ、という音だけが部屋に満ちていた。


<アルテさんと僕シリーズ>

でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法(アルテさんと僕)
でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法2(アルテさんと僕)
でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法3(アルテさんと僕)

でんでんコンバーターで改ページする方法(アルテさんと僕)

でんでんコンバーターにアップできるファイル(アルテさんと僕)

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でんでんコンバーターにアップできるファイル(アルテさんと僕)

「今日は、でんでんコンバーターにアップできるファイルについて説明するわ」
思わず僕は「えっ」と聞き返す。
「たしか、でんでんコンバーターって、テキストファイルからEPUBファイルを生成してくれるんですよね」
「そうね」
「だったら、アップロードするファイルはテキストファイルだけじゃないんですか」
「ばかね。だったら表紙画像はどうするのよ? アスキーアートで描写する?」
「そうか、表紙は画像ファイルなんですね……」
「えらくテンションが落ち込んだわね。どうしたの?」と小首をかしげるアルテさん。
「いや、昔から美術の成績だけが悪くて。表紙の画像なんてうまく作れる気がしません」
「まあ、一応はテキストファイルだけでもEPUBファイルは作れるわ。販売目的じゃない場合は、それで十分かもしれないわね」
「販売目的なら?」
僕が尋ねると、びしっと指を突きつけてからアルテさんは言った。
「そりゃちゃんと表紙は作らないと。でないと、まったく売れないわよ。表紙は本と読者のファースト・コンタクト。お見合いに行くなら、きちんと服装を整えるでしょ。それと同じことよ」
「だったら、僕は諦めた方がいいですね……」
「あのね、そのやる前から匙を投げる性格はなんとかならないの? 今なら表紙に使える無料画像もたくさんみつかるし、そもそも自分で作らなくたって、他の人に頼むこともできる」
「でも、僕、絵の上手い知り合いとかいませんし……」
「あ〜〜も〜〜、イライラする。だったら、知り合いを作ればいいでしょ。美術部とかに潜り込んで、イラストに興味がある人と仲良くなればいいでしょ。男なんだから、長年鍛え上げたナンパテクニックを駆使しないでどうするわけ?」
いったい、どんな偏見だよ。そんなテクニック鍛えたこともないよ……。
「ともかく、表紙画像作りも視野に入れておきなさい。表紙だけじゃなくて、挿絵なんかも一緒だからね」
「なるほど」
「じゃあ、さっさと説明に戻るわ。でんでんコンバーターにはテキストファイル以外にも、いくつかの種類のファイルがアップロードできます」
「ふむふむ」
「まずはテキストファイル。これは当然ね。本文にあたるファイルです。ちなみに複数のファイルもアップ可能よ」
「複数アップするとどうなるんですか?」
「GQ! その場合は、ファイル名の順番で処理されるわ。main01.txt、main02.txt、main03.txtという三つのファイルをアップしたらこの順で表示されることになります」
ジーキュー? Good Question? まあ、いいや。
「画像ファイルも複数アップロードできます。フォーマットは、PNG、JPEG、GIFに対応しているわ。基本的なものはALL OKね。画像の使用箇所は、本文内で指定するからファイル名はなんでも構いません。でも、表紙画像に使うファイルは「cover」をにすること。つまり、≪cover.jpg≫≪cover.png≫≪cover.gif≫のどれかになります」
「なるほど」
「あとファイルの大きさは3MBまで。これは画像ファイル以外にでも言えることだけど、まあ、テキストで3MBを越えることは、ちょっと考えにくいわね。とりあえず画像ファイルの大きさには注意しましょう。解像度を大きくすると、3MBなんてあっという間に越えちゃうから」
「3MBを越えなければ何でも良いんですか?」
「GQ!」
また出た。
「一度にアップできるファイルの数は50個まで。画像をこれでもか!っと使う場合はちょっとしんどいかもしれないわね。そうでなければ、50個もあれば十分でしょう」
「ということは、詳細な解説書なんかは難しい?」
そうね、とアルテさんは頷く。どんなツールにも得手不得手があるものだ。でんでんコンバーターの説明にも<文字を中心としたコンテンツの制作に幅広く利用できます>とあるらしい。つまり、その逆は苦手ということだ。でも、当面僕の作りたい本では問題ないだろう。
「この二種類のファイル、テキストファイルと画像ファイルで基本的なEPUBは作れます。ただし、でんでんコンバーターではもう二種類ファイルのアップロードを受け付けてくれています」
「もう二つ?」
「そう。一つはCSSファイル。前に説明したわね」
「はい。脳に刻み込まれています」
「よろしい。デザインを変えるときに使えるので覚えておきましょう。ただし、アップロードできるCSSファイルは1つだけなので注意して。HTMLだと複数のCSSを当てる場合があるけれども、でんでんコンバーターではそのやり方は使えません」
「わかりました」
「最後の一つが、設定ファイル」
「設定ファイル?」
「そう。ddconv.ymlという形式のファイル」
「そんな拡張子、はじめて見ましたよ」
「まあ、そうでしょね。でも、気にしなくても平気よ。サンプルファイルが準備されているから、それにちょこちょこ手を入れるだけで使えるわ。あと、普通のテキストエディタで編集できます」
「そのファイルをアップロードするとどうなるんですか?」
「普通ではできない細かい設定が可能になるわ。逆に言うと、はじめのうちは使わなくてもいいし、デフォルトの設定で満足している場合も使わなくて大丈夫。たとえば、書誌情報として著者以外の作成者名を入れたい場合なんかに活躍してくれるわ」
「編集とか、そういうのですか」
「もちろんそれもあるし、他にも監修とか翻訳とか解説とかイラストとか、いろいろあるわね。そういう人たちの名前を本の情報に入れたい場合は、設定ファイルを使うといいわ。設定ファイルにも解説が載っているから、必要になったら読んでみること」
「わかりました。……これで全部ですか?」
「う〜んと、そうね。だいたいはこれくらいかしら。あとは、一つだけおまじないを覚えておいて」
「おまじない?」
「ええ。簡単よ。『文字コードはUTF-8』。意味はわからなくていいから、これをぶつぶつと念仏みたいに唱えておいて」
「『文字コードはUTF-8』ですね。わかりました」
「じゃあ、今日のところはこれまでとします」
「ありがとうございます」


<アルテさんと僕シリーズ>

でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法(アルテさんと僕)
でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法2(アルテさんと僕)
でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法3(アルテさんと僕)

でんでんコンバーターで改ページする方法(アルテさんと僕)

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でんでんコンバーターで改ページする方法(アルテさんと僕)

「アルテさん、ちょっといいですか」
「何?」
そう言いながらも、アルテさんはディスプレイから視線を外さない。高速で画面をスクロールさせているので、きっと資料集め中なのだろう。
「さっき試しにでんでんコンバーターでEPUBファイルを作ってみたんですよ」
「へぇ」
スクロール。スクロール。
「で、気になったところがあって」
「ふぅん」
スクロール。スクロール。
……。ごほん。
「作ったEPUBファイルをiBooksで読んでみたんですが、特に問題なく、というか綺麗に仕上がってました」
「でしょうね」
「でも、文章が切れ目なく続いていくんですよ。でも、前にアルテさんからもらった『名もなき魔女は、森の奥で静かに泣く』は章ごとにページが切れているんですよ」
急にアルテさんはくるっと向き直り、こちらに顔を近づけてくる。
「で、面白かった?」
「えっ?」
「面白かったかって聞いてるの」
「あぁ、作品の話ですか。面白かったですよ。序盤ちょっと説明的すぎてもたついている感はありますけど、中盤から一気に引き込まれました。特に魔女が鏡に吸い込まれていくところなんて圧巻です」
そう、とだけ言ってアルテさんは黙り込む。妙に視線を合わせようとしない。
「もしかして、あれってアルテさんが書いたんですか」
コクリ、と頷くアルテさん。
「だったら先に言ってくださいよ」と不満を返す僕。面白いという感想だったから良かったものの、こき下ろしていたらと思うと背筋が寒くなる。
「……だって、ちゃんとした感想が欲しかったから」
作品のことになると、普段の気の強さは台風に吹き飛ばされたかのようにどこかに行ってしまう。こちらも調子が狂う。
「あ、いや、その……、ちゃんと言いますよ。面白かったら面白いと、詰まらなかったら詰まらないと」
「ホントに?」
「もちろん」
「じゃあ、次からはちゃんと言う」
「お願いします」と言って話が終わりかけたが、僕の問題はまったく解決していなかった。
「で、本は面白かったんですが、この文章の区切りはどうやって作っているんですか?」
こほんと咳払いをし、少しずれた眼鏡を直すアルテさん。たったそれだけのことで身に纏う雰囲気が一変する。
「それは改ページのことね」
「改ページ?」
「そう。名前の通りページを改めるということ。電子書籍の場合、ごく普通に作ればページの切れ目なく延々と文章が続いてしまうの。Webサイトでもあるでしょう。やたら縦に長いページが。ああいうのと同じね」
「なるほど」
「だから、どこかでページを改めたければ、その指定が必要なの」
「ははぁ。わかりました。たぶんBRタグみたいなのがあるんですね。PBRタグとか、そういうの」
「残念ながらハズレ。でも、発想の方向は悪くない。HTMLタグではなく、CSSでコントロールするの」
「CSSって、たしか文字サイズを変えるやつじゃなかったでしたっけ?」
「それはCSSの機能のごく一部。もっと幅広いことができるし、改ページもその中の一つ」
「じゃあ、どうやって指定するんですか?」
前のめりに尋ねる僕に、アルテさんは右手を伸ばして抑止をかける。
「ちょっと待ってね。その前に、でんでんコンバーターを使って改ページを入れる場合、大きく二つの手法があるの」
「ふむふむ」
「まず一つが、ファイルを分割すること」
「ファイルを分割」
「そう。前にも言ったけどEPUBファイルの中身はさまざまなファイルの詰め合わせになっている。で、本文に当たるものはxhtmlファイルが担当する。ようするにWebページね。さて問題。ものすごく容量の大きいWebページを開いたらどうなる?」
「そりゃ回線の速度によっては、表示が遅れるでしょうね」
「その通り。で、EPUBファイルでも同様の問題が懸念される」
「なるほど」
「なので、文字数の多い電子書籍は一つのxhtmlファイルではなくて、いくつかのファイルに分割しておくのが一応のマナーです。でんでんコンバーターだと、半角のイコール記号3つ以上で構成された行を入れると、そこでファイルを分割してくれます。で、そこで自動的に改ページが行われるの」
「つまり、ファイルとファイルの切れ目が、ページとページの切れ目になるってことですね」
「そうです。で、まずはこの方法を使うと良いと思う。簡単だから」
「ちなみに、もう一つの方法って、さっき言ってたCSSを使うんですよね」
「そう。これはファイル分割をせず、ただ単に表示上で改ページを入れるの。一応説明しておくと、page-breakを使う。page-break-beforeはその要素の直前に改ページを、page-break-afterはその要素の直後に改ページを入れる。たとえば、次のように書けば、h2タグの直前に必ず改ページが入る」
アルテさんがディスプレイに向き直り、タタタとキーボードを打ち込んでいく。

h2 {
page-break-before: always;
}

「alwaysは常に、という意味ですよね。他にはあるんですか」
「いくつかあるけど、覚えておくのは≪auto≫と≪avoid≫の二種類だけでいい。≪auto≫は特に指定しないという意味で、これがデフォルトの設定。≪avoid≫は絶対に改ページしないという指定。二つの要素を別ページで表示させたくないときなんかに使えるわね」
「なるほど。page-break-afterは逆の使い方になるわけですね」
「まあ、あまり出番はないかもしれないけど。ページ最後のPタグに指定したり、あるいは空っぽのspanタグをページの最後に置いたりすれば使えると思うわ。やったことないけど」

span.end {
page-break-after: always;
}

「わかりました。とりあえずファイル分割での改ページにチャレンジしてみます」
「がんばって。まあ、イコール3つ入れるだけだから、失敗しようもないと思うけど」
僕が自分の端末を立ち上げると、アルテさんもスクロール作業へと戻っていった。作文部の部室に、再び静寂が戻る。

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でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法3(アルテさんと僕)

その1:でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法(アルテさんと僕)
その2:でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法2(アルテさんと僕)


「さて、前回のお話は覚えているかしら?」
「アルテさんの寝相がすごく悪い、という所まででしたね」
「どうやら脳がハッキングされているみたいね。はやく電源を落とさないと!」
「ちょっ、それで殴られた重傷じゃすみませんよ」
いったいどこから出てきたのか人の身長ほどある万年筆を振りかぶるアルテさん。「君がしょーもないこと言うからじゃないの」
「ジョークですよ。ジョーク。アイスブレイクとしてのジョーク」
はははっと乾いた笑い声をあげる僕。アルテさんの視線は、空気中の窒素すら凍てつかせる直前だ。
「とにかく本題に戻りましょう。前回紹介したように、スタイルの変更は全体に影響を与えます。でも、特定の部分だけ変えたいときもありますね」
「はい」
「そういう場合には、2つ方法があります。1つは、classかidをあてること。もう1つは、直にスタイルを書くこと」
「……なんか一気に難しそうになりましたね」
「そうでもないんだけど、CSSを知らないと難しく聞こえるかもしれないわね。じゃあ、classとidについては後回しにしましょう。今回は直にスタイルを書く方法に限定するわ」
「それだと簡単なんですか?」
「簡単というか、シンプルね。たとえば一箇所だけ見出しの文字を大きくしたい場所があったとしましょう。でんでんマークダウンだと、次のように書けば三段階目の見出しになるわね」

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「はい。そうなります」
「これは実際の所、次のように書くHTMLと同値なの」

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「というか、###で囲った部分がこのように変換されるということね。だから、変換後の形をそのまま書いても問題ないわけ。ここまではOK?」
「なんとか、大丈夫です」
「よろしい。この形で記述すると、タグの中に直接スタイルを書くことができます」
「タグというのは<h3>ですね」
「そう。つまり、こうなります」

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「こうすると、他の見出しのスタイルはそのままに、この箇所だけ表示を変更できます。この場合だと、文字サイズの変更ね」
「ふむふむ。つまり、CSSファイルの中に書くことを、ここに直接書いちゃうわけですね」
「そうです。そして、CSSファイルに同じ要素に関する指定があっても、直に書いた方が優先されます」
「優先?」
「たとえば、CSSファイルでh3にfont-size:1.1em;のスタイルが設定されていても、直にfont-size:1.3em;と書けば、そうして書いた部分だけは1.3emになる、ということ」
「指定が上書きされる、ということですね」
「まあ、そんなところね」
「でも、CSSファイルだと複数のスタイル指定ができましたよね。直に書く場合はどうなるんですか」
「改行を入れずに、そのまま連続して書けばOK。可読性はあまりよくないけど、ちょっとぐらいの変更なら気にならないと思うわ」

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「なるほど。把握しました。なんとか、これで細かい変更もできそうです」
「まあ、これはあまりスマートな方法じゃないんだけど、小さい問題ならいけるでしょう。後は、どんなスタイル指定ができるかをマスターするだけね。それは<練習問題>でやってみましょう」
「わかりました」
「じゃあ、今回の講義はこれまでです」
「ありがとうございます」

(でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法編 終)

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でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法2(アルテさんと僕)

その1:でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法(アルテさんと僕)


「できました」
ダウンロードしたファイルを解凍し、中に含まれていたdefault_vertical.cssを開く。テキストエディタには200行ほどのコードが表示された。

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「これが標準のスタイルシートね。私たちがテキストファイルだけで電子書籍を作成すると、このシートが自動的に適用されるわけ。シンプルだけど必要最低限な要素がきちっと押さえられているわ。美しいスタイルシートね」
「はあ……」
トラックパッドを操作して、アルテさんはエディタの表示をスライドさせていく。一行ごとはとても短いが、何が書いてあるのかは僕にはわからない。ときどき単語が読み取れるぐらいだ。でも、アルテさんはそこに何かを見出しているのだろう。夢中になっているのか顔がどんどんディスプレイに寄っていく。それはつまり僕の顔に近づいてくるということなのだが、特に気にした様子はない。ふんわりとした香りが僕の左すぐ横から漂ってくる。
「CSSのすべてを説明するのは尺的に難しいから、ごく基本的な要素に絞ります」とアルテさんは言った。すがすがしいほど事務的な口調で、雰囲気という文脈は粉々に砕け散った。
「……はい」
「そんなに残念がらなくてもいいわ。基本がわかれば応用が利くし、Google大先生にお尋ねすればわからないこともフォローできるはずよ」
「……はい」
僕のリアクションがいまいち飲み込めないのか、小首をかしげるアルテさん。しかし、0.25秒後には気を取り直して説明を続ける。「わかりそうもないことは気にするな」がアルテさんのモットーなのだ。
「まず、スタイルシートの基礎を押さえるわね」

h1 {
font-size: 2em;
margin-right: 0.625em;
margin-left: 0.625em;
}

「これはHTMLのh1タグのスタイルを指定している部分。h1は、でんでんコンバーターでは何で表現するんだっけ?」
「シャープマーク一個(#)です」
「その通り。この箇所では、#を付けた部分の表示スタイルを指定しているの。具体的には、フォントサイズを2emにして、左右のマージンを0.625emに指定している」
「フォントサイズは文字の大きさということですよね」
「だね」
「でも、emという単位がよくわかりません。あとマージンって利ざやのことですか?」
「一つ一ついきましょう。emは、文字の大きさを基準にした単位なの。詳しい話をまるっと割愛すると、1emは標準の文字の大きさ、2emは標準の文字の二倍の大きさ、となります。この場合であれば、h1の文字サイズは普通の文字の2倍にせよ、ということ」
「なるほど」
「あと、マージンだけど、これは”余白”とか”空白”という意味。margin-rightはh1の右側に開ける空白、margin-leftは左側に開ける空白の広さを指定しているの」
「なるほど。売上高から売上原価を差し引いて残った部分が”利ざや”ですからね」
「よくわからないけど、理解してくれたのならそれでいいわ」
「ということは、このh1の左右の空白は、文字一個の半分よりちょっと広いぐらい空く、ということですか?」
「そういうことね」
「では、”font-size: 2em;”を”font-size: 3em;”に書き直せば、h1はもっと大きくなる?」
「そうなるわね。オススメしないけども」
「ちなみにこの指定は、電子書籍内に登場する全てのh1に適用されるんですか?」
「もちろん。それがスタイルシートの強力さの一つでもあるわ。ただしh1は頻繁には登場しないわね。h1はトップの見出しだから、本のタイトル部分にだけ使われるのが一般的」
「なるほど。他の要素はどんなものがあるんですか」
「たとえば、font-familyがあるわ。要するにフォントの指定よ。”font-family: serif, sans-serif;”は、セリフがあればセリフに、なければサンセリフに指定して、という表記なの。書き方を逆にして”font-family: sans-serif,serif;”と書くと、サンセリフが優先になるわ」
「なるほど。他には?」
「好奇心が旺盛なのは良いことだけども、まずは、そこにあるスタイルシートをじっくり眺めてみるといいんじゃないかしら。検索すれば、解説ページもきっと見つかるでしょうから。まあ、一応あとで表にまとめておくけれども」
なんだかんだ言ってアルテさんは優しいのだ。ただちょっと尺を気にしすぎるだけで。
「ありがとうございます!」
「もう一つだけ補足しておくと、何かを引用するときに使う「>」は、blockquoteというタグを生成するの。標準のスタイルシートにも出ているわね。

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もし、引用部分の文字下げ幅がちょっと広いなと感じたら、この数字を少し小さくしてみるといいわ。あまり狭めすぎると、引用部分かどうかがわかりにくくなるから、その点には注意。まあ、君は文芸書きだから、あまり使わないかもしれないけども」
僕はふと思いついたアイデアをアルテさんにぶつける。
「たとえば、本文のフォント指定と、引用部分のフォント指定を逆にしておく、という手はありですか?」
「そういうのもありね。ともかく、ここは引用箇所です、ということがはっきりしていれば問題なし」
「なるほど。でも、ここで指定しちゃうと、全ての見出しとか引用箇所のスタイルが変わっちゃうんですよね。表現上ある一部分だけ変えたい、という場合はどうすればいいんでしょうか?」
「前回話したこととも繋がりがあるんだけど、今回は尺的にもうここまで。続きは次回」

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でんでんコンバーターでスタイルを変更する方法(アルテさんと僕)

「今日は、でんでんコンバーターで作成する電子書籍のデザイン変更について説明するわ」
「デザイン変更?」
「そう。たとえば文字を太くしたり、行間を詰めたり、フォントの指定を変えたりといったこと。使うのはCSSよ」
「しー・えす・えすって何でしたっけ?」
じと目で僕を見つめるアルテさん。
「EPUBファイルの構成回のときに説明したわよね。もう忘れたの? それともその脳には入ってなかったの? こじ開ける? こじ開けてグリグリ突っ込む?」
「い、いえ聞き覚えはあるんです。でも、曖昧だったんで、一応」
「まあ、曖昧なままわかったフリするよりもマシね。じゃあ、ちょっと復讐してみましょうか」
「アルテさん。誤字ってますよ」
「あらそう。でも、いいんじゃないかしら。フロイト先生によると言い間違いや書き間違いは深層意識の表出らしいから」
「ちょっと、目が怖いですって。はい、次からはちゃんと覚えてますから、その目つきを止めてください」
「冗談はこれまでにして」
あれが…冗談の目つきだと……。
「CSSとは、カスケーディング・スタイル・シートの略ね。ウェブページのスタイル、つまり見た目を指定するための一種の様式と考えておけばいいかしら。もちろん賢い君のことだから、EPUBがxhtmlファイル、つまりウェブページベースで構成されていることは覚えているわよね」
「ええ、それはもちろん。そこのところはしっかり説明を受けましたから」
よろしい、とアルテさんは満足そうに頷く。
「そこで、EPUBの見た目の指定にもCSSが使われます。CSS自体はそんなに難しくないから、詳しい話は割愛するわ。尺の問題もあるしね。また別の回で改めてということで」
メタ発言だよ…。
「さて、でんでんコンバーターで作成する電子書籍のデザインを、自分好みにカスタマイズしたい場合には、3つ方法があります」
そう言って、びしっと3本の指を立てるアルテさん。
「1つ目が、CSSファイルを準備して、テキストファイルと一緒にアップロードする方法。王道中の王道ね」
指が1本折られる。
「2つ目が、テキストファイルの中にあらかじめCSSを書いちゃう方法。オススメする方法ではないけども、変更箇所がちょっとしたものなら一番手っ取り早い方法かもしれない。たとえば、本の中の一箇所だけを特別な行間にしたいとか、そういう場合ね」
なるほど、と僕が頷く。そしてさらに指が1本折られる。
「3つ目が、完成したEPUBの中にあるCSSファイルをいじっちゃう方法。外道の法、というわけではないけど、若干マニアックね。でも、こうした方が効率がよい場合もあるわ」
「どんな場合ですか」と僕は素直に尋ねる。
アルテさんは残った1本の指をくるりと回した。
「でんでんコンバーターは、シンプルさを追求した仕様になっているから、一緒にアップロードできるCSSファイルが1つに限定されているの。たいていの場合はこれで問題ないのだけれども、たとえば全体は縦書きで、章の扉ページだけを横書きにしたい、といった場合に対応できないの。そういう作り込みをしたい場合は、EPUBファイルの中身をいじる必要があるわね」
「ということは、初心者レベルでは気にしなくて良い、ということですね」
「まあ、そうなるわね」
コクリと、アルテさんは頷いた。
「まずは、CSSファイルのアップロードから始めてみるのがいいかしら。どうせ、これからもCSSファイルとはお付き合いしていくことになるでしょうから。作り方を覚えておいて損はないわ。普通のテキストエディタがあれば、誰にでも作れるから、あとは書き方を覚えるだけ」
「なるほど」
「で、習うには倣え! の精神で早速取りかかってみましょう。「Downloads」に、標準のスタイルシートが準備されているから、これをダウンロードして改造しちゃうのが簡単ね」
「標準の、というのはどういうことですか?」
「このCSSは、でんでんコンバーターにCSSファイルをアップロードしなかったときに適用されるものなの。開発者の方が、綺麗に見えるスタイルをあらかじめ準備してくれているわけね。逆に、自分で何かのCSSファイルをアップしたら、このCSSは適用されなくなる。つまり……」
アルテさんは、一呼吸置いて続けた。
「もし、タイトルの文字サイズを大きくしたいと思って、それだけを指定したCSSファイルをアップロードすると、標準のデザインの指定はすべて消えてしまうの。たぶん、ダサいデザインになるわね。その点には注意しましょう。そういうときは、標準のCSSファイルを変更、あるいは追記したものをアップロードすると良いわ。もちろん、スクラッチでCSSが書けるなら、それに越したことはないけど」
「スクラッチって、ゼロから作ることでしたっけ」
「そうそう、良く覚えていたわね。さすが賢い」
「……嫌みにしか聞こえないんですが」
「嫌みで言ってるんだもの」
意外に根に持つタイプである。
「とりあえず、default.zipをダウンロードして、解凍してみましょう。”vertical”と付いている方が、縦書き用のスタイルシートよ。それをテキストエディタで開いてみましょう」

(次回に続く)


本作はスピンオフ作品です。

僕とアルテさんが登場する一連の物語からのスピンオフです。

しかし、その一連の物語はいまだ紡がれてもいません。私の脳内に存在するだけです。つまり、先回りスピンオフ。史上初ではないでしょうか。

今回は、そのキャラクターに登場してもらって、「でんでんコンバーター」の使い方を紹介してもらいました。位置づけとしては、全20回あたりの15回目ぐらいですが、そもそも1回目すら書いていません。本文中にある「EPUBファイルの構成回」なるものも、空想の存在です(が、いつか書きます)。史上初ではないでしょうか。

とりあえず、近いうちに続きは書きますので、お楽しみに。

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section #00 頭の奥の工場

「頭の中の工場?」
「違うわよ。頭の奥の工場」
 今月号のWebライターズマガジンのページをめくりながら、アルテさんの話の聞いていたら、どうやら聞き間違えたらしい。あたまの・おくの・こうじょう。ガタン、ゴトン、ブシュー。ガタン、ゴトン、プシュー。
「そこでは、何が作られているの?」
「そりゃいろいろよ。だいたいはアイデアと呼ばれるものだけども」
 僕は工場のラインから、ピカッと光る電球が次々に流れてくるシーンを思い浮かべた。
「君は、その工場の存在を感じたことがある?」
「僕はないかな」
 そう、とアルテさんは少し考え込む。
「その工場はね、頭の奥の方にあるから姿形を見ることはできないの。きっと遠すぎて音も聞こえてこない。でも、私にはその存在が感じられる。ラインが動いている鼓動が、波動のようにはっきりと届くの」
ガタン、ゴトン、ブシュー。ガタン、ゴトン、プシュー。
「どうやらその工場には忙しさに波があるみたいで、とっても騒がしいときと、全然稼働していないときがあるの。稼働していないときは、私はその存在を感じられない。まるで、そんなものなんてどこにもないみたいに。でも、忙しく稼働しているときは、脳内にあたらしい感覚器官が生まれたみたいに感じられる」
 僕は頭の奥の工場で働く人々を思い浮かべる。きっとそこではたくさんのコビトが働いているのだろう。普通に仕事をするコビトもいれば、すごく義務的に仕事をするコビトもいる。もちろん、イヤイヤ仕事をしているコビトだっているはずだ。でも、忙しくなってくれば、やれやれ仕方ないな、という感じでみんなが協力しはじめる。配置されるコビトの数は増強され、ラインの速度もあがる。シフトは24時間の3体制に移行し、全てが慌ただしさと熱気を持って動き始める。日常はどこかに吹き飛び、ただピカっと光る電球を生み出すために資本が集中される。
「工場への資材は大丈夫なのかな?」
「資材?」
「つまり、何かを生み出すためには材料が必要で、ラインの速度が上がれば、材料の消費量もあがるわけだよね。それが枯渇する心配はないのかなって」
「その工場のさらに奥には、地底へと続く洞窟があるの。そして、そこには大きな湖が広がっている。とても湖とは思えないぐらいの大きさよ。ほとんど海といってもいいくらい。その豊かな湖から採集された資源が、工場へと運ばれていくわけ。だから、材料についてはあまり心配することはないわ」
「あまり、ということは心配はあるわけだね」
「そう。でも、それはまた別の物語が必要だわ」
「なるほど。で、アルテさんの頭の奥の工場は今は稼働しているの」
「とおっても忙しく稼働しているわ。だから、こうして話しているの。どこかに出荷しないと倉庫がパンクしそうだから」
「だったら原稿を書けばいいんじゃないのかな。たしか締め切りは今月だったよね」
「もちろん書くわよ。でも、私の執筆時間は決まっているの。いつも通りに書き始めて、いつも通りの時間に書き終わる。そのルーチンを外れたくないの。だから、今はとりいそぎという感じね」
「とりいそぎのアウトプット」
「そう、とりいそぎのアウトプット」
 頭の奥の工場と、真っ暗な地底湖。チャプン、と魚が跳ねる音が聞こえた。

(つづく、かも)

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