「ミカ、またサーベイかい」と僕は言った。 ミカはいつものようにディスプレイを食い入るように見つめ、僕が入室したことすら気がついていない。声をかけてやっとこちらを振り向いた。 「ああ。そろそろ草案の提出日も近いからね。後…
カテゴリー: 5-創作文
おくもるさま
それは最初、小さな雲だった。時間と共に膨れ上がったその雲はやがて日本中を覆い始めた。全国の日照時間と気温が変化し、深刻な問題になることは敏腕科学者でなくても予想できた。政府も対策に乗り出したが、ろくな手はなかった。なぜそ…
Rashita’s Christmas Story 13
アイテムボックスの通知欄に+1の表示が増えていた。先ほどの戦闘の結果ではない。あのスライムはドロップなしの代わりに経験値が高いモンスターだからだ。だとすれば、帰り際にすれ違ったやたら赤い装備のプレイヤーだろうか。たしかに…
Rashita’s Christmas Story 12
クリスマスは書き入れどきだった。私はサンタの衣装に着替えて、さっそく繁華街へと自転車を向かわせた。 いつもはファッション性皆無のガチなヘルメットをかぶっているが、今日だけは安全性に目をつぶってサンタの帽子をかぶる。安…
纓と球の対話
纓「たとえば君が弱音をはくことで、離れていく人間がいるとしよう。それでフォロワー数みたいなものが減るかもしれない」 球「はい」 纓「でも、仮にそれが減ったとしても、君の価値が減ることはない。そういう数字の減少は、君という…
ダメダス王の手
王は願った。望むものをすべて欲する力を。 神は与えた、すべてを手に入れる力を。わずかな呪いと共に。 王は欲するものをなんでも手に入れることができた。おのが権力を超えるものでさえ、それは可能だった。 あふれんばかりの黄金、…
Rashita’s Christmas Story 11
運営から届いていたメールには、一日限定のミッション依頼が記載されていた。特定の条件を持つ人に、無作為にオファーされているらしい。受けるのも自由だし、受けないのも自由。気楽なミッションのようだ。 とはいえ報酬は魅力的だった…
魔法のスイッチ
魔法のスイッチを押すと、どこからともなく自信が湧いてきた。これはすごい。僕は不安になるたびに、そのスイッチを押し、困難に立ち向かっていった。 あるとき、僕は絶体絶命の危機に瀕し、仕方なく魔法のスイッチを手放すことになった…
ダメダス王の手
男は欲した。手にできるものはなんでも欲した。そのためなら、あらゆる努力も呪術もいとわなかった。 やがて、彼は神に願った。もともと彼は恵まれておらず、手にできるものはあまりにも少なかった。神に願うしかなかった。 神は彼の願…
カレーの美味しい和菓子屋
二代目が継いだばかりの和菓子屋はあいかわらず美味しかった。技は引き継がれ、新しい技法も試されている。将来にも期待ができそうだった。 二代目は、美しく若い女性と結婚していた。料理研究家ということで、道は違えど通じる何かがあ…
冷えゆく星
inspired by 【急速冷凍!】 5/6文フリで頒布予定の 「オルタニア緊急増刊7.5号」の 掲載原稿を急募します。 文字数は2000字ぐらい。 ショートショートのSF小説で、 テーマは新元号にちなんで「冷」。 締…
魔女の呪い
会場は緊張感に包まれていた。 新しい元号の発表は11時からなので、あと30分は時間がある。会場では、さまざまなメディアの記者が、即座に記事を送信できるよう準備を整えている。紙のメモやノートを持っている記者はひとりもいない…
Rashita’s Christmas Story 10
藤崎さんは、本物のサンタだった。 もちろん、白髭に赤い服をまとい、トナカイを駆って日本中にプレゼントを届けるわけではない。彼自身は、紺のスーツがよく似合う、せいぜい三十代前半にしかみえない眼鏡男子だ。乗馬やロッククライミ…
壁
かつて壁があった。 その壁は人の行き来を塞いでいた。 ある人が壁を指さして言った。「あそこに壁がある。問題だ」 人々はその声に耳を傾けた。あまりにもそこに壁があるのが当たり前すぎて、人々はそれを壁だと認識していなかった。…
伝説の勇者となりうる男
むかしむかしあるところに、伝説の勇者となりうる男がいた。齢は16。これからグングン成長が見込めるたくましい体つきで、現時点では空っぽであるが魔力の潜在性も十分だった。 しかし彼は手先も器用だった。編み物や小物作りが得意で…