フィードリーダー2.0 あるいはアリスの物語(2)

前回:スマートタスクリスト2.0 あるいはアリスの物語

 ピピピピッ、ピピピピッ。

 小さいが、注意を向けずにはいられない音が鳴り響く。朝一タスクの時間終了だ。
 私は作成したデータを確認する。まずまずだ。これだけ進めておけばプロジェクトに支障はないだろう。
 私はデータをピットに投げ込み、データを共有した旨を送信しておく。もちろん、こんなメッセージがなくとも向こうには通知が飛んでいるだろうが、儀礼的なやりとりはいつの時代でもコミュニケーションの潤滑油になる。送っておいて損することはない。
「アリス、タイマーストップだ。あとコーヒーも頼む」
『お疲れ様です、マスター。コーヒーは15秒後にできあがります』
 室内に豆の香りが膨らんでくる。実に香ばしい。もちろんホログラフィの彼女にコーヒーを運んでもらうことはできないので、自分でコーヒーメーカーに向かい、彼女に勧めることもなく一人分をカップに注ぎ入れる。
「さて、ニュースウォッチの時間といこうか」
 一口飲んだカップをテーブルに置く。黒色の液体はこちらを見つめ返すことなく揺らめいている。
『タブロイドとウィンドウのどちらになさいますか?』
「ウィンドウで頼む。今日は数が少ないからワンセルビューで。あと、センシティブニュースだけタブロイドに転送しておいてくれ。移動中にでも目を通すよ」
『かしこまりました』
 アリスが丁寧にお辞儀をしてから姿を消す。これもコミュニケーションの潤滑油といったところか。
「まずはオレンジの新機種のスペック周りから」
 私の前にウィンドウが浮かび上がる。個人サイト、ブログ、ニュース記事が同一フォーマットに変換された窓だ。建物内に設置された窓は常に同じ風景を切り取るが、このウィンドウもウェブの世界を同じように切り取る。どのようなソースであれ、タイトル・300字以内の要約・使われている画像を抽出し、一定の形式にまとめてしまう。人間の限られた認知リソースから言って、この形式がニュースを追いかけるのに一番向いている。以前、誰かが遊びでニュースサイトの記事を全て別々のフォントに変更してしまったことがあるが、あれはたいへん読みにくかった。
 もしかしたらバカなデータ解析者があの事象から、フォントをバラバラにすればアクセス数がアップする、なんて結論を出すかもしれないが、ヘッダライナーで話題になっただけで誰も中身は読んでいなかったに違いない。スタイルの統一というのはメッセージの伝達において非常に重要な要素なのだ。
「これが新機種か・・・。さすがにイノベーションリーダーだけはあるな。予約状況の動き、サーバー・アクセスの時間帯別動向表、関連企業の株価のデータを揃えておてくれ。アークソフトから何かコメントは出てたのか」
『CEOがコメントしていますが、フィルターで取り除きました』
 アリスが声だけで答える。
「なんだ、聴く価値なしってことか。まあいい、一応表示してくれ」
『かしこまりました』
 どこかの動画サイトから引っ張ってきたCEOのコメントが再生される。ゆったりと一言一言を染みこませるように言葉を発している。喋ることがないので、間が持たないのだろう。結局五分間で、「うちとしては後から追いかける以外の手はありません」、以上の内容は何一つ得られなかった。
「この動画、ヘッドライナーで話題になってるんじゃないのか?」
『すでに200の改変動画が作成され、10万ビューを記録しているものもあるようです。その動画についての書き込みは多いようですが、それを除けばヘッドライナーでの流速は10分におよそ100です』
「そんなところか」
 おそらくそれ以外の話題で盛り上がってるんだろう。あのオレンジの新機種は何かしら発言せずにはいられないチャームがある。しかしながら、あのCEOは別のところで話題を振りまくのがうまいな。喋ることがないのならば、ノーコメントを押し通しておけば、角が立つわけでもあるまいに。まあ、それも一つの才能かもしれないが。
「よし、こんなところか」
 ウィンドウを右に払うと、代わりにアリスが姿を現す。
「先に買い物に行ってくるよ。その間に関連企業のデータを洗っておてくれ。過去半年から一年でジワジワ株価を上げている企業を探す。それ以前と比べると、僅かだが取引量・株価とも上がっている銘柄だ。あと、今後のフィルタリングは関連企業について広く集めるようにしておいてくれ。踏みつけないようにしっぽを見つけないとな」
『かしこまりました。データの分析及びフィルタリングの設定変更を行います。設定変更の反映は明日からでよろしいでしょうか』
「いや、今日、というかたった今からだ。すでにきな臭い話題が飛んでいてもおかしくはない」
 こういう大きな話題の裏では、確実に仕込んでいるヤツがいるはずだ。それに美味しく乗っかるとしよう。そのためには、データから隠された意図を読み取らなければいけない。何かを埋めた穴を不自然に見せないように平すと、その他の部分との差異が出てきてしまう。自然の地面は真っ平らではないのだ。
「じゃあ、ケチャップを買いにいってくるよ」
 アリスにそう言って、私はタブロイド端末を抱えて部屋を出た。

4 thoughts on “フィードリーダー2.0 あるいはアリスの物語(2)”

  1. >どのようなソースであれ、タイトル・300字以内の要約・使われている画像を抽出し、一定の形式にまとめてしまう。人間の限られた認知リソースから言って、この形式がニュースを追いかけるのに一番向いている。

    今後フィードリーダーの標準がGoogleリーダーからFeedlyに移行した場合、Feedlyの「Timeline」表示でタイトル・要約・アイキャッチ画像がどのように表示されるかで、サイトへのアクセス率が変わってくると考えます。既に「Feedlyで購読する」ボタンを設置しているブログも現れています。例えば

    【マジか】7月1日にGoogleリーダーがサービス終了・・・! 代替をいくつか見繕ってみた | [M] mbdb
    http://mbdb.jp/web/google-reader-close.html

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