7-本の紹介

「先輩、なんかオススメの本ありますか?」と尋ねられたら

新年度になり、新社会人向けのエントリーをちらほらと見かけるようになりました。

それをみて、私もふと考えてみました。シチュエーションはこうです。

昼休み。そうそうに食事を終えて、自分のデスクで本を読んでいる私。そこにおしゃれなカフェのカップを持った後輩が近づいてくる。
「あれ、先輩って本読むんすか」
まあね、と私は答える。そしてページをぱらり。
「へぇ〜、すげ〜っすね。俺なんか本とかぜんぜん読まなくて」
別にすごいことじゃないよ。単に本を読むのが好きなだけ。ページをぱらり。
「先輩、なんかオススメの本ありますか?俺みたいなのが読める本で」
私はしおりを挟み、本をデスクの端に置きながら、彼に視線を向ける。

ふむ。

「これなんかどうかな。なかなか響くタイトルだろ」
そういって、私はiPadに『仕事は楽しいかね?』の表紙を映し出す。

仕事は楽しいかね?
仕事は楽しいかね? デイル ドーテン Dale Dauten

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「小説風に書かれているし、文章もずいぶん読みやすい。手始めの一冊としては悪くないよ。特に、ビジネスパーソン一年目の君なら、まさにだ」
「あっ、ちょっとまってください。メモしますんで」
そういって胸ポケットからメモ帳を取り出す。きっと新人研修で課長にきつく言われたのだろう。「仕事はメモから始まる」が課長の仕事哲学だ。毎年ミスを犯した新人が、課長の苦言とお気に入りの高級メモ帳をありがたく頂戴することになる。彼が取り出したメモ帳は、ごく普通のミニノートなので、きっと誰かが課長にカミナリを落とされている場面でも見たのかもしれない。あるいは、見かけによらず几帳面な性格なのかもしれない。

「もし、君が仕事の”プロ”でありたいと考えているならば、この本を読んでみるといい」
私は、ドラッカーの『プロフェッショナルの条件』を示す。

プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか (はじめて読むドラッカー (自己実現編))
プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか (はじめて読むドラッカー (自己実現編)) P・F. ドラッカー Peter F. Drucker

ダイヤモンド社 2000-07
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「もしかしたら、本の内容は少し難しく感じるかもしれない。でも、君がまっすぐ前を見ている人間なら、必ず心打たれる部分があるだろう。それが二カ所でも、三カ所でもいい。まずは、それをしっかりと捕まえることだ。こういう本は一回読んだだけで、すべてを理解しようとするのは無理がある。濃厚すぎる豚骨ラーメンを一気飲みするようなものだからね」
彼は必死にペンを走らせている。どうやら書名以外のアドバイスもメモしているようだ。私が早口すぎるのも、彼を慌てさせる原因に違いない。つまり、彼には聞き手とのしての自然な才能が備わっているということだ。人を話す気にさせるのは、立派なスキルである。それも希有なスキルだ。彼はきっと営業やマネジメントで力を発揮するのだろう。

「もう一つ、おそらく君にとって畑違いの本を一冊」
優しい色合いが魅力的な『アイデアのつくり方』の表紙が画面に表示される。

アイデアのつくり方
アイデアのつくり方 ジェームス W.ヤング 竹内 均

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「画面ではわからないかもしれないけれども、とっても薄い本だ。内容は100ページにも満たない。文章もわかりやすい。もしかしたら、こんな本に800円払うのはバカらしいと感じるかもしれない。でも、その感覚は中身を読むまでだろう。たいへん示唆に富むすぐれた本だよ。ちょっと感動するかもしれない」
彼がメモを終えるのを待って、私は続ける。
「入社一年目の君が誰かにアイデアを求められることはないかもしれない。あるいは、営業の仕事をする上でアイデアなんて必要ないと感じるかもしれない。でも、遠慮がちに言わせてもらっても、それは大きな間違いだ。アイデアはいろいろな場面で役に立つし、これからの社会でどんどん必要になってくる」
それにね、と私は続ける。
「見たところ、君はコミュニケーションスキルに長けているようだ。きっと大学でもいろいろな飲み会に引っ張りだこだったんじゃないかな?」
えぇ、まあ、そうです。彼が遠慮がちにうなずく。見かけによらず謙虚なのだろう。
「その力は素晴らしいし、仕事でも間違いなく役に立つ。ただ、そこに発想力が加わればとんでもないことになる。今、”加わる”といったけども、実際、発想力はかけ算になるんだ。その演算結果は、計り知れない」
丸めた両手の拳を徐々に近づけていき、接触した瞬間に、バンッと大きく手を開く。ビッグバン。新たな宇宙の誕生だ。

「といっても、曖昧すぎて伝わらないだろうね。ともかく読む気があるのならば、こんな本から読み始めてみるといいよ。挫折するほど難しい本は一冊もないし、変な壺を買わされる本もない。それに一秒で1000万稼ぐこともできない」
電車の中で見た広告を思い出したのか、彼が大きな笑みを浮かべる。
「先輩って、見た目よりもずっと皮肉屋なんですね。意外っす」
「いずれ君もきっとそうなるよ。本読みの宿命みたいなものだからね」

そうして彼は自分のデスクに戻り、私は本の世界に戻る。お昼休みが終わるのはもうすぐだ。


と、シチュエーションを考えているうちに長くなりました。やはり人に本を薦める上で、その人の背景や現在の関心領域、そして今後必要になりそうな分野、といった情報は加味したいところです。

しかし、尋ねてきた後輩が体育会系だったら、いったい何を薦めればいいんでしょうね。私にとってはかなりの難問になりそうです。

vol.2→「先輩、なんかオススメの本ありますか?2」

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