3-叛逆の仕事術 7-本の紹介

「個人の習慣」を変えるには 〜『習慣の力』より〜

前回のエントリーでは、『習慣の力』の概要に触れ、その対象が3つに及んでいることを紹介した。

「個人の習慣」
「企業の習慣」
「社会の習慣」

今回は、「個人の習慣」を取り上げてみよう。

習慣の力 The Power of Habit
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人生を変えるには?


さて、いきなりだが質問である。

「人生を変えるにはどうしたらいいだろうか?」

チッチッチッチ、チーン。

さて、答えはどうだろうか。

回答を述べる前に、船を思い浮かべていただきたい。どこまでも広がる青い海原の上を、滑るように進んでいく船だ。

この船がそのまま行けば辿りつけるであろう到着点を、大きく変えるにはどうすればいいだろうか。しかも、できるだけ小さな力を使って。

答えは簡単だ。しかも、二つある。

一つは、わずかにでも舵を切ること。とりでもいいし、おもでもいい。どちらにせよ1℃でも角度を変えれば、長い航海を経てたどり着く大地の風景は大きく変わるだろう。船旅、というのはそういうものである。そして、それは人生についても言える。

では、もう一つは。

もう一つの答えは、船底に小さな穴を空けることだ。そうすれば、その穴からずびずびと水が浸食してくる。これでも、船がたどり着けるであろう場所を変えることができる。

反則?

まあ、そうかもしれない。誰も好んで自分の船に穴を空けたりはしない。でも、まるで境界線をまたいだかのように人生の風景が一変するのは、そういうタイミングだ。死の深淵をのぞき込み、何かから見返された瞬間。その瞬間、人は大きく変わる。知覚が変わり、基準が変わり、認知が変わり、行動が変わる。

感動的なビジネス書では、自分の死を自覚して人生を変えた人の話がよく紹介される。私の身近にもそういう人はいる。しかし、その深淵を覗いていない人には、きっとそういう人たちの行動や考え方は役には立たないのだろう。なにせ、知覚も、基準も、認知も変わっていないのだ。

だから、わたしたちは1℃の舵を切る方法を採用したい。

それが、「習慣を変える」ということだ。

習慣へのアプローチ


『習慣の力』で紹介されている、習慣へのアプローチはとても理解しやすいものである。

  • まずは、習慣のメカニズムを知ること
  • そして、自分の行動(および欲求)を知ること
  • 最後に、きっかけに新しいルーチンを紐づけること

概要は簡単だ。

本書では習慣のメカニズムを3つのプロセスに分解している。

きっかけ→ルーチン→報酬

これがループする。つまり、

きっかけ→ルーチン→報酬→きっかけ→ルーチン→報酬→きっかけ→ルーチン→報酬・・・

こういうわけだ。

何かしらのきっかけがスイッチとなり、習慣と呼ばれている一連の行動が生まれ、それにより(心理的・認知的な)報酬を得る。その報酬が、きっかけに反応する動機付けを強める。そういう流れである。

最終的に、きっかけに接したら無意識にルーチンの行動が誘発されるようなものこそが「習慣」だ。習慣に意識の介在は必要ないのだ。だからこそ習慣は扱いにくい。

なにせ習慣の行動が行われている間は、脳の活動が低下しているのだ。意識はその瞬間無力になっていると言ってもよい。何かしらの行動が「習慣になる」というのは、通行手形を手に入れるようなものだ。ほとんど何の検査もなく通行が許可され、行動の一群がずらずらとゲートを通過していく。検査員はその間、知らんぷりをしているわけだ。

だから、私たちは意識が稼働している間ならば「こういう行動は是非とも止めたい」と思うことでも、悪い習慣の中ではそれを止めることができない。

電撃文庫の『ソードアートオンライン』には、「ソードスキル」という概念が存在する。武器を持ってある種の動作を行えば、そこから必殺技のようなものが発動する。その発動は、コンピューターによるアシストが行われており、プレイヤーは何行動を一つ意識する必要がない。その代わり、一度発動したソードスキルは(簡単には)止められない。

これはまさに習慣のメタファーと呼べるだろう。

代用的ルーチンを準備する


習慣のメカニズムはわかった。では、それをどうやって変えるのか。

一つには、きっかけとルーチンを切り離すことだ。

たとえば、イライラを感じたときにたばこが吸いたくなるとする。最初は意識的なストレス解消の手段としてたばこを吸っていたのだが、次第にイライラを感じたら無意識にたばこに火をつけるようになる。

この場合、イライラ感がきっかけで、ルーチンがたばこをくわえて、それに火をつけることだ。

この二つが分かちがたく結びついているのが習慣だ。だから、これをエクスカリバーで切り落とす。

上のような状況で失敗する禁煙は、「たばこをやめます」とだけ宣言して、イライラに対処する別の方法を考えないことだ。つまり、別のルーチンを準備しないことだ。

そんな準備不足な状態で、きっかけとなる状況に遭遇してしまったどうなるだろうか。脳は執拗にルーチンを求める。あなたの意識がある程度力を持ちうるような時であれば、その行動を抑制することは可能だろう。しかし、強いストレス下に置かれているときは無理だ。簡単に屈してしまう。

管を流れる水を別の場所に導きたいのならば、別の管を準備する必要がある。

上の場合であれば、たばこ以外のイライラ感を解消できる何かを準備すればいい。それが何なのかは、とりあえず私にはわからない。ガムをかむことかもしれないし、パズドラをプレイすることかもしれない。ともかく、別の手段を準備しておき、イライラを感じたときにそれを実行するようにすればいい。

もし、うまく心が落ち着いたのならば、報酬が発生したことになる。新しい習慣の道筋がうっすらと立ち上がったわけだ。後は、それを地道に繰り返していくだけだ。

このように変えたい習慣の「ルーチン」だけを入れ替える、というのが本書で紹介されている「ダンジーの鉄則」だ。これを紹介したエピソードはなかなか面白いので興味がある方は直接参照されるとよいだろう。

また、習慣のメカニズムに注目すれば、新しい習慣を生み出す方法も浮かび上がってくる。本書の言葉を借りれば「シンプルなきっかけ」と「明確な報酬」。この二つで求めているルーチンを挟み込めばいい。

本当に必要なもの


さて、習慣を変えるメカニズムはだいたい理解いただけたであろうか。これでばっちり、明日から俺も習慣の鉄人だ!と意気揚々と邁進できるだろうか。

ちょっと、待って欲しい。

先ほど例に挙げた「イライラとたばこ」のシチュエーションは極度に話をシンプルにしたものだ。仮に自分の習慣を変える場合、こんなに簡単に話が進むだろうか。

最大の問題は「何が習慣のきっかけであり、どんなことが報酬になっているのか」を知るのは簡単ではない、ということだ。だって、習慣的行動はもはや無意識に癒着している。その行動は意識の介在を必要とせずに行われるのだ。だから、意識の観察下には通常置かれていない。

もしかしたら、先ほどの状況でたばこを吸っている人は、「自分がたばこが好きだから吸っている」と思っているかもしれない。もちろん、そういう側面もあるだろうが、その裏側にイライラの解消という欲求があったとしても、それが意識されることは(あまり)ない。

『習慣の力』では、「欲求のきっかけを全て書き出す」というテクニックが紹介されている。これも一つの手段だろう。他にも方法はきっとあるだろうが、それはようするに「ログによるメタ認知の確立」という所に話がつながってくる。ログの効用、という点ではライフハックにつながる話でもある。

習慣を変えたければ、少なくともその習慣に対して自覚的でなければいけない。できれば、その習慣の前後の行動あるいは心理状況も把握しておかなければいけない。常にたゆたう存在である意識だけでは、その作業はかなりの困難を伴う。

だから、こう言おう。

毎日の行動記録を残している人ほど、自分の行動を変えやすい。

どうだろうか。明確な反論物証(というか人物)はあるだろうか。もちろん、危機的状況に直面することによって自分の行動を変える人もいる。船の底に穴が空いてしまった人だ。が、そういう人を別にすれば、行動を変えている人は記録を残している。記録がメタ認知を発生させ、それが行動を変える手助けをしているのだ。

さいごに


もちろんメタ認知が生まれただけでは、うまくはいかない。もう一つ「実験者の心構え」というものが必要になってくる。

が、あまりにも長くなりすぎたので、その辺の話ともう一つ必要なもの__なんと「信じる」という心の動きだ__については次回に譲ろう。

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