3-叛逆の仕事術 7-本の紹介

【書評】WILLPOWER 意志力の科学 (ロイ・バウマイスター, ジョン・ティアニー)

知能と自己コントロール。

満足できる社会生活を送るために、この二つの資質は欠かせないだろう。

特に自己コントロールは重要だ。それは、円満な人間関係を維持するためにも、自分の力を一つの方向に向けて成果を生み出すためにも必要になってくる。

基本的に、知能はどうしようもない。授かったものを活かすか、殺すかだけの話だ。大幅な知能の向上を補助してくれるようなものは何もない。少なくとも、現代ではそう考えておいたほうがよいだろう。アルジャーノンが受けたような脳の手術は__いまのところ__存在しない。

では、自己コントロールはどうか。

本書では、それを鍛えられるものとして捉えた上で、さらに鍛え方やうまい活用法も合わせて紹介してくれている。

セルフコントロールやセルフマネジメントといったキーワードに引っかかる人ならば、安打率はかなり高いだろう。「意志力」を扱った類書を読んだことがないならば、ホームランな一冊かもしれない。

WILLPOWER 意志力の科学
WILLPOWER 意志力の科学 ロイ・バウマイスター ジョン・ティアニー 渡会圭子

インターシフト 2013-04-22
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※献本ありがとうございます。

概要

著者は、心理学者のロイ・バウマイスターとジャーナリストのジョン・ティアニー。

【学者+ジャーナリスト】がコンビの本には、読みやすく仕上がったものが多いが、本書もその一冊と言えるだろう。バウマイスターの知見が、さまざまなエピソードを織り交ぜながら、奥行きを持って語られていく。

ベースとなるのは、

  • 「意志力とはそもそも何なのか?」
  • 「どうしたらそれを鍛えられるのか?」
  • 「意志力をうまく活用するためにはどうすればいいか?」

というテーマだ。

仕事術系の本をよく読まれる方ならば、なじみの名前__たとえばGTDのデビッド・アレン__をいくつか見かけるかもしれない。

本書を読めば、GTDが「意志力の温存」において理にかなった手法であることがわかるだろう。また、目標を立てたり、ログを残す効能にも理解の枝が伸びるはずだ。

意志力という同じテーマを扱った『スタンフォードの自分を変える教室』(※)に比べると、「つかみにくさ」を感じる部分もある。あちらは、一回ずつの講義がベースであり、受講者が実際に行えるエクササイズが盛り込まれているので、「実践的」という印象を受けるのは当然だろう。
【書評】スタンフォードの自分を変える教室(ケリー・マクゴニガル)

本書は、きちんと読み込み、原則と本質を理解した上で、自分なりに実行の手法を考える必要がある。ただし、心配するには及ばない。必要な材料はきちんと提示されている。後は、手と頭を動かすだけだ。

ちなみに、巻末の「解説」が非常にうまくまとまっているので、できればそれに目を通す前に、自分なりにまとめてみるとよいだろう。頭を動かす、というのはそういうことである。

簡単に目次だけを紹介しておく。

第1章 意志力とは何だろう?
第2章 意志力のもとになるエネルギーを高める
第3章 計画を立てるだけで効果あり
第4章 決定疲れ
第5章 自分を数値で知れば、行動が変わる
第6章 意志力はこうして鍛える
第7章 探検家に秘訣を学ぶ
第8章 特別な力
第9章 能力を伸ばすのは、自尊心より自制心
第10章 ダイエットせずに減量を成功させる
第11章 守りよりも攻めの戦略を

関連書籍としては、『スタンフォードの自分を変える教室』『ファスト&スロー』『ずる』があるだろう。また本書から『ストレスフリーの整理術』に飛んでみても面白いはずだ。

諸悪の根源、希望の光

本書を読んで連想したことは、前回のエントリー(※)で紹介した。しかし、実際はもっとたくさんある。
デイリータスクリストが有効な4つのワケ

たとえば、「リストの功罪」だ。

第一章では、あのリストが攻撃の対象になっている。そう、あの「新年の抱負」リストだ。本書では「諸悪の根源」とすら呼ばれている。

確かに、「新年の抱負」に良い感情を持っている人は少ないかもしれない。目標を立てて、ある程度の時間が過ぎると__断言してもよいが3ヶ月以内だ__、そのリストから目を背けたくなってくる。

理想の自分と現実の自分のギャップを突きつけられるのは気分の良いものではない。

もちろん理由ははっきりしている。それは「目標を立てすぎている」のだ。そして、それらを一気に実行しすぎようとしているのだ。簡単に言えば、自分ができることを過大評価しているのだ。日本で怪獣と戦っているヒーローは、同じ時間にブラジルの平和は守れない。簡単な話だ。が、新年の目標を立てている時には、その簡単な話がすっぽり抜け落ちている。

ただ、私は「新年の抱負」はそれほど悪いものだとは思っていない。何にせよ前向きに進んでいく感情は、モチベーションを刺激するものだし、人生に張り合いみたいなものを生み出す。ただ、「リスト」は扱い方が難しいのだ。それを誤ると前に進むためのものが、なぜか足止めの材料になってしまう。

「新年の抱負」リストは、深夜に書いたラブレターみたいに扱うのがよいだろう。つまり、時間をおいて見返すのだ。どちらも感情が高ぶっているときに作成しているという点では同じである。その高ぶりから生み出されたそのままのものではなく、8割程度(あるいはもう少し)丸めたものを、現実の目標として扱えば、無理は少なくなる。そして、さらに「一度に一つだけ」の原則を守れば、もっと容易になる。

そう、リストに並べているにもかかわらず、同時並行的にそれらを進めようとするのは、そもそも「リスト」ではないのだ。

明確に達成できる行動目標を立て、それを頭から実行していくならリストは大変強力なツールとなる。それがあれば何とかなる、という希望の光が心に差し込んでくる。しかし、漠然とリストを作り、それをリニアで扱わないのならば、不安材料にしかならない。まさに諸悪の根源だ。

おなじ「リスト」というツールでも、扱い方によって、それがもたらす効果はまったく逆転してしまう。なかなか怖い話だ。

意志力格差

もう一つ考えたのが「意志力格差」という現象だ。

意志力は鍛えられる、という前提を受け入れると、世の中には意志力が(鍛えられて)強い人と、そうでない人がいることになる。しかし、それは見た目ではわからない。さらに言えば、強い力を持つ本人にも、その自覚はないかもしれない。

それは、タチの悪い現象を引き起こす可能性がある。

ボーリングを思い浮かべてみよう。10本のピンを倒すゲームの方だ。

筋力のない人が15ポンドのボールを投げればどうなるか。確実にボールに振り回され、まっすぐ投げることは難しくなる。もちろん、それはその人がボーリングの才能を有してないのではなく、単に筋力不足なだけだ。

あるいは、ゴルフのワンシーンをイメージしてもいい。

身長150cmの人が、自分の背丈よりも長いドライバーを使ったとしたら、どうだろうか。扱いにくいことこの上ないだろう。

こうしたものには「身の丈に合ったもの」を使うのが一番いい。そうでないと、うまく扱えない。

体に関する「身の丈に合ったもの」ならば、すぐにわかる。しかし、意志力はどうだろうか。何しろ測定しにくいものだし、実感もあまりない。すると「身の丈の意志力にあったもの」は、なかなか見定めにくい。

だから、私は「すごい人の仕事術」があまり好みではない。

だいたいにおいて、「すごい人」になっている人はさまざまな経験を積んで、多少ならずとも意志力を鍛えている。その成果が、すごければすごいほど普通の人との意志力の乖離は大きくなるだろう。

で、そういう人たちが使う方法論は、当然のことながら自分の意志力が前提になっている。筋力トレーニングをしたプロボーラーが重いボールを使い、目一杯放り投げるフォームを持っているようなものだ。

果たして、その方法論は経験の少ない・意志力が鍛えられていない人に使えるものだろうか。もし、使えないとして、本人が挫折感を得たり、他者から才能やヤル気がないと罵られたりするのはまっとうなことだろうか。なんとなく、「すごい人の仕事術」と新年の目標には近しいものを感じてしまう。

本当に必要なことは、それぞれの段階に合わせた適切な方法論を提示することだろう。ものすごい高い場所を目指すために、崖を削り、階段を作るように。

さいごに

今回は、「自己コントロール」について話を絞った。これだけでも十分に示唆のある内容が展開されている本だ。その分野に興味がある方は一度目を通しておいて損はないだろう。

が、第9章では育児についての話も展開されている。

「自尊心が高いと、成績が下がる」と聞くと、直感的に受け入れがたい気分がしてくる。

しかし、

自尊心の高い人は、自分が思い悩む必要はないと判断する。他人が自分のすばらしさをわからないのは、自分ではなく他人に問題があるのだ。

という部分を読むと、__あなたも誰かの顔を思い浮かべたかもしれない__なるほどな、と納得させられる。このあたりの話も面白い本だ。

▼こんな一冊も:

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