7-本の紹介

【書評】ビッグデータの正体(ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ)

水を加熱し続けると、水蒸気になります。

エネルギーを加え続けると、状態が変化してしまうわけです。よくよく考えてみると、不思議な現象ですね。こうした現象を相転移と呼ぶそうです。

もしかしたら、同じようなことが「データ」にも起こりうるのかもしれません。

ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える
ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える ビクター・マイヤー=ショーンベルガー ケネス・クキエ 斎藤 栄一郎

講談社 2013-05-21
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※献本ありがとうございます。

概要

本書は、タイトルが示すとおり「ビッグデータ」にズバッとメスを入れた一冊です。

そのメスさばきにも驚嘆を覚えますが、腑分けして取り出される「ビッグデータの正体」には、関心と知的好奇心と、小さいながらも否定しようのない恐怖心を覚えます。

章立ては以下の通り。

第1章 世界を変えるビッグデータ
第2章 第1の変化「すべてのデータを扱う」
第3章 第2の変化「精度は重要ではない」
第4章 第3の変化「因果から相関の世界へ」
第5章 データフィケーション
第6章 ただのデータに新たな価値が宿る
第7章 データを上手に利用する企業
第8章 リスク──ビッグデータのマイナス面
第9章 情報洪水時代のルール
第10章 ビッグデータの未来

第1章〜第4章では、ビッグデータについて解説されています。それまでのデータ処理(スモールデータ)と、ビッグデータは何が違うのか。そのポイントが丁寧に解き明かされます。

第5章〜第7章では、データがいかに生み出されるのか、そしてそれを利用する企業のビジネスモデルはどのように変化していくのかが語られます。ビジネスパーソン、特に若手のビジネスパーソンの方は注目に値する話題でしょう。

第8章では、ビッグデータ社会に潜んでいるリスクが考察されます。『1984』『マイノリティ・リポート』などのSFは、まさにそのリスクを表現していると言ってよいでしょう。最近のアニメ作品の『PSYCHO-PASS』にも近いものがあります。そのリスクは、ビッグデータそのものというよりも、それを扱う人間の姿勢に潜んでいそうです。

第9章では、ビッグデータ時代で社会のルールはいかにあるべきかが提案され、第10章では、本書全体のまとめが展開されています。

ビッグデータとは何か?

本書の第4章までを読んで、私の「ビッグデータ」の認識がまるっと改まりました。

これまでは、「大量のデータを使い、そこから知見を取り出す行為」程度に捉えていたのですが、それはあまりにも不完全な認識でした。

本書におけるビッグデータの捉え方は

「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」

となっています。

つまり、小規模でできることを、単に拡大したものはビッグデータではないということです。

小さい画素は、それだけだと色の付いた点です。しかし、数が集まれば大きな絵を浮かび上がらせることができます。小さな点と大きな絵は、質的にまったく別のものです。小さな画素をいくら拡大しても、それが絵になることはあり得ません。

ビッグデータらしさ

本書では、これまでのデータ処理と、ビッグデータの違いが3点挙げられています。

その1:「ビッグデータは限りなくすべてのデータを扱う」

これは、標本抽出を使わないということです。無作為に選んだ100人のデータ、ではなくデータベースに入っている全データを活用する、ということです。

こんなことが可能なのは、大量のデータを保存・処理するコストが急激に低下している点と、さまざまなものがデータ化が促進されている現状があるからでしょう。

Amazonは書籍のメタデータを大量に持っていますし、Googleは本の中身そのものをデータ化しています。日本企業に目を向けても、買い物履歴のデータを蓄積している企業は多いでしょう。もっといえば、私たち自身__つまり個人すらもデータを大量に生み出し続けています。ライフログを残している人は、特にそうでしょう。

そうしたデータを、標本抽出せずに、全て利用するのがビッグデータです。

その2:「量さえあれば精度は重要ではない」

一つ目に関係してくることですが、そうした大量のデータを扱える場合、一つ一つのデータの精度はそれほど重要ではなくなります。

そして、この2つから導き出される3つめの点が決定的に重要です。

その3:因果関係ではなく相関関係が重要になる

もし、本書が指し示すとおりにビッグデータが社会に浸透した場合、一番インパクトのある変化がこの点になるでしょう。既存企業のビジネスモデルの転位、新しいタイプの情報企業の登場なども無視できませんが、それ以上に私たちの認識に与える変化に注目すべきです。

おそらくその変化は、私たちが時計から「時間」の概念を、地図から「俯瞰」の概念を入手したのと同じぐらい本質的な変化になり得るでしょう。

私たちは、__あるいは私たちの脳は__物事に因果関係を求めがちです。因果関係を見いだせると安心するのです。しかし、その安心感を得るために、現実をゆがめて認識してしまうリスクがあります。当然、そこから生み出される選択も、あまり人生にプラスを与えるものではないでしょう。

ビッグデータ時代には、最終的に我々自身の変化が求められるはずだ。すなわち、無秩序や不確実性にジタバタしない姿勢が要求されるのだ。

この姿勢は、実のところ、個人が「生きていくため」に必要なものです。だいたいにして、人生が無秩序や不確実性に満ちあふれているのですから。
※これについては、別エントリーでも書いてみます。

個人とビッグデータ

もう一点、個人とビッグデータの関わりを考えると、「ライフログ」の存在が浮かび上がってきます。

スマートフォンの登場で、個人がデータを残していくことが容易になりました。また、身につけられる(ウェアラブル)端末の登場で、より多くの情報が、より簡単に残せるようにもなってきています。

すると、記録を残そうという意思さえあれば__そしてツールを購入する金銭的余裕があれば__、自分に関するデータを数多く残せるわけです。

これはゴードン・ベルが『ライフログのすすめ』でも指摘していることですが、企業が大量のデータから新しい消費に関する知見を得られるように、私たちも自分のデータから、自分自身に関する新しい知見を得られるようになるでしょう。これはほぼ間違いない方向性です。

ただ、データの利用はそれだけに止まりません。本書では、「個人が企業などに自分自身のデータを売る」といった状況が考察されています。たぶん、それは十分にあり得る未来でしょう。

今でも業態をこえて使えるポイントカードは、データの宝庫です。個人のライフログならば、利用可能性はより大きく広がることでしょう。もちろん、一人単位のデータの売買は難しいでしょうから、ブローカーが間に入ることにはなります。ただ、皮肉な言い方をすれば、現状でも個人情報が企業間で売買されているのですから、「だったら、俺が直接売る」となっても不自然なことではないでしょう。

どういう形になるにせよ、私たちはデータとの付き合い方を考える必要があります。どんなデータを残していくのか。どんなデータを残していかないのか。そういう話に無自覚でいることはできなくなりつつあります。

さいごに

本書の裏表紙には、「DATE IS NEW OIL」とあります。

たしかに、データは新しい時代の「石油」であるのかもしれません。しかし、データそのものは原油のようなものでしょう。それを分析という精製を通せば、資源としてより高い価値を持つものを生み出せます。これはビジネスチャンスとしてもビッグなものになり得るでしょう。

しかし、石油の乱用と地球環境の変化を考慮に入れると、単純にワクワクと喜んでいるだけでもいられません。著者が第8章で主張しているリスクには、しっかりと耳を傾けておく必要がありそうです。

▼こんな一冊も:
ライフログは、個人におけるビッグデータ利用の萌芽と言えるかもしれません。

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