7-本の紹介

【書評】レイヤー化する世界(佐々木俊尚)

It has been said that democracy is the worst
form of government except all others that have been tried.

ウィンストン・チャーチルの言葉です。

「民主主義は最悪の政治形態らしい。
ただし、これまでに試されたすべての形態を別にすればの話であるが」

そう遠くない未来には、「democracy」に代わる別の言葉が、ここに入るのかもしれません。

レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書 410)
レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる (NHK出版新書 410) 佐々木 俊尚

NHK出版 2013-06-05
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国民国家を前提とした、政治を含む社会システムの終焉。そして、新しいシステムの模索。

そんな社会の変転を本書はイメージさせてくれます。その影響は、あと何十年も生きることになる若者こそが真剣に考えるべきでしょう。

そのためなのか、これまでの著者の本に比べると、文体が若者向けの印象を受けました。小難しい言葉は極力使わない。そんな雰囲気を感じます。また、構成についても、各部の頭に寓話が挿入されるなど、読みやすさが考慮されています。

逆に、過去からの流れを語りながら、未来の方向性を示すというスタンスは、『「当事者」の時代』から引き継がれている著者らしい語り口です。

<らしさ>と<新しいチャレンジ>が同居した一冊と言えるかもしれません。それに本書は、歴史と技術が同居した一冊とも言えます。

概要

目次は以下の通り。

プロローグ 現代
第一部 中世
 第一章 かつてヨーロッパは辺境の地だった
 第二章 なぜ中世の帝国は滅んだのか
第二部 近代
 第三章 「国民」は幻想からやってきた
 第四章 「民主主義」という栄光
 第五章 崩壊していく民主主義と国民国家
第三部 未来
 第六章 すべては<場>に呑み込まれる
 第七章 レイヤー化する社会
 第八章 「超国籍企業」が国民国家を終わらせる
 第九章 新しい世界システムと私たち

要点は、二つにまとめられるでしょう。

一つは、「国民国家と、それに基づく民主主義は、私たちが思うほど盤石なものではない」という点。

もう一つは、「新しいテクノロジーが、産業構造を変化させ、それに伴って社会システムも変わっていくだろう」という点。

前者は歴史の話であり、異論を挟む余地はありません。チャーチルが「tried」という言葉を使ったように、社会システムは様々な実験が繰り返されており、それはまだ続いていると言えるでしょう。今がたまたま「民主主義時代」なだけで、これが完全無欠なシステムであるわけではないのです。

では、後者についてはどうでしょうか。

本書では、新しい社会の変化を示す事例がいくつか紹介されていますが、その変化の流れが確定的であるかどうかは未知です。変化は始まったものの、揺り戻しによって元の状態に戻る、なんてことがないわけではないでしょう。未来とは常に未知なものです。

また、仮にその変化が確定的であったとしても、どのぐらいの速度で進んでいくのかを確定させることはできません。速度というのは案外重要なものです。もし変化までのスパンが長いのならば、「このままの状態」を少しでも維持させようとする人が増えるでしょう。

しかしながら、テクノロジーが進歩し、それが産業構造の変化のトリガーを引き、それによって個人の生活が変わり、追従するように社会システムが変化する、というのは自然な流れです。「まだまだ、社会なんて変わらないよ」と思っているうちに、変化の波がすぐそばまで迫っていた、なんてことも十分にありえます。

私たち__特に若い世代__は、その変化に注意深く耳を傾け、波に流されるのではなく、波に乗れるよう準備しておく必要があるでしょう。

レイヤー化する私たち

本書のタイトルにも登場する「レイヤー化」とはなんでしょうか。

もちろん「コスプレイヤーになる」という意味ではありません。

いくつか説明の道筋はあるでしょうが、私なら

「単一の固定的な存在から、多層的・流動的な存在への変化」

と、言ってみるかもしれません。

「単一の固定的な存在」は、個人に置き換えれば、「会社人間」となるでしょう。アイデンティティが会社と結びついている、というよりそのものになっている人です。愛社精神が豊富である、というよりももはや会社のために生きているとすら言える人。こういう人は馬力がありますが、会社での居場所をなくすと、とたんに折れてしまいます。

「多層的・流動的な存在」は、自身のアイデンティティを複数持っている人です。

つまり、物書きであり、ブロガーであり、メルマガ運営者であり、夫であり、Magicプレイヤーであり、麻雀好きであり・・・といった諸々の要素を重ね合わせて、「自分」というものを認識している人です。

こういう人は、一つの要素で失敗しても、それほど大きく躓くことはありません。アイデンティティが複数の層で構成されているので、一つが欠落しても、全体に大きな影響を与えないのです。それに必要に応じて、層を入れ替えることもできます。それこそが「レイヤー」が持つ機能です。

もちろん、ジョジョの奇妙な冒険に登場するかのように、私の肉体が千切りのように切断されているわけではありません。実体そのものは、アイデンティティがどうあろうが同一です。レイヤー化は、最終的には行動の変化として表出しますが、スタートは認識の変化です。それがトリガーとなり、さまざまな変化が引き起こされるのです。

会社が強力であった時代ならば、自らのアイデンティティを会社だけに預け入れることはそれほど不合理な選択ではなかったはずです。しかし、時代は変わりました。私たちの認識も変化する時がやってきているのでしょう。

「単一のアイデンティティから、複数のアイデンティティへ」

この変化は、間違いなく個人を「しなやか」にしてくれます。

もし、社会とそこに所属する個人がフラクタルな構造を持つのならば、レイヤー化はさまざまな分野にもおよび、それは社会全体にも「しなやか」さをもたらしてくれるでしょう。

さいごに

「レイヤー」と共に、本書のキーワードとなるのが「場」です。

ここで使われている「場」は、「プラットフォーム」よりも、もう少し土俵が広い印象を受けました。
※「場」についての詳しい話は、本書を直接参照してみてください。

本書が指摘するように、今後は「場」を作れる存在が強力になっていくでしょう。また、単一の存在が複数のレイヤーを所持するのならば、場はいくらでも作り出せる可能性があります。

もしかしたら、もう「日本」という国は全体としての希望を持ち得ないかもしれません。しかし、「場」というものは、個人の(あるいは企業の)一つの希望となり得る、かもしれません。

▼こんな一冊も:

複数のアイデンティティについては

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テクノロジーとの共犯関係については

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