紙の本を買いなよ。電子書籍は味気ない。
槙島聖護(まきしま・しょうご)はそう言ったあと、古き詩を歌い上げるようにこう続けた。
本はね、ただ文字を読むんじゃない。自分の感覚を調整するためのツールでもある。
調律?
調子の悪いときに、本の内容が頭に入ってこないことがある。そういうときは、何が読書の邪魔をしているか考える。調子が悪いときでも、スラスラと内容が入ってくる本もある。なぜ、そうなのか考える。精神的な調律、チューニングみたいなものかな。
調律する際大事なのは、紙に指で触れている感覚や、本をぺらぺらめくったとき、瞬間的に脳の神経を刺激するものだ。
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読書という行為は、受動的ではない。
本は私たちに何かを強いる。
だからこそ、そこから何かを計ることができる。
脳を動かす行為
本の中の世界にうまく入り込めないとき、何かがそれを阻害している。それは、自分の心の中にある心配事かもしれない。そういう時は、一旦本を置き、自分の思いと向き合ったほうがよい。あるいは、紙にひたすら思いの丈をはき出してもよい。布団を被るのだってありだ。
たぶん、テレビだと、こういう風にはいかない。ただただぼーっと過ごすことが可能だ。
読書が、脳の機能を起動要求するが故に、脳の機能がうまく働いているのかを知ることができる。
あるいは、調子が悪い自覚があるときでも、気がつけばどっぷりとその世界に引き込まれるような本もある。きっと、その本には何かがあるのだ。その何かは、普段は心の奥の方にあって、自分では気がつくことがない。背中にあるできもののように。
本という物体は、流動的ではない。
記された事柄は、そこに固定される。
だからこそ、変化する私たちについて知ることができる。
固定されたものが持つ力
本に書かれた内容は、変化することがない。しかし、私たちはいつでも流動的に変化する。短時間では感情的に、長時間では経験的に変化する。私は、私という位置を固定することができない。
北極星は、常に北を示すからこそ指標になり得る。書かれた内容が固定される紙の本はまさに北極星だ。あるいは音叉と言っても良い。
固定された内容と、それを読み取る私。その変化から、私は私を知ることができる。
さいごに
電子書籍は、アップデートされる。それはとても便利なことだし、素晴らしいことだ。でも、私たちはそのことの意味を、もう一度考えてみた方がよいかもしれない。本という存在は、決して均一ではない。
紙の本向きのものと、そうでないもの。そういう線引きがどこかには必要なのだろう。きっと。
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