4-僕らの生存戦略 5-創作文

ぶれない軸と刀鍛冶

「せんぱーい」
「ん?」
「ちょっと教えて欲しいことがあるんですよ」
「なんだ?」
「実はですね、<絶対にぶれない軸>ってどうやって作ったらいいんでしょうか?」
「そんなことか。まず、宇宙空間に行ってだな、ガンダニウム合金を・・・」
「いやいや、そういう金属即物凶器的なものではなくてですね。こう、なんというか精神的な軸です」
「あぁ、そっちか。貴様もとうとう兵器による自己防衛の重要性を理解したのかと思ったぞ。まあ、いいか。ようするに、<ぶれない心>とか<揺るぎない信念>の作り方だな」
「はい」
「まず聞くが、なぜそんなものを作りたがっているんだ」
「だってカッコよさそうじゃないですか」
「・・・。それだけか」
「はい!」
「満面の笑みで肯定されると、反論するのもバカバカしくなってくるな」
「いや、ちゃんと他にも理由がありますよ。ええと、その、あの、就職。そう就職活動とかで、キリッって出来そうじゃないですか。私は<絶対にぶれない軸を持っています>なんて言えたら」
「俺様が面接官なら、そんなことをほざく奴は即座に落とすがな」
「なんでですか」
「使いにくそうだからだ」
「そんなの、自分のこと俺様って呼んでる先輩に言われたくないですよ」
「俺様は自分で起業するからいいんだよ。雇われなければ、雇えばいいじゃない、とさる高貴なお方も言っていたしな」
「・・・・・・」
「なんだ、その沈黙は」
「健全な懐疑精神の発露です」
「そうか、まあいい」
「理由はともかく、ぶれない軸を持っていないよりは、持っていた方がいいじゃないですか」
「本当にそうか。たとえば、とあるヨーロッパの一国が、世界中を混乱に陥れる戦争を引き起こした。その国の指導者たる人間は、最後の最後までぶれない姿勢を貫いたぞ。赤い旗を振りながら、自国と周辺の国々に深刻な文化的打撃を与えた奴もいる。そいつらは、世界で偉人と語られている奴らとまったく同じ、あるいはそれ以上にぶれない軸を持っていただろう」
「そんなの・・・」
「そう、これは極端な話だ。だからといって、意味がない話でもない。単に物事の本質をわかりやすいようにデフォルメしたんだ。言いたいことはわかるな」
「・・・はい」
「ここから、一つ教訓が導かれる。<絶対にぶれない軸>を持ちたければ、周りの声に一切耳を貸さないことだ。何が起きてもまたく気にしない。こうすれば、その軸はぜったいにぶれない。なんといっても、ぶらすような干渉が存在しないわけだから、そうなるのは当然だろう」
「それって、頑固と何が違うんですか」
「一緒だよ。というか、見分けが付かない。いろいろな条件を考慮してなお揺るぎない姿勢を持っているのか、それとも単に何も考慮しないで盲信しているのかは、その時点ではまったくわからない。だから、ぶれないという点だけで人を評価すると後で痛い目を見る。そいつか変わるべき時に、変わらない可能性があるからな」
「じゃあ、ぶれない軸を持ちたければ頑固者を目指せばいいんですか。先輩みたいに」
「貴様!誰が、ダイヤモンドよりも硬い意志を持つ男だ」
「誰もそんなこと言ってませんよ」
「ともかく、頑固者なんて目指すものじゃない。ああいうのはな、なってしまうもんなんだ。気がついたら、重力のようにそこに引きつけられて、まったく離れられなくなってしまう。そういうもんだ」
「じゃあ、打つ手無しですか?」
「そういうわけでもない。<絶対にぶれない軸>ではなく、<ぶれにくい軸>ならば道はある。聞きたいか」
「はい」
「刀鍛冶を思い浮かべてみろ。鉄を叩き、強度を上げ、武器に仕立て上げる職人だ」
「一人で工房に籠もって、一日中鉄を叩いている人たちですよね」
「そう表現すると、とたんにダメ人間に聞こえてくるな。まあ、いい。彼らは鉄の強度を上げるが、決して折れない鉄を作ったりはしない。そもそもそんなものは作れないからな。手に入る素材を駆使して、最高の強度を目指す。それが彼らの仕事だ。それは決して折れない剣ではないものの、戦いの場で使うには十分なものだ」
「なるほど。空想の強度ではなく、現実的な強度、ということですね」
「そうだ。それに、刃こぼれすれば、再び鍛冶屋の出番だ。刀に新しい息吹が注ぎ込まれる」
「そうやって、戦える力を持ち続けるのが重要なんですね」
「重要、じゃない。そうするしかないのさ。唯一の現実的な方法だ」
「じゃあ、具体的にはどうすればいいんですか?」
「それは貴様が自分で考えろ。ヒントはここまでだ。ただ、鍛冶という比喩は役立つだろう。熱量、型、継続的な金打ち。そういったものを自分の周りに転写するんだ。あまりに強い力で叩いてしまうと、そこで折れてしまう、というのも一つのポイントだな」
「実体験ですか?」
「貴様は、もう少し先輩に対する気遣いを覚えた方がいいぞ」

▼こんな一編も:
[ラノベ・エチュード]iPadの使い方
[ラノベ・エチュード2]怠惰なSOHO

▼こんな一冊も:

Category Allegory
Category Allegory 倉下忠憲

R-style 2014-06-24
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る by G-Tools

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です