6-エッセイ

嬉しい感想のアナロジー 〜たとえばコンビニで〜

本を書いていると、読者さんから感想をいただけることがあります。

「あの本、面白かったです」や「とてもわかりやすかった」などの感想はとてもありがたく、モチベーションも夏の気温ぐらい上昇します。

とりわけ嬉しいのが「倉下さんの本は全部買っています」という感想。

こういう感想は「ヒツゼツニツクシガタイ」わけですが、無理矢理それをやってみましょう。

たとえばコンビニで

たとえば、あなたがコンビニの店長だとしましょう。店舗運営を任されている、小さくても一国一城のあるじです。

立地は、住宅立地とでもしておきましょうか。店長たるあなたは、さまざまな苦労を抱え込みながら、売り上げアップの工夫を日々積み重ねています。

当然のようにそのコンビニは365日24時間営業で、いつでもウェルカムにお客さんを受け入れています。

「倉下さんの本は全部買っています」

という感想は、そのコンビニに365日毎日買い物に来てくれるお客さんがいる、というのと同じぐらい嬉しい、というのではありません。それでは弱すぎます。

住宅に面したそのコンビニよりも、より内側に__つまり、より住宅に近いところにコンビニが新しくできたとしましょう。店舗も広く、当然のように設備は新品です。3日間の開店セールは大好評で、駐車場は四六時中満杯でした。

「これは、うちの店の売り上げは厳しいことになるかな」

なんて考えているときに、365日買い物に来てくれているお客さんが、

「家からはあの店の方が近いけど、やっぱりこの店だわ」

と言って、同じように365日買い物に来てくれる。

そんな状況を想像してみてください。

できましたでしょうか?

これと同じぐらい嬉しいのです。

そこにあるもの

一つには、その他のお店には無い何かの価値を認めてもらっているという感覚があります。その感覚は、アイデンティティにとって肥沃な肥料となり得るでしょう。

それに加えて、「信頼」や「信任」といった言葉も連想されます。

365日そのコンビニに買い物に行って、本当に満足できるのかどうかはわかりません。新人がミスするかもしれませんし、客足の見込み違いで商品が全然ない場合だってありえます。そういうのを差し引いても「平均点」として、この店なら間違いないだろうと思って頂けるのは一種の「信頼」と呼べるかもしれません。

それと同じように、私の書いている本が、ある人にとって「全て役に立つ」「全部面白い」「オール星5つ」なんてことはあり得ないでしょう。それでも、全部買っていただけているのは、ある種の期待値__平均すれば星4つぐらいは付けられるだろう__を持って頂いているのでしょう。ありがたいことです。

私も、「この人の本なら必ず買う」という作家さんがいます。そういう作家さんの新作情報を耳にするとワクワクしてきます。自分でも、そういうワクワク感を提供できていればいいなあ、なんて思う今日この頃です。

本の楽しみ

こうして考えてみると、本の楽しみには3つの段階があることが見えてきます。

  1. 本を買う前の楽しみ
  2. 本を読んでいるときの楽しみ
  3. 本を読み終えた後の楽しみ

1は、先ほども書いたワクワク感。2は、本の本質。3は、読了後の余韻に加えて、他の人の「あの本、面白かったね」と語り合う楽しみです。

「コンテンツ」というと2ばかりを注目しがちですが、その他の「楽しみ」も総合的にデザインしていくことが大切なのかもしれません。

さいごに

と、考え始めてみたら、まったく違う場所に着地してしまいました。

とりあえず、「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」と言いたかっただけのエントリーでした。

期待値を下げないように、あるいはそれを増加させられるように、本日も原稿書きでございます。

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