7-本の紹介

【書評】未来は言葉でつくられる(細田高広)

たった一行の戦略。

その研ぎ澄まされた戦略が人々の行く先を照らし出し、結果的にそれが現実となる。まるで予言のように。

しかし、人々の行動が未来を作り出すことを考えれば、そこに不可思議な要素は見受けられない。

言葉がイメージを喚起し、それに依って行動が生まれるのだ。言葉が指し示す未来に向かって、人々が進んでいくのだから、その未来が実現するのは予定調和とすら言えるだろう。

そんな力を持った言葉__ビジョナリーワード__の作り方を紹介したのが本書である。

未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略
未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略 細田 高広

ダイヤモンド社 2013-07-26
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※献本ありがとうございます。

コピーライティングの本領

概要については、以下の記事でも触れたので、本エントリーでは最小にとどめておく。

未来をつくる言葉の紡ぎ方(シゴタノ!)

本書は、ジャンルとしては「コピーライティング」に分類できるだろうが、修辞的な技術に関する要素は限定的である。それよりも、もっと大切な要素にページが割かれている。以下は「はじめに」に含まれる一文だ。

ぼやけた未来像を思い描いている会社の企業広告は、やはりぼやけてしまいます。過去の延長線上にある凡庸な商品の広告は、どんなに取り繕っても本質は凡庸になります。

たとえばブログで考えてみよう。つまらない記事のタイトルをいくらこねくり回しても、それで記事が面白くなるわけではない。タイトルによって瞬間的なアクセスを稼ぐことはできるかもしれないが、それでブログの価値が上がるわけでもないし、誰かの役に立つわけでもない。単なるおままごとだ。

広告の仕事を本気で考えるほど、優れた言葉が必要なのは、広告をつくる段階ではないことに気がつきます。経営者が未来を語る言葉や、開発者が商品を生み出す言葉。それぞれが新鮮な響きを持って、人に新しい可能性を見せるものでなければならない。

粗悪な商品の悪い部分を覆い隠すための衣作りではなく、良い商品を生み出すために必要な言葉のつくり方。本書の言葉を借りれば「物事の本質を設計する」ための方法論が本書のコンセプトである。

フレーズが架ける橋

私が、強くはっとさせられたのは以下の部分だ。

しかしながら、構成を言葉にするときには、正しいことを言うときとはまったく違うマインドセットが必要になります。慎重になるのではなく、大胆になること。根拠より、信念を持つこと。きれいごとよりも、まだ誰も言っていないことを話すこと。

私は、できるだけ「正しいこと」を言いたいと考えている。もちろん、そのマインドセットは有用である。無責任な発言は、無益であるばかりでなく、時に有害ですらあるからだ。しかし、慎重な言葉使いだけでは力不足な場面もあるのだろう。物書きとして、大胆な言葉遣いのスキルを伸ばしていく必要があるのかもしれない。

たとえば、Evernote社の「Remember everything.」というフレーズ。これはまさに一行の戦略であり、ビジョナリーワードであろう。

実際、言葉通りにEvernoteが「すべてを記憶」してくれるわけではない。たとえば「香り」の記憶は直接保存しておくことはできない。そもそも、一ヶ月当たりの上限や、1ノートあたりの容量上限もある。その部分を指摘すれば、「すべてじゃないよね」とツッコむことはできる。

しかし、「Remember everything.」というフレーズは、確かに何かを伝える効果がある。このサービスが何を目指しているのか、そういうイメージを共有することができる。

Evernoteを使い馴染んでいる人は、Evernote以前と以後のライフスタイルがずいぶん変わっていることだろう。そして、使い出す前には、After Evernoteのライフスタイルなど想像することはできなかったはずだ。しかし「Remember everything.」というフレーズが、そこに橋渡しをしてくれる。
※ちなみに、「Remember everything.」と「すべてを記憶する」は多少語感が違うだろう。

実践あるのみ

「一行の戦略」たるビジョナリーワードがもたらすものと、その実例が本書の約半分を構成している。

残りの半分が、「ビジョナリーワードの作り方」だ。4つの工程に分け、それぞれについてノウハウが紹介されている。気になる方は上にあげたシゴタノ!の記事を参照されるとよいだろう。

この手の本は、読んで「ふ〜ん」と唸っているだけでは、乾燥したウェットティッシュぐらい役に立たない。ノウハウを実践し、身につけてこそ、始めて「役に立った」と言える。

というわけで、実際に4つの工程をやってみた。なんといっても、自分の手を動かすことが、学びの最短ルートである。

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まず、A4用紙(写真はルーズリーフ)を横向きにセッティングし、本書で紹介されている4つのプロセスごとにスペースを切り分ける。ヒントになりそうなトリガーワードも合わせて書いておく。準備はこれで終了。

あとは、実際にそれぞれのプロセスについて考え、その内容を書き込んでいく。

黙考だけでは、思考は散らばるだけだが、書き付けていけば整理が進むし、書き付けた内容から新しい発想が生まれることもある。筆考は大切だ。

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「現代において知的生産行為およびその技術は、限られた人々だけに必要とされるものなのだろうか」

というのが、私の「現状への疑問」だ。さらに「ラベル剥がし」として、知的生産という言葉を使わずに、それが持つ要素について考えてみた。情報やインフォメーション、人間や思考といった言葉が出てきた。

次に「未来を探る」プロセスとして、「もしも?」を考えてみる。

「もしも、誰もが知的生産の技術に親しめるようになったら?」
「気軽に、その技術を理解・習得できるようになったら?」
「ゲームをプレイするかのように、その技術を学ぶことができたら?」

なるほど、なかなか面白そうな未来である。きっとそんな世界での個人ブログは、とても楽しいものになるだろう。

そして、いよいよ「言葉をつくる」工程だ。紹介されている5つの技法を、一つ一つ試してみた。「呼び名を変える」は私がよく使う方法だ。「喩える」は十八番だし、「ずらす」はたまに使う。「ひっくり返す」と「反対を組み合わせる」は、意識して使ったことはなかった。

「ひっくり返す」なら「俺にはカンケーないと思っている人のための情報作法」あたりだろうか。「漫画でわかる知的生産」も面白そうな気がする。

「反対を組み合わせる」なら「自堕落な知的生産」とか「不精者の情報生産」が作れそうだ。

これらの3段階のプロセスをやってみて実感したのは、一連のプロセスは私が「企画」を考える時にやっていることそのものだ、ということだ。ただし、普段はこれらの3段階を区別していない。思考はあっちいったりこっちいったりしながら、そしてそのたびにゴツンゴツンと壁にぶつかりながら進んでいく。

こうしてプロセスを分化し、一つ一つ手順を踏んでいけば、もう少しスムーズに思考を進めることができるかもしれない。

と、一通り書き出したところで、「計画をつくる」に着手した。

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やることはたくさんあるが、面倒さよりもワクワク感が強く湧いてくる。あるいは、そんな気がしてきた。

さいごに

本書は「言葉を使って未来をつくるための本」とある。

確かに、言葉には人を引っ張る力がある。

最後に一つ、私が大好きな「人をつくるための言葉」を紹介しておこう。ドラッカーの言葉だ。

「何によって憶えられたいか?」

今日でも私は、この問い、何によって憶えられたいかを自らに問いかけている。これは、自己刷新を促す問いである。自分自身を若干違う人間として、しかしなりうる人間として見るよう、仕向けてくれる問いである

▼こんな一冊も:

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営
ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営 P.F.ドラッカー

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