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【書評】ヤバい経営学(フリーク・ヴァーミューレン)

流行の経営手法に興味があるなら、以下の本はとてもオススメである。

ヤバい経営学: 世界のビジネスで行われている不都合な真実
ヤバい経営学: 世界のビジネスで行われている不都合な真実 フリーク ヴァーミューレン Freek Vermeulen

東洋経済新報社 2013-03-01
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きっと、そんなものには見向きもしなくなるだろうから。

ヤバいシリーズ

東洋経済新聞社から発売されている「ヤバいシリーズ」の第四弾。といっても本当にシリーズものというわけではない。著者も違うし、翻訳者も違う。ただ、「視点の持ち方」については一定の共通項がある。

「これまでの常識に疑問符を投げつける」

そんなスタイルだ。

著者のフリーク・ヴァーミューレンはロンドン・ビジネススクールの准教授。教鞭をとるだけでなく、経営のアドバイスや原稿書きにも忙しいようだ。本書はその著者の処女作である。

原題は「Business Exposed」。日本語版のカバーでは、バナナの皮がむかれ、高層ビルらしき「中身」が露わになっている。上っ面の皮をはぎとって、ビジネス業界の真なる姿をさらけだした一冊。そんなイメージだろうか。

本書の言葉を借りれば「企業の非合理的な側面」が中心的なテーマである。これは、行動経済学に通じるところがある。

というか、人間存在が非合理的な行動(これをどう定義するかは別として)をとる以上、その人間によって組織された存在が完全合理的であると考える方がどうかしている。

しかし我々は、人間に対してと同様に、企業も「合理的に振る舞っている」ように期待するのだ。その期待が、ときに大きな損害をもたらすとしても。

概要


章題は以下の通り。

Introduction モンキーストーリー
1 今、経営で起きていること
2 成功の罠(とそこからの脱出方法)
3 登りつめたい衝動
4 英雄と悪党
5 仲間意識と影響力
6 経営にまつわる神話
7 暗闇の中での歩き方
8 目に見えるものと目に見えないもの
Epilogue 裸の王様

章題だけでは、中身が少しわかりにくいかもしれない。

イントロダクションの「モンキーストーリー」は、この界隈では有名なお話だ。最初に機能していたルールが、世代を超えて受け継がれ、やがて誰一人としてその目的を知らないまま、ルールだけが残存してしまう。企業でも、きっとよく見られる光景なのだろう。クリス・ギレボーの『常識からはみ出す生き方』でも「5匹のサルの教訓」として紹介されている。

目的が喪失され、形骸化した習慣は、非合理的な行動を導いてしまう。あるいは「みんながやっているからといって、正しいわけではない」。そんな含蓄を含んだお話である。そこから教訓的に導かれる「それって本当に正しいの?」という視点が、本書の土台であると言ってよいだろう。

それに続く各章では、流行の経営手法のまずさ、ストックオプションがもたらす弊害、企業買収の難しさ、社外取締役の機能不全、投資銀行の利益相反の可能性、アナリストの(予想以上の)影響力、といったトピックスが扱われていく。

アナリストの限界が定める企業価値

行動経済学の本と同じように、本書では面白いエピソードがたくさん紹介されている。たとえば、とある証券会社が出したモンサントという企業についてのアナリストレポートの一節が以下だ。

(前略)しかし、このような手のかかる分析手法は、ウォールストリートでは一般的にならないだろう。この点を考慮すると、投資銀行から正しい分析と正しい株価評価を行ってもらうためには、モンサントは企業形態を変える必要があるだろう。

モンサントは手のかかる分析手法でないと正しく評価されない企業形態になっている。ウォールストリートは、そんな手のかかることはしない。だから、分析されやすいように企業形態を変えた方がいい。

はたして、こんなアドバイスがありうるだろうか。企業の価値が正しく分析できないから、分析しやすいように変われ、なんて。まるで__あなたの書きたいことは別として__、アクセス数を集める記事を書きなさいというブロガーへのアドバイスのようだ。

しかし、実際企業というのは株価に影響を受けるものだし、その株価に影響を与えるのはアナリストたちである。まっとうに論法を進めれば、企業価値に影響を与えるのはアナリストと、その能力の限界ということになる。やれやれだ。

この話は人間の能力の限界と、そこから生まれる非合理的な活動を露わにすると共に、「評価」が重要な指標であることも物語っている。「評価」とその仕組みが、長期的な行動の指針と成果に強い影響を与えるのだ。これは企業活動だけに限った話ではない。

アンチビジネス書的ビジネス書

もう一つ、別の方向の面白さもある。

本書では『エクセレント・カンバニー』『ビジョナリー・カンパニー』『本業再強化の戦略』といったビジネス書の名前をあげて、軽めに批判を加えている。簡単に言えば「相関と因果関係の混乱」への指摘だ。コアビジネスへの集中、強い企業文化、といった施策が成功の原因ではなく、成功したからそういう施策がとれたのではないかと著者は言っている。確かにそういう側面は大いにあるだろう。

しかし、

(前略)自動車工場を視察に行ったアメリカで、むしろスーパーマーケットにヒントを得てカンバン方式を作り上げたトヨタ自動車──彼らの成功は、合理的な経営分析や戦略というよりも、運そのものと、偶然から幸運をつかみ取る力から生まれているのではないだろうか。

という指摘は『ビジョナリー・カンパニー4』で「運の利益率」として説明されている。さらに、

穏やかなペースで着実に成長したほうが、爆発的に成長したときよりも結果的に儲かるのだ。

という指摘も『ビジョナリー・カンパニー4』で「20マイル進行」として紹介されている。重なる部分が多いのだ。
※ちなみに、原書では『Business Exposed』が2010年、『Great by choice』(ビジョナリー・カンパニー4)が2011年の発売。

その他ドラッカーが指摘する「経営」の話と合致するところも多い。

ある部分では、これまでの「ビジネス書」を蹴散らすと共に、別のある部分では、厚みを加えてもいる。

最終的に何を信じるのかは、もちろん読者次第なわけだが、本書において「これまでのビジネス書」への懐疑を得ることは、何かしらの役には立つだろう。

さいごに

以下はイントロダクションよりの引用だ。

(前略)ある企業や人々はXを正しく実行して成功した。それに関する一二四ページの事例を読んだ後に、Xをすればよい、と教えてくれる。私はXについて話すこともしないし、何をしたらよいかを教えるつもりもない。私がやりたいのは、ビジネスにおけるおかしな点について、何が起きているのかを伝えることである。

著者のこの試みは成功していると言ってよいだろう。ビジネス界のおかしな「常識」に疑問を投げかけ、学術的に問題点を指摘するというコンセプトは実に楽しく読めるし、示唆も多い。

では、日本語版に付けられた「日本の読者の皆さんへ」に書かれたテーマはどうだろうか。

世界は非合理的だということを見ていくだけではなく、実際はどうすればビジネスがうまくいくのかを明らかにすることが、本書の重要なテーマだ。

このテーマについてはやや心許ない部分がある。実際に有益な指摘もあるが、アナリストの問題は対処しようがないし、組織再編についての実行権を持っている人など、一握りである。では、そういう「経営者」しか、本書は役に立たないのだろうか。

いやいや、そんなことはない。本書に登場するエピソードは、個人やチームでの仕事にも役立つことが多い。

それについて、次回以降連載で紹介していこう。

▼その他リンク:
freekvermeulen.com
FREEKY BUSINESS
@Freek Vermeulen

▼こんな一冊も:

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