物書き生活と道具箱

手帳がもたらすもの。あるいはそれが白紙であっても

以下の記事を読みました。

タスクシュートは前進させる(ライフハック心理学)

本当に何もせず、黙って時間をやり過ごしていると、何か自分だけ置いていかれているような錯覚を覚えます。しょせんは社会的な強迫観念のようなものですが、決していい感覚ではありません。

もう少し引用を続けます。

しかし、自分の心理的な動きを時間を計測しつつ記録していくと、同じようには感じません。ヨレヨレながらも、自分もちゃんと生きていて、起きて、動きについて行っているような感覚を覚えます。呼吸しているだけでもです。そして、その方がリアルに近いと思うのです。なぜなら私は、本当に静止して、死んでしまっているわけではないからです。

以上は、タスクシュートというツールを使うことで起きる心理的現象を説明したものです。

私は実際にタスクシュートを使って一日を進めたことはありませんが、ここで表現されていることは理解できます。ただし、時間軸をもう少し広めに取った場合の話になりますが。

手帳がもたらすもの


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365日分の記入ページがあるほぼ日手帳。ここに、予定だけではなく、実際にどんな行動を取ったのか、そして何を考えたのか。それを日々記録しています。

それは「自分の心理的な動きを時間を計測しつつ記録していく」という行為の、時間的な拡張と言えるでしょう。もちろん、リアルタイム性はぐっと薄れます。一日の最後に__あるいは次の日の早朝に__書き出すのですから、時間の実体感は希釈されます。

でも、効果がまったくないかというとそういうわけでもありません。

手帳を書く。あるいは過去に書いた手帳を見返す。

そうした行為の中には、確かに「自分はとにかく<生きている>」という感覚を与えてくれるものがあるのです。いや、もしかしたらこの表現は正確ではないかもしれません。「自分はとにかく<生きていた>」と言った方がいくぶん正確でしょう。もちろん、この<生きてきた>には現時点の<生きている>に繋がるものがあるのですが、比重と言えば前者の方が大きいかもしれません。

それは不思議と、まったく白紙のページであってもよいのです。もちろん、全てのページが白紙であってはいけません。でも、所々抜けたページがあっても、「まあ、この日もそれなりに生きていたんだ」と実感できるのです。

実感をもたらすもの

実感。

不思議な言葉です。

カタカナを持ってくれば、リアルに感じられる、になるのかもしれません。

私たちが、「生きている」ということを実感できるのはどんなときでしょうか。一つは、はっきりしています。それは死に直面したとき。それはまざまざと「自分が生きている存在である」という事実を突きつけてくるでしょう。生を実感しないわけにはいきません。

では、それだけでしょうか。

たぶん、記録に触れるというのもその一つなのだと最近感じます。

記録、もっといえば情報は私たちに何かしらの感覚を与えます。そこに、その実体が無くてもよいのです。村上春樹さんの小説を読むと、ビールを飲みたくなりますよね(ますよね?)。精緻な描写のカレーは、食欲をそそることでしょう。残酷な写真は涙を誘います。

であれば、自分が生きた記録も、自分が生きてきたという事実を実感させてくれてもおかしくはありません。そして、実際にそうなのです。

今という牢獄

残念ながら、私たちは「瞬間」の中でしか生きられません。「今」というのは、本当に短い時間の幅でしかなく、私たちはその「今」に閉じ込められているのです。

でも、記録は違います。記録はその檻を抜け出るための鍵を手渡してくれます。

ほとんど何も無かったかのような毎日を送っていたら、きっと私たちの記憶の中ではそんなものは無かったかのように扱われてしまうでしょう。脳は情報をZIP圧縮のように効率的に保存してくれます。

でも、そこに生きた日々はあったのです。忘れてしまったものは、存在しなかったものとイコールではありません。いや、記録のない世界ではそれはイコールになるかもしれませんが、記録はそこに改変を加えてくれるのです。

さいごに

もちろん、ありとあらゆる願いに対価が必要なように、記録を残すことも良いことばかりではありません。

単純に手間がかかるということもそうですが、思い出したくないような記録というのもあるものです。記録を残すことは、それに触れる可能性のデメリットも生み出してしまいます。

それでも。

私たちは、あるいは私は限定された檻の中から抜けだして、さまざまなものを飲み込んでいく選択をした方が良いのではないかと感じます。

それは確かにあったのですから。

そう信じられるのならば。

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