7-本の紹介

【書評】決定力! :正解を導く4つのプロセス(チップ・ハース&ダン・ハース)

人生において、難しい問題はいくつもある。

もちろんそれは数学的証明といったことではなく、「意思決定」を必要とする問題だ。

どんな新車を買おうか。今の仕事を続けるのか、辞めるのか。
あの人と結婚する?どこに投資すればいい?

頭を抱えて悩んだ人も多いだろう。

これらの問題の難しさを生み出しているのは、そこに客観的な「正解」が存在しないという点だ。40代後半の管理職の男性はクラウンに乗っていれば決して後悔することはない、なんて方程式は存在しない。何かの式に値を導入すれば、確固たる答えが導き出せるわけではないのだ。

ちなみに、そういう式があたかも存在するかのように鼓舞(あるいは脅迫)するのが、典型的な広告手法であるがそれはまあいいだろう。

「問題」は、その性質によって答えに迫るアプローチが違う。意思決定を必要とするような問題には、方程式を解くのとは違ったアプローチを用いる。

そして、本書はそのアプローチ(プロセス)を紹介した一冊である。

決定力! :正解を導く4つのプロセス
決定力! :正解を導く4つのプロセス チップ ハース ダン ハース Chip Heath

早川書房 2013-09-20
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概要

著者はチップ・ハースとダン・ハース。この兄弟共著者は、『アイデアのちから』『スイッチ!』と個人をエンハンスする書籍を世に送り出している。ようは「役に立つ本」なのだ。もちろん、本書も同様である。

章立ては以下の通り。

第1章 意思決定の四つの罠
第2章 視野の狭窄を避ける
第3章 マルチトラックする
第4章 自分と同じ問題を解決した人を見つける
第5章 逆を考える
第6章 ズームアウトとズームイン
第7章 ウーチングする
第8章 一時的な感情を乗り越える
第9章 核となる優先事項を貫く
第10章 未来を“幅”で考える
第11章 アラームをセットする
第12章 プロセスを信じる

先ほど、問題の難しさは「正解」が存在しない点にあると書いた。実はそれだけではない。私たちの頂に鎮座する「脳」が持つ特徴__長所と短所__が、問題をより難しくしているのだ。

その特徴については、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』が詳しい。本書でもお勧めの図書の一冊目として(さらに言えば<必読書>として)紹介されている。なんなら、私もそこに「オススメ」というハンコを押してもいいぐらいだ。その本を読めば、私たちが(私たちの脳が)抱え込んでいるバイアスについて相当詳しくなれることは間違いない。

脳が抱えるそうしたバイアスが、問題解決を困難にしてしまう。もう少しいえば「意思決定」を歪めてしまう。

私たちは見たいものだけを見る傾向があるし、一時的な感情で価値の天秤が大きく揺らいでしまうこともある。対比によって価値の感じ方も変われば、自分自身に過剰とも言える自身を抱くこともある。

こんな状況で下される「決断」は果たして正しいのだろうか。あるいは満足いく結果をもたらしてくれるのだろうか。

そこで著者たちは、これらのバイアスの中で意思決定に影響を及ぼすものを4つにまとめ、それを克服するための4つのプロセスを提示している。それが、WRAPプロセスだ。

WRAPプロセスとは

さて、WRAPプロセスとは何だろうか。

  • 選択肢を広げる(Widen Your Options)
  • 仮説の現実性を確かめる(Reality-Test Your Assumptions)
  • 決断の前に距離を置く(Attain Distance Before Deciding)
  • 誤りに備える(Prepare To Be Wrong)

この4つのプロセスの頭文字を取ったものだ。Wrap、つまりバイアスの影響から身を守るコーティングを施す、という意味が込められている。
※Wrapは「包装する」や「くるんで保護する」という意味。

これらのプロセスの詳細は本書に譲るとして、これはどの程度役に立つのだろうか。

私は大いに役立つと思う。特に一つ目の「選択肢を広げる」だけでも、意識するのとしないのとでは大雨の日に傘を持っているのかどうかぐらい違ってくる。あるいはキュゥべえの正体を知っているかどうかぐらい違う。

人はすぐに、本書が提示するところの「視野の狭窄」に陥る。頭にのぼる選択肢が非常に限定されるのだ。つまり「AかBか、どちらにすべきだろうか?」という問いが頭を占めるのである。そこでは、CやDの選択肢は検討すらされないし、AもBも選ばないという考えも見過ごされる。さらにいえば、AもBも選ぶというアイデアも出てこない。

イメージで言えば、捜し物をするときに電気が付いている部屋だけを探すようなものだ。そこにあるかどうかではなく、探しやすいからという理由だけで探索が行われている。おそらくその方が脳のエネルギー消費が少ないのだろう。しかしそれでは満足な結果は得られない。

意思決定が二者択一の溝にはまり込んでいるとき(白黒思考と名付けよう)、「選択肢を広げる」ことが必要だ。本書ではそのためのノウハウがいくつも提示されている。

さいごに

もちろん、このWRAPプロセスを使えばどんな難問でもへっちゃら!というわけにはいかない。

最初に述べたとおり、問題の性質によって答えに至るアプローチは違ってくるのだ。

麻雀で次の打牌を決めるとき、今日の献立を決めるとき、喫茶店でコーヒーを注文するとき・・・このプロセスは別段役に立たないだろう。

経験に裏付けられた直感こそが最適な解を最速にだせる問題もある。あるいは地道に一つ一つ数字を入力していけば答えが出てくる問題もある。

ただし、人生において「そう何度も経験しない」問題というのは確かにある。その問題では、フィードバックを重ねることによって学習していく直感はまるで役に立たない。いやむしろそんな中でも何かしらの答えを出してしまう分、有害とすら言えるかもしれない。専門外のことを自信満々に断言する専門家のような存在だ。

そして、もちろん人生には方程式もない。

そういう問題にぶつかったとき、このWRAPプロセスは頼りがいのある武器になってくれるだろう。もちろん、最後の最後に決断するのはあなた自身であるし、その結果の責を負うのもあなただ。そして、WRAPプロセスは絶対の成功を約束してはくれない。なんといっても取り組むのは、客観的な「正解」のない問題なのだ。

でも、じっくりと考えて決断すれば、自分なりの納得感を持って結果を受け入れられるだろう。それが後悔の少ない生き方なのだと思う。

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