斬新なアイデアと投石器

「せんぱーい」
「ん?」
「ちょっと聞いてくださいよ」
「なんだ、今日は質問じゃないのか」
「ある意味では質問ですし、別の意味では愚痴です!」
「ややこしいな。まあいい、言ってみろ」
「実はですね。この前、とある企業のインターンに行ってきたんですよ。結構有名な大企業だったので、ちょっとテンションあがり気味に」
「よくそんなところのインターン権ゲットできたな。貴様なんぞにコネなどなかろう」
「直接的にはなくても、コネを持っている人を探すことはできます!幸い同じゼミのオタクっぽい男子がその企業の部長さんの息子という噂を聞きつけて、ちょちょいとアプローチしたらばっちりでした!コネにコネをつなぐ、延長コード戦略です」
「……まあ、それも立ち回りの一つか。しかし、よくそんな噂話を手に入れられたな」
「先輩はなんにも知らないんですね。SNSですよ、SNS。シューカツSNSでは、そういう情報が3日間煮込みまくったカレーのように濃厚に飛び交ってますよ」
「あまり関わり合いたくない世界である、ということはよくわかった。それで?」
「えっと、それでですね、その企業のインターンの3日目のカリキュラムに企画会議があったんですよ。しかも、見学ではなく参加させてもらえるというビッグなチャンス。人数が限られているということで、真っ先に挙手したんですよ。やっぱりアピールって大切ですから」
「まあ、それはそうだな。その企画会議で何かあったのか」
「そうなんですよ。企画会議といえば、円卓で繰り広げられる超絶ブレストバトルじゃないですか」
「まず、貴様のその認識を改めるのが先だと思うが、まあいい」
「それで、私はばんばんアイデアを出しちゃったわけですよ。もう、業界を背骨から変えてしまうような斬新なアイデアさんたちを」
「きっと、参加していた社員らは目を見開いて、凍り付いていたんじゃないのか」
「よくわかりましたね。もしかして、監視カメラをハッキング?えっ、それともストーカー?……」
「正常な想像力が働いていれば、シャーロックホームズ検定一級でもわかる。それで、どうなったんだ?」
「結局、私の出した斬新なアイデアさんたちは、ことごとく否定、却下されました」
「罵倒されなかっただけでもありがたいと思うべきだな」
「しかも、その理由がひどいんですよ。前例がないだとか、リスクが計り知れないとか、そんなことばっかり。でも、おかしいですよね。新しいアイデアなんだから、前例がなかったりリスクが計れないのは当たり前じゃないですか。そんなこと言いながら、新しいアイデアを求めて会議するなんて矛盾してます。私、不愉快でした」
「そのセリフは赤いメガネをかけて言わないと魅力値に加算ボーナスが発生しないぞ」
「なんのことですか?」
「純然たる私の趣味の話だ」
「あぁ、アニメ嗜好に彩られたフェティズムをお持ちの先輩の趣味の話ですか」
「貴様!誰が、妄想の暴走者:ファナティック・デイドリーマーだ」
「誰もそんな二つ名付けてませんよ」
「ともかく、貴様は良い体験をしたのだよ。業界が健全に動いている証拠だ」
「健全?あれがですか。ちょっと納得できません」
「大企業には大企業のルールがあり、力があり、制約があるということだ」
「制約?」
「そうだ。もし貴様が提案したアイデアをその企業が採用して、大失敗に終わったとしよう。投資は全てゴミとなり、莫大な借金だけが残る。被害を被るのは誰だ?アイデアを発言した奴か、それとも承認印を押した役員か。もちろんそれで済むはずがない。そこで働く社員すべてに悪影響が出てしまう。最悪リストラもありうるだろう。そんなことにGoサインが出せるのか」
「それは……」
「もし、同じアイデアにチャレンジするのが少人数の、そして生まれたての企業ならばGoサインはずっと出しやすくなる。もちろん失敗はするだろうが、影響は限定的だ」
「でも、それだと大企業は新しいことにチャレンジできず、新興企業だけがイノベーションに取り組むことになりませんか」
「それでいいのさ。大企業は大企業であり続けるために、リスクの小さい施策を打ち出す。リスクを気にしなくていい新興企業がそのニッチに飛び込む。そこでチャンスを掴んだ一握りの経営者が、やがて会社を大きくしていく。古き大企業は没し、新しい大企業が生まれる。そして、同じサイクルが巡る」
「つまり、新陳代謝のような?」
「そうだ。それが機能している限り、その業界の水は濁らない。これは重要なことだ。業界というレイヤーで、大きいのが偉い、小さいのが偉くないと考えるのは愚かなこと極まりない。ヒエラルキーではなく、ポジショニングで捉えるんだ。そこではそれぞれの役割が違う。ダビデが大剣や大槍を振り回しても意味がないし、ゴリアテが投石器を装備したって扱えない」
「じゃあ、あの会議では、私は無難なアイデアを言っておけばよかったということですか?」
「貴様が、その企業にどうしても勤めたいというのならば、そうだろうな。わずかにだけ新しいアイデアをポンポン出せれば、<使える奴>と認知されただろう。ただし……」
「ただし?」
「自分の想像力を押さえ続けて仕事をするというのは、かなりハードだろうがな」
「……たしかに、それはちょっとしんどいかもしれません」
「人は、想像力の翼で空を飛ぶんだ」
「先輩は、妄想力に振り回されちゃってる感ありますけどね」

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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