リアル書店と電子書籍の話がいろいろ持ち上がっているようです。
一人の本読みとしても、一人の物書きとしても興味深い話ではありますし、マーケティング的にも関心を寄せたくなります。
どういう形が良いのかは、これから議論が深まっていくことでしょうが、一つだけはっきり感じるのは、遅いというか後手に回っているという印象です。ビジネスのスピード感が若干乏しいというか、「こうこられたから、(仕方なく)こうするか」という感じを受けます。
こういうのを日本企業的な体質、と括ってしまってもよいのですが、それとは別にふと思ったことがあります。
それは、「電子書籍」が現実感を持ってきたときに、ちょっと煽りすぎてしまったのではないか、ということです。
衝撃が強すぎた
少し前ですが、電子書籍が普及すれば紙の本はなくなる、みたいなインパクトの強いメッセージが流れていました。落ち着いて考えれば、それは実体のない話ですが、実体がないが故に想像力を刺激します。影は、頭の中でどんどん成長し、「とんでもない驚異」へと変化していくのです。
そういう驚異に直面したとき、人が取る行動はだいたい二つです。
断固として攻撃するか、徹底的に無視するか。
「うまく共存しよう」という発想はなかなか生まれてきません。
なにせ、「とんでもない驚異」なのですから仕方ないでしょう。おそろしく凶暴な火星人が地球に到着するというニュースを受けたら、「徹底抗戦」か「そんな話は嘘だ」というリアクションになってしまうでしょう。
もし、「たまに怒るかもしれないけど、まあ普通の生命体だよ」ということが分かっていれば、「じゃあ、火星人地区でも作りますかね」みたいな話が出てくるかもしれません。でも、なかなかそうはいかないものです。
もしかしたら、ITに疎い人が__意思決定の現場に__多かったのかもしれません。そうであれば、「とんでもない驚異」は想像力の中で、さらにその驚異を増してしまいます。まあ、その辺の話には踏み込まないようにしておきましょう。
ともかく、「うまく共存しよう」という姿勢がもっと早くからあれば、速度感もまた違ったものになっていたかもしれません。逆に言えば、今からでも新しい道を見つけられる可能性は十分あるように思います。今までがダメダメでも、これからがダメダメであるとは限りませんので。
書店、ハイブリッド、共存
拙著『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』では、読書に関係して書店の話も(少しだけ)書きました。ソーシャル時代のハイブリッド読書術 |
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倉下 忠憲
シーアンドアール研究所 2013-03-26 |
リアル書店とネット書店は、ユーザーからみて使い分けのできる存在です。使い分けができるなら、共存の可能性は十分あります。
上の本では、リアルの書店を「本と出会える場所」として捉えました。「本と出会える」をどう解釈するかは、たくさんの余地があります。そして、それは書店の多様性を担保することでもあります。ただ、一つ言えるのは「読者と本との出会いをデザインする」のが書店の役割だ、ということです。
その視点さえしっかりしていれば、その中で(あるいは延長線上で)、電子書籍という商材もうまく使えるはずです。あとは、書籍を取りまくその他の業界が、それをサポートできるかどうかの話です。
きっと、「書店はいかにあるべきか」を真摯に問わないまま、(何かしらの都合で)電子書籍を書店に持ってきても、それは機能しないでしょう。それをどのように位置づけたらいいのかわからないのですから、仕方ありません。
しかし、辞書を引くように「書店はいかにあるべきか」という問いに答えることはできません。それは結局、ドラッカーのいう「顧客を創造する」ということだからです。
希望は、ある
コンビニで働いていたときは、やっぱり客数が気になりました。客数が落ち込めば、将来的な売り上げに不安材料が出てきます。逆に客数さえ増えていれば、客単価が上がっていなくても希望は持てます。何かのきっかけで売り上げが作れる可能性があるからです。リアル書店を見てみれば、結構の人がそこに足を運んでいるように感じます。私はしょっちゅう書店に行きますが、なんだかんだで多くの人が書店をうろうろしています。もちろん、それが「お客さん」かどうかはわかりません。はなから本を買うつもりのない人もいるでしょう。しかし、「見込み客」も少なくないと思います。
来店する人がいて、それに見合う売り上げが立っていないのだとすれば、何かが足りていないのでしょう。それは先ほど出てきた「出会いのデザイン」です。
しかし、逆に言えば来店する人がいるかぎり、可能性はまだまだあります。むしろ、今後面白いことになっていく希望すら垣間見えます。
さいごに
「書店は、紙の本が置いてある場所」という定義をまるっと白紙にして、何か別のものを立ち上げられれば、今後も続くビジネスになるかもしれません。もともと小売業__というかビジネス全般__なんて自由なものです。コンビニも「日用雑貨が置いてある場所」であれば、これほど広まることはなかったでしょう。やはり「便利な場所」を追求し続けてきたからこそ、今のような多機能化が実現したという部分があります。
もし、「本と出会える場所」を、「<本>と出会える場所」に変換すれば、また違った広がりがでてくるでしょう。あるいは「<面白い情報>と出会える場所」に変換すれば、何でもあり状態になるかもしれません。それもまた一興です。だいたい、全国の書店が一様に同じ在り方である必要はありません。むしろ、それはそれで不自然でしょう。
これからどのような変化が起こるのかを予測するのは、たぶんあまり意味がありませんが、「人が情報を欲する気持ち」と「場所が持つ力」の二つは変化しないように思います。あとは、それをどのように結びつけるのか、ということですね。
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倉下 忠憲
シーアンドアール研究所 2013-12-21 |
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