先日の記事で、アウトライナーとこざね法は少し違うと書いた。
「梅棹忠夫の七つ道具ワークショップ」に参加してきました(R-style)
ただし、アウトライナーは、そのまま「こざね法」を実践するには少し力不足です
今回は、何が力不足なのかを言及した上で、こうあって欲しいアウトライナーの新しい形(あるいは別バージョンのナレッジオーガナイズツール)のあり方を提唱してみよう。
「こざね法」について
まずは、「こざね法」から。小さな紙一枚を「こざね」と呼び、そこに文章を構成するトピックをひとつひとつ書き込んでいく。そうした「こざね」を縦に並べてホッチキスなどでとめる。これが「こざね法」だ。
文章の流れを書きながらではなく、事前にある程度固めてしまう。そういう手法と言えるだろう。
どういう順番で要素を配置すれば、文章の「通りがよくなる」のか。それを脳内シミュレーションではなく、目に見える形で、手で操作できる形で実践するのが「こざね法」だ。
以下のように連結したこざね群を横に並べていくこともできる。もちろん縦やななめに配置することもできるだろう。アナログならではの自由感(制約の少なさ)がこの手法にはある。
アウトライナーとは
では、アウトライナー(アウトラインプロセッサ)はどうだろうか。雰囲気はエディタと似ているが実際は将棋と軍人将棋ぐらいちがう。あるいは四人打ち麻雀と三人打ち麻雀ぐらいちがう。ともかく、別のツールだと思った方がいい。アウトライナーは、エディタよりも、タスク管理ツールの方が近いかもしれない。
一般的なアウトライナーでは(以後、アウトライナーと呼ぶときは、一般的なアウトライナーを指しているものとする)、一行一行が操作可能になっている。コピペなどを使わずに、行ごとに順番を入れ換えることが可能だ。
階層化
また一直線に並べるだけでなく、そこに凹み(あるいは階層)を作り出すこともできる。こうすれば、「第一章の第一節の第一項にはこれを書く」といった表現も可能になる。構造を持った文章を書く上では非常に役立つ機能だ。上にあげた二枚の画像を比較してもらうとわかるが、要素を階層化すると非常に見やすくなる。どの要素が、どの要素に従属しているのか。それがすぐに把握できる。
文章の形にアウトプットしても、こうした現象は変わらない。当Blogでは、記事の中身を<H3>と<H4>タグで区切っているが、これも階層化の表現だ。区切るだけでなく、意味の固まりを生み出し、その従属を明らかにしている。
一直線に並べるだけなら、アウトライナーは非常に使いづらい。この階層化があることが、アウトライナーのアウトライナーたるゆえんである、とすら私は思う。
また、階層化機能に付随して、必要ない階層を「見えなくする」こともできる。そうすることで、画面に表示される情報量をコントロールできるのだ。これは、ディスプレイという限られた広さしか持ち得ないデジタルツールでは必須の機能と言えるだろう。
何が違うのか
さて、両者を比較してみよう。「こざね法」でいえば、アウトライナーの一行が「こざね」にあたる。これは問題ない。両者とも、最小のパーツ(紙、一行)を並び替えながら文章の流れを作り上げていく。同じアプローチだ。
では、何が違うのか。
アウトライナーでは、まとまった一つの束を横に並べていくことができないのだ。
アウトライナーはどこまで行っても縦一直線に要素が並ぶ。最終的なアウトプットとしての文章も直線に(リニアに)並ぶのだから、それ自体は問題ではない。しかし、何かを考えている段階では、この違いは微妙に効いてくる。
このことに気がついたのは、「Amazon Storybuilder」を使ったときだ。以下の記事でかんたんに書いた。
さっそく、「Amazon Storybuilder」を触ってみた(ジャムスタ)
「Storybuilder」とあるように、物語の流れを構成するためのツールだ。「Act」(章)という括りがあり、その下に章に含まれる要素を並べていく。要素同士の入れ替えは自由にできる。そして、その「Act」が横に並んでいくのだ。使ってみると、これが視覚的に非常に見やすい。
たとえばだが、ざっと並べてみると各「Act」のファーストシーンがどのようなものなのかが一覧できる。あるいは第一から第四までのActのシーン数が8なのに、第五だけが7だったら、「ちょっと少ないな」とすぐに把握できる。探さなくても、見ればそうわかるのだ。
ごく単純に言えば、縦に並べているものを便宜的に横に配置しただけとも言える。
1
2
3
4
5
を
12345
に直しただけだ。情報の意味的なものは何ら変質していないように思える。でも、それは実際には違うのだ。何がどう違うのか、どうして違うのかを解き明かしている時間はないが、そんなことをしなくても二つのツールを使ってみれば、すぐに体感できるだろう。
横にも並べられるアウトライナー
別バージョンのナレッジオーガナイズツールとして私が提唱したいのは、横にも並べられるアウトライナーだ。たぶん名称的に破綻していそうなので、何か新しい名前が必要だろう。ここでMacユーザーの方なら「Tree」というアウトライナーアプリを思い浮かべたかもしれない。横方向を使ったアウトライナーだ。ただし、Treeは「横に並べる」のではなく「横に伸びる」と表現した方が適切だろう。
Tree
カテゴリ: 仕事効率化, ビジネス
先ほどのアウトラインを、「Tree」のツリー形式で表示すると以下のようになる。
たしかにこれでも、各要素の一つ目は何か、二つ目にはどのぐらい並んでいるのかが視覚的にわかりやすい。ただ「Amazon Storybuilder」に比べるとわざわざ感が強い。ぱっと見てではなく、意識的に読み取って、という感じがする。
だから、こう表示するようなツールが欲しいのだ。
どうだろう。上の二つは情報量的にはまったく同じだが、おなじように「見える」だろうか。目にしたときの意識・無意識の働きは同じだろうか。もし違うのならば注意した方がいい。それは「思考」に影響を与えてしまう。
ともかく、アウトライナーで段落を下げるぐらいの操作感で、新しい「ライン」を横に作り出し、それぞれのライン間でもトピックが移動可能なツールが欲しいのだ。
さいごに
上のような表示が可能なツールがあれば、それで「こざね法」を実践することは十分にできる、と思う。なにせ触ったことがないので、断言は難しい。「紙を手で操作する」というタンジブルな要素が消失しているので、完全な代替とはなりえないが、思考の流し方は同じようにいけるだろう。将来の思考ツール(考具)として是非とも期待したい。
蛇足を承知で書くが、私は別にアウトライナー全てを「新しいアウトライナー」に置き換えるべきだ、と提唱しているわけではない。ツールには果たすべき役割があり、得手不得手がある。それを無視してしまえば、最終的に損を被るのはツールを使う私たちである。日本全国の小売店が全てコンビニになったら、やっぱり嫌だろう。いろいろなお店があるから、便利に楽しく買い物できるのだ。
ただ、「こざね法」をデジタルで実践するならば、アウトライナーよりも上に書いたようなツールの方が良いのではないか、という話である。
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技術評論社 2012-06-30 |
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