IDEA PLANTさんから新商品が発売されるようだ。
カードを使った連想力トレーニングゲームらしい。また、「楽しくアイスブレイクができるカードゲーム」ともある。
Amazonか、オンラインショップで買えるようだ。発売日は3月14日となっている。
私は日常的に会議もなく、よって「空気が思い会議」を体験することもない。そもそも、日中ずっと一人で作業しているので、複数人で使うツールにはさほど需要がない。
一人で行う発想作業については、たとえば以下のようなカードを自作してサポートしている。
が、それはそれとして、この「ASOPICA(アソピカ)」は面白そうなツールである。その面白さを探りつつ、ブレストが抱える課題も絡めて考えてみよう。
ゲームの概要
そもそもこのASOPICAは、どんなゲームなのか。「使い方」のページを見ると、おおよそのルールがわかりそうだ。
- 4人(ないし3人)でプレイ。1プレイは5分程度。
- ジャンケンし、親を決める(その後、親は左回りで交代)
- 親は山札からカードを引く。自分は見ないで他のプレイヤーに見せる
- 親はテーマリストから1つテーマを選ぶ
- 選ばれたテーマと、カードの「連想タイプ」がそのセットの連想課題になる
- 子は、連想課題から20秒以内にできるだけたくさんポストイットに描く
- 親は描き出された絵から、自分が引いたカードの「連想タイプ」を当てる
- 当たれば、親がそのカードをゲット(不正解時はカードを山札に戻す)
- 親を交代して次のセットへ
雰囲気は掴めただろうか。対象年齢が15歳以上となっているので、ゲーム自体に複雑さはない。むしろ、ずいぶんシンプルなものだろう。
カードに記載された連想タイプは、「それの近くにあるもの」「それと似ているもの」「それと特徴が反対なもの」「それを生み出すもの・それが生み出すもの」があるようだ。また、テーマリストには「あんぱん・はちみつ・歯ブラシ・割り箸」といった名詞が並んでいる。
たとえばテーマが「あんぱん」であれば、「それの近くにあるもの」は「ジャムパン」、「それと特徴が反対なもの」は「カレーパン」があげられる。もちろん反対なものを「バイキン」としてもいいだろう(※)。
※あんぱん→アンパンマン→そのライバル→バイキンマン、の連想。
描き出すのは絵だけで、言葉は一切使ってはいけない。バイキンのつもりで描いたものが、チョコレートと勘違いされるかもしれない。それぐらいの「揺れ」があった方がゲームとして盛り上がることは確かだろう。別に出世を決めるための試験ではなく、あくまで「創造的な空気」を作るのが目的なのだから、それでいい。
ともかくそうして描き出された絵を眺めて、親は連想タイプを推測するわけだ。
ASOPICAの効用
ゲームを眺めてみると、二つの連想が共存していることがわかる。
一つは、テーマとカードの連想タイプから行われる子(親以外のプレイヤー)の連想。もう一つは、そうして出た連想から、逆算する親の連想。あえて書くまでもないが、この二つは逆向きの連想である。いわば圧縮と解凍のような関係だ。
連想力を鍛える上では、連想の実地的訓練(場数をこなす)ことも大切だが、連想のタイプを知ることも大切である。テニスでいえば、強力なスマッシュを打てることも大切だが、ボレーなどの引き出しを増やすのも大切、というのに似ている。
では、新しい連想のタイプをどうやったら知ることができるだろうか。言い換えれば、連想の引き出しはどうすれば増やせるだろうか。方法論自体はシンプルだ。ようは他人の発想を逆算すればいい。ある発想に至った道のりを逆向きに辿るのだ。工業分野でいうところのリバースエンジニアリングと言ってもいいだろう。
たとえば、まったく新しい新商品が出た時に、「なるほど。異なるものを結びつけたのか」と__誰に説明されるでもなく__解析できれば、次回からそれを自分の連想引き出しに置いておくことができる(※)。
※すぐに使いこなせるかどうかは別の話。
これは発想力トレーニングでは中級〜上級に位置すると思うが、いずれ必要になってくる訓練ではあろう。
もちろんASOPICAに収録されている連想タイプには限りがあるわけだから、これだけで発想マスターになれるわけではない。が、リバースエンジニアリングの手法そのものを身につければ、身の回り全てが「教材」になりうる。
こういう視点のツール(というかトレーニング教材)(あるいはゲーム)は、あまり無かったような気がする。
貢献と得点
もう一つ、このゲームのルールを見て面白いなと思ったのが、貢献と得点である。
連想するのは子だ。そして得点をゲットするのは親である。
一般的に考えて、「子がうまく連想すれば、子の得点になる」という方が違和感が少ない。いや、視点を変えて言い直そう。このゲームを戦略的に捉えたとき、子の合理的な行動はどのようなものになるだろうか。
一応ゲームであり、得点を競うわけだから、子は親に得点されたくはない。だから、親が連想を逆算しにくいようなものを連想するのが望ましい。となれば、ありきたりな連想よりも、突飛な連想の方がいい。もちろん20秒しかないので、そこまでセレクトできるかはわからないが、慣れてくれば突飛な連想を__あんぱんに対するバイキンのようなものを__優先することもできるかもしれない。
ゲームの得点形式として、「ありきたりな連想」よりも(ギリギリテーマに乗った)「突飛な連想」が評価される。これもなかなか面白い。
オープン・ユア・マウス
ブレストの問題点は、もちろん「良いアイデアが出ない」こと、ではない。思いついたアイデアを誰も口に出さないことだ。
それは日本人・日本文化的な問題なのか、世界共通なのかはわからない。ともかく、思いついたアイデア(それはまさに<思いつき>以外のなにものでもない)を口に出すのをためらってしまうとダメである。
はばかれてしまうのには、いくつか理由があるだろう。
たとえば、部下が軽々しく発言するのを上司が嫌っている(空気がある)といった場合もある。
あるいは、恥をかきたくないという心理的な理由もある。アイデアを否定されると、自分の人格が否定されたように感じてしまうのだ。周りの人間が「もっとよく考えろよ」「バカかお前は」などと、アイデアに冷や水を投げかけてそれを助長することもある。こういう人たちは邪王炎殺黒龍波で消し炭になってくれると会議のクリエイティビティは上がるのだが、私は魔界の炎を操れないので自重するしかない。
が、ここに<あるもの>を導入するとがらりと世界が変わる。
役割さえあれば
それがゲームだ。もう少し言えばロール(役割)と言ってもいい。
人は不思議なもので、役割があるとそれに準じるのは難しくない。特に日本では、「本音と建て前」文化がある。これは、建前さえ整えてしまえば、後はするする行動が出てくる、と捉えることもできるのだ。一時期「寄付ハック」なるものをチラホラ見かけたが、ストレートに寄付してそれを発表するのは恥ずかしくても、「〜〜のため」という理由(言い訳・建前)を準備すると、行動しやすくなる。
たとえば会議において、「突飛なこと係」に任命されたとしたら、その人は思いついた突飛なことをどんどん発言するだろう。そして、連想もより突飛なものを求めるようになるはずだ。
逆に、「なんでもイチャモン係」に任命されたら、あら探しに邁進することになる__得意そうな人が何人も思い浮かぶ__。きっと、その人に反論されても、人格を攻撃されたようには感じないはずだ(あるいは感じにくいはずだ)。たぶん、係に合わせたコスプレなどをしていると、よりその効果は高まるだろう。
場の雰囲気と、そこにおける自己規定が、自身の行動を制約する。と書くとよくわからなくなるので、役割によって行動が出てくるよ、と理解しておけばいいだろう。
実際、これは役割をゼロから創出しているわけではない。既存に存在していた(見えない)会議の役割を、ゲームのロールによって上書きしたのだ。
アナログの特徴
どんどん、ASOPICAから話が離れていっているので、いったん仕切り直す。
カードゲームスタイルについて考えてみよう。
おそらくこれぐらいシンプルなゲームなら、アプリでも再現できるだろう。iPad1台と、iPhone4台をBluetoothで接続すれば、カードの山札(iPad)、テーマリスト(iPad)、絵を描く(iPhone)、描いた絵を集める(iPad)といった一連の流れを生み出せる。
が、その二つがまったく同値なのかというとそうでもない。それはタンジブルな要素があるかないか、といったことではなく、ゲームの拡張性の違いである。
ようするにリアルなカードがあると、設定されているルール以外でも遊びうるのだ。たとえば、どんな遊び方があるだろうか?それを考えるのもまた、発想力の為せる技である。
さいごに
ASOPICAのルールを眺めていて、ソリティア的な一人遊びブレストゲームって何かないだろうかと連想した。それはそれで面白そうである。
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▼こんな一冊も:
Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術 (デジタル仕事術) |
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倉下 忠憲
技術評論社 2012-06-30 |