2-社会情報論

埋もれたコンテンツと出版グランデーション

『幽遊白書』の18巻ぐらいに出てくる黄泉のセリフがあります。

「計算外だ こんな奴らが野心も持たず隠れていたとは」

※たぶんこんな感じ。ニュアンスはあってるはず。

ときどき、ネットをうろついていると、黄泉と同じような気持ちになります。文章がうまい人、話題が面白い人、視点が鋭い人……、いっぱいいるんですよね。プロでなくても。

少佐の言葉を借りて、「ネットは広大だわ」とため息をつきたくなります。ある種の高揚感を伴った、ため息ですが。

舞台に立てない人も

考えてみれば、表現行動には「資格試験」なんてありません。『PSYCHO-PASS』の世界ならともかく、我々の世界線なら誰でもがそこに参加できます。

ニコニコ動画の登場で、プロのミュージシャンとアマチュアの線引きがあやふやになった、なんて言説がありますが、そもそもそんな線引きがどこにあったのか、あったとしたら何によって引かれていたのかは、改めて考える必要があるでしょう。

小説でいえば、何かの新人賞があります。で、それを受賞すれば、作品が出版されます。めでたく作家デビューです。

でも、その賞に選ばれなかった小説たちは、皆等しく面白くないのでしょうか。シンプルなゼロサムゲームであるとは、とても思えません。ある作品が、1億人に読まれそうと評価され、ある作品が5000万人にしか読まれないと評価される。受賞するのは当然前者でしょう。でも、それによって後者が無価値に落ちてしまうのでしょうか。

そもそも、はじめから諦めて賞に応募しない人もいるでしょう。さらに言えば、小説は賞があるだけマシで、そうでない分野は編集者の発掘を待つしかありません。しかし、日本中の編集者が発掘し続けていたとしても、全てをフォローできるとは思えません。埋もれているものはたくさんあるはずです。

多様な出版との関わり方

市場においてペイするかしないか。もちろん、その判断はありえますし、重要でもあります。でも、物差しは一つではないはずです。

出版するコストが劇的に下がれば、「ペイするかしないか」の判断の幅も広がります。さらに低コストになれば、「そもそもペイはどうでもいい」という表現者も出てくるでしょう。

超が付く大手出版社からの出版を一番上に据えて、一番下には「そもそもペイはどうでもいい」を置く。その間には、さまざまなグランデーションで出版との関わり方があるはずです。KDPをはじめとするセルフ・パブリッシングの意義はここにあります。無名の新人が、紙の本での商業出版にたどり着くというドリームの提出も有意義ですが、それ以上に多様な出版との関わり方を出現させる点が、書き手にとっても読み手にとっても大きな意味を持ちます。

それは、マスメディアの発信スタイルと多様化する価値観との間に生じているズレを……という話は長くなるのでやめておきましょう。

徐々にできあがる

おそらく作家デビューされた方は、編集やら校正を体験されるでしょう。発売後は、批評やら感想といったフィードバックももらえるはずです。そして、次の「舞台」も準備してもらえる。そこでも、執筆&編集があり、フィードバックがあり、と成長するために必要な土壌が整っています。

それを繰り返していくことで、作家としての力量を身につけていくのでしょう。そうして、プロが「できあがっていく」のです。

出版グランデーションの全てにおいて、それと同じ土壌を整えることはできません。でも、ある程度近しいものなら準備できるはずです。

今後、出版社の機能が解体されていけば、「作家育成」をどこが担うのかは大きな問題になってくるでしょうが、何かしらのプラットフォームを設定できれば代替できるかもしれません。もしそれが機能すれば、「アマチュア」という言葉から、低技能というニュアンスが消えていくでしょう。

さいごに

あまり「こうせよ!」と主張したいことはありません。

もう、セルフ・パブリッシングの火種はまかれてしまっているので、遅かれ早かれ火は付くでしょう。その火がどこまで広がるのかは今のところわかりません。

片方では、シャイな日本人像があります。匿名ならともかく、固定される名前__実名であろうと、ペンネームであろうと__を出して出版するわけですからためらう人が多いかもしれません。あと、謙虚さもブレーキとしてはたらくでしょう(「私なんかが出版なんて・・・」)。

が、それはそれとして恐ろしいほどのブログ文化を持つ国でもあります。日本語のブログって、世界レベルでみても多いらしいですね。書きたい人、発信したい人の数が多いとも捉えられます。まあ、こちらは日記文化の延長として捉えるぐらいがよいのかもしれませんが。

ただ、産業が工業から情報へとシフトしていっていることは確かなので、知識労働者の数はこれからも増えていきます。娯楽・消費コンテンツだけでなく、知識を提供するための本の需要は、今後ますます増加することでしょう。

フラグメントの情報には、やはり限界があるので、__紙の本がどうなるかはわかりませんが__「本」はこれからも生き残り続けるでしょう。

あとは、自分がそれとどう関わっていくか、という話です。

▼こんな一冊も:

KDPではじめる セルフパブリッシング
KDPではじめる セルフパブリッシング 倉下 忠憲

シーアンドアール研究所 2013-12-21
売り上げランキング : 89935

Amazonで詳しく見る by G-Tools

幽・遊・白書 18 (ジャンプ・コミックス)
幽・遊・白書 18 (ジャンプ・コミックス) 冨樫 義博

集英社 1994-09-02
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る by G-Tools

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society [DVD]
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society [DVD] 寺岡賢司

バンダイビジュアル 2006-11-24
売り上げランキング : 18131

Amazonで詳しく見る by G-Tools

PSYCHO-PASS サイコパス VOL.1【DVD】
PSYCHO-PASS サイコパス VOL.1【DVD】
東宝 2012-12-21
売り上げランキング : 26806

Amazonで詳しく見る by G-Tools

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です