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【書評】週末は田舎暮らし(馬場未織)

Posted on 2014 年 3 月 10 日 by Rashita

映画『おおかみこどもの雨と雪』には、のどかな田舎とそこにたたずむ古い家が登場する。

都会ではまずお目にかからないぐらい大きく、そしてぼろい家で、おおかみこどもの雨と雪はそこを走り回っている。もちろん、家だけではない。一歩外に出れば森が広がり、そこはいつでも子どもにとっての遊び場なのだ。

そんな田舎に、週末だけ「暮らす」生活とは、一体どのようなものなのだろうか。

週末は田舎暮らし—ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記
週末は田舎暮らし---ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記 馬場 未織

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※献本ありがとうございます。

概要

最初に目次を引いておこう。

第1章 田舎がない。田舎が欲しい
第2章 理想の土地を探して
第3章 運命の土地との出会い
第4章 週末は農家暮らし
第5章 南房総ー東京往復生活
第6章 迷ったり、変わったり、確かめたり
第7章 里山生活を内側から発信する
第8章 二つの地域に住むということ

サブタイトルの『ゼロからはじめた「二地域住居」奮闘記』が非常に絶妙で、概要はこれで言い尽くされているかもしれない。

著者ら家族が、どんなきっかけで田舎にも家を持とうとしたのか、そこにどんな苦労があったのか、農地を持つことの大変さ、田舎暮らしの面白さと難しさ、二地域住居を続けてきたことで起きた変化。そういったことが語られている。

語り口は軽快だが、決して内容は軽くない。本を読む手を止め、自分自身に照らし合わせて考えたくなるような成分が含まれている。

二地域住居

さて、何度か登場している「二地域住居」とは何だろうか。

言葉どおり「二つの地域で生活する」ということだ。あるいは「二つの地域で暮らす」と言い換えた方がいいかもしれない。

軽井沢にでも別荘を持ち、長期休みはそこに出かける、というのではない。そうした「旅」の延長線上ではなく、根を下ろして生活する場所をもう一カ所持つことが二地域住居だ。

著者らの場合であれば、平日は東京で暮らし、仕事やら学校やらに時間を使う。そして週末は家族ごと田舎の家に車で移動し、草抜きしたり、畑の手入れをしたり、子どもは自然の中を遊び回ったりする。まったく異なる位相の「暮らし」を二つ持つこと。それが二地域住居である。

ハイブリッド、ではない生活

私は、「ハイブリッド」という概念をよく使う。ひらたく言えば「いいとこどり」だ。

一見この二地域住居も、ハイブリッドな気がするが、本書を読み進めてみるとそうでないことがわかってくる。

ハイブリッドは、いいところといいところを組み合わせる。逆に言えば、悪いところは切り捨ててしまうわけだ。しかし、二地域住居はそうではない。良いところも悪いところも含めて引き受ける覚悟が必要だ。それが「暮らし」と「旅」との決定的な違いである。

おそらく本書を読み終えた人は、「私も二地域住居してみようかしら」と思う人と、「こんなの無理だよ」と思う人に分かれるだろう。内容が健全である証左だ。妙に見栄えが良い決算書を信用してはいけない。脳天気さを説得力と勘違いしている本が多い中で、著者は自分たちが感じている「良さ」を素直に表現しながらも、経験してきた__そして同じことを目指す人が経験するであろう__苦労を隠してはいない。

誰でもが著者らと同じ暮らしをおくれるわけではないだろう。人生なのだから、当然である。

ライフスタイル・デザイン

本書を読みながら感じたことは、「ライフスタイルのデザインを通して、ライフデザインを行う」というものだ。

第2章では、最初に物件を探し回っていた状況が語られている。

まずは手当たり次第、さまざまな田舎物件サイトを閲覧していきます。
いろいろ、あるはある。しかし、どれもピンときません。それもそものはず、自分の「焦点」が定まっていないのです。

何かを探すためには「こういうものが欲しい」というイメージが必要だ。それが明確でないと捜し物は終わらない。で、物件を探す場合は、その物件に何を求めているのか、を考える必要があるだろう。著者は「大事にしたいことは何か?」「見たい風景はどんなか?」「そして、どんなライフスタイルなら現実的に可能か?」といった問いかけで、それを明確にしていったようだ。

その問いは、数歩後ろに下がれば「自分の人生とは何か?」という問いにつながっていく。自分と仕事との関係は、仕事以外の時間の使い方は、家族との関係は。そういったことを考えていくことは、360度どこから検討しても「人生」について考えることとイコールである。

もしかしたら、人生そのものをデザインすることはできないのかもしれない。住む場所、住み方、仕事、働き方、人付き合い、といった人生を「実行」する行為をデザインすることで、人生がデザインされていく。その方がしっくりくる。

著者は仕事を固定して、住む場所を複数化した。逆に住む場所を固定して、仕事を複数化することもできるだろう。仕事も住む場所も複数化・流動化することだって可能なはずだ。いろいろな人生があり、いろいろな方法がある。

一つ言えるとすれば、デザインするためには選択肢が必要だ、ということである。たった一つしか選べないなら、デザインの余地はない。その意味で、現代はデザイン的可能性に溢れた時代だと言える。その分、生きることを個人が主体的に引き受けなければならない時代でもあるわけだが。

縛られないための相対化

何かを二つ(あるいはそれ以上)持っておくことの意義は大きい。

それは「卵は一つのカゴに盛るな」という投資世界の格言とはまた違った意義だ。

簡単に言えば価値観を相対化できるということであり、それはつまり縛れないということでもある。

私は複数のブログを運営している。そして、それぞれのブログはまったく違った方向性を持たせている。Aというブログでうまくいくやり方が、Bというブログではうまくいかないことはザラにある。もし、一つしかなければ、それが世界の全てになってしまうだろう。

ソーシャルメディアの登場でマスメディアが相対化され、それらが持つ欠点と共に、改めての長所も確認された。電子書籍の登場で、紙の本も今後相対化されていくであろう。前者は「メディア」を、後者は「本」という言葉を、それぞれ変化させていく。

おそらく人が生きる時間についても似たようなことが言えるだろう。

著者は、「都市生活を遮断し、田舎をインサートしている」という表現を使っている。この感覚は、きっと「書斎」に通じるものがある。

書斎は日常生活を遮断し、普段と異なる世界に精神を飛び込ませるための場所だ。その場所では、(世知辛い)現実世界とは別の物差しを自由に持ち込める。そのことがもたらす精神的な効用のメリットは、計り知れない。というか測れないのだ。効率的と合理的はイコールではないのだから。

日常的な生活感覚を相対化するために、厳密な意味での「書斎」を持つ必要はない。仕事と趣味、リアルな日常とネットの日常、そういったものに片足ずつ足を突っ込んでおけば、縛られずに済むようになる。

縛られたままでも生きていくことはできるのかもしれない。しかし、選択することはできないだろう。

さいごに

本書を読みながら、田舎の家を維持していくのは大変だろうなと感じながらも、大変だからこそ愛着が生まれるのだろうな、という感触も得た。

川喜田二郎さんが『創造性とは何か』の中で、

結論を言うと、「ふるさと」とは、子どもから大人になる途中で、子どもながらに全力傾注で創造的行為を行ない、それをいくつか達成した、そういう達成体験が累積した場所だから、「ふるさと」になったのだということである。

と指摘しているが、そういうことは十分にありそうだ。

そしてこれは、子どもに限定されるものではないだろう。大人になると「全力傾注で創造的行為」を行わなくなるから、気がつきにくいだけである。上の本では「創造とは問題解決なり」と定義されていた。田舎暮らしなど、問題遭遇と問題解決の繰り返しに違いない。第二の(あるいははじめての)「ふるさと」感覚がそこから生じても不自然なことではないだろう。

分業化が進み、労働者が創造的行為を行わなくても仕事が達成される時代においては、仕事に対する愛着も生まれにくくなっているのかもしれない。人間関係でも似たようなことはありそうだ。

地域にせよ、仕事にせよ、人間関係にせよ、そういった欠落がもたらすものは、いずれ大きな反動として立ち現れてくるのかもしれない。その意味で、本書が提示する生活は、古さを帯びながらも「新しい生活」と呼べるだろう。

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