「 才能なんて、クズの積み重ねさ! 」
__ジョン・レノン
100%モノになる
吉本隆明さんと糸井重里さんの対談がまとめられた『悪人正機』に、才能について記された一編があります。
悪人正機 (新潮文庫) |
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吉本 隆明 糸井 重里
新潮社 2004-11-28 |
『「素質」ってなんだ?』
いつも言うことなんですが、結局、靴屋さんでも作家でも同じで、一〇年やれば誰でも一丁前になるんです。だから、一〇年やればいいんですよ。それだけでいい。
他に特別やらなきゃならないことなんか、何もないですからね。一〇年やれば、とにかく一丁前だって、もうこれは保証してもいい。一〇〇%モノになるって、言い切ります。
10年という時間は、マルコム・グラッドウェルの『天才!』で指摘されている十万時間に近しいものもがありますね。ざっくり計算すると、一日三時間を毎日続ければ、だいたい10年で10万時間にたどり着きます。
天才! 成功する人々の法則 |
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マルコム・グラッドウェル 勝間 和代
講談社 2009-05-13 |
特別なことは必要なく、とにかく10年続ければ一丁前になる。前向きな気持ちが湧き上がってきます。
が、以下のようにも吉本さんは述べられています。
ただし、一〇年やらなかったら、まあ、どんな天才的な人でもダメだって思ったほうがいいってふうにも言えるわけです。九年八ヶ月じゃダメだって(笑)。
これは、以前書いた「1に満たないものを繰り返し足していく」に近いところがあるかもしれません。
閾値を超えないと、ゼロと同じようなものなのです。そう考えると、なかなか大変です。
さらに吉本さんは続けます。
それから、毎日やるのが大事なんですね。要するに、この場合は掛け算になるんです。例えば、昨日より今日は二倍巧くなったとしましょうか。で、明日もやると。そうすると二×二の四倍で、その次の日もやったら、また×二で八倍になる。だけど毎日やらずに間を空けると、足し算になっちゃうんです(笑)。
この感覚は、なんとなくわかります。
本当に掛け算と足し算ぐらいの差があるのかはわかりませんが、日が空いてしまったら、リセットではないにせよ、何かをもう一度再構築しなければならないような感覚があります。
春樹・チャンドラー方式
吉本さんは、物書きになりたい人に向けて、「もし、この方面を目指そうっていうなら、机の前に座るっていうことだけは毎日やったほうがいいですよ」というアドバイスをしてくれています。
これは、村上春樹さんのチャンドラー方式と同じですね。『村上朝日堂はいほー』で紹介されています。
村上朝日堂はいほー! (新潮文庫) |
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村上 春樹
新潮社 1992-05-29 |
チャンドラー方式を箇条書きでまとめると、
- 作業するための机を決める
- その机で、いつでも仕事ができる態勢を整えておく
- 毎日ある決まった時間(たとえば二時間)をその机の前で過ごすようにする
- 書けるときは書き、書けないときは書かなくてもよい
- ただし、書きたくなったらすぐ書ける状態を維持しなければいけない
以上のような感じ。
こうすることで、ペンが進むバイオリズムなのに、机の前にいないから……な状態を回避できますし、それ以上に体を「作家」に調教していく効果があるのでしょう。この場合の体とは、もちろん脳も含みます。
さいごに
「積み重ね」って大切です。
ということは、よく言われるわけですが、積むだけでも、重ねるだけでも足りていません。
積んで、重ねなければいけないのです。
繰り返し行うことが、人間の本質であり、
美徳は、行為に表われず、習慣に現われる。
__アリストテレス
いつ始めるのか?
いつでもいいです。
▼こんな一冊も:
ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11) |
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レイモンド・チャンドラー 村上 春樹
早川書房 2010-09-09 |
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