0-知的生産の技術

『熟慮』するということ

偉大なる書は読まれるため、そしてさらに逆からや逆さまに読まれるように作られているのだ!
――トレイリアの文書管理人、エトヴァード

Magic The Gatheringに『熟慮』 というカードがあります。冒頭に引いたのは、そのフレーバーテキスト。

screenshot

個人的に、この小回りの効くカードが大好きです。強すぎず、弱すぎず。非常に優れたカードデザインです。普通に使うとキャントリップの効果しかないので、何じゃそりゃなんですが、3マナで墓地から唱えられるので、カード1枚分のドロー効果が見込めます。

乱暴に言えば5マナ2ドローのカードと同じなのですが、2マナと3マナで分割して支払えること、インスタントで使えること、この二つによって、序盤の潤滑油として機能してくれます。おそらく、使ってみて初めて、その使い勝手の良さに気がつくタイプのカードかもしれません。

それはさておき。

この『熟慮』というカードの英名は『Think Twice』と言います。

つまり、深く考えることは、二度考えることなのです。

たとえば

私たちは、何かを考えます。あるいは何かを思いつきます。

そのあと、自然な思考の流れで行われることは、その思いつきが、正しいらしいか確かめることでしょう。検証です。しかし、たいていの場合、それは「正しい」証拠を集めることで行われます。

たとえば、(あくまでたとえばですよ)「私は文章がうまいに違いない」と思いついたとします。その後、頭に思い浮かぶのは、自分が文章がうまいことを支持してくれる記憶たちです。「ブログに多くのPVが」「文章が上手いと言ってもらえた」「たくさん文章書いてるし」……

こうしたことを想起し、ほくほくした気持ち__「やっぱり、私は文章がうまいんだ」__になるわけです。特に不自然なことではないでしょう。よくありそうな話です。

でも、これはまだ一度目の思考でしかありません。

熟慮はここから始まるのです。「いや、まてよ」という言葉と共に。

プログラミングでのたとえ

あなたがプログラミングをやってみたとしましょう。

1〜31の値を入力すると、その日の運勢を教えてくれるアプリです。

コードを書き終えたあなたは、テストに入ります。1を入力し、「大吉」が返ってくる。2を入力し、「吉」が返ってくる。3を入力し、「凶」が返ってくる。……31を入力し、「大吉」が返ってくる。無事、動作が確認できました。

いや、まてよ。

もし、31よりも大きい数字を間違って入力してしまったどうなるだろうか。あるいは0やマイナスの数字では。それに、数字じゃなくてAとかBとかの文字だったらどうなるのか。

それらを確認して、はじめてこのプログラミングをテストしたことになります。当初自分が想定した以外の入力にも対応できるなら、システムとしての強度は高いと言えるでしょう。

反証を探る

「私は文章がうまいに違いない」を支持してくれる記憶をひととおり思い出したら、次はその反証になりそうな記憶を思い出さなければいけません。

いや、まてよ。

「もっとPVが多いブログがあるじゃないか」「文章が下手だと面と向かっていう人は少ないかもしれない」「下手の横好きという言葉もあるな」

こうしたことを思い出すのは、いささか苦痛かもしれません。なにせ当初の自分の考え(ないしはアイデア)が否定されるのかもしれないのです。『熟慮』だって、一回目にカードを引くとき(2マナ)より、二回目にカードを引くとき(3マナ)の方が、コストが高くつきます。

しかし、ここを経ないと、より確からしい考えにはたどり着けません。

また、プログラミングの例であげたように、想定したフレームの「外側」に関して想いを馳せる必要があります。

時間をおいて、複数の視点から

私たちが何かを思いついたその瞬間は、一方向からスポットライトを当てているようなものです。光が当たっている場所だけが目に入るので、それが世界の全てであるような気がします。しかし、それは限定的であり、物事の一側面でしかありません。

人間の短期記憶の限界から考えれば、一瞬のうちにありとあらゆる方向からスポットライトを当てるのはほとんど不可能と言えるでしょう。同時にいろいろやろうとしてもうまくいきません。

だからこそ、二度(あるいはそれ以上)考えるのです。時間をおいて、視点を変えて。

これは個人の思考に限ったことではありません。科学だって他の人に検証されて、理論は確からしさを持ちます。批判に晒されず、閉じた世界に置き去りにされた理論は、正しいのか間違っているのかすら検証できません。取り扱い不可能なのです。

さいごに

ごく簡単に言ってしまえば、自分の考えを自分で批判すること。それが熟慮への最初の一歩です。

あまり疑り深くなってしまうのも問題ありそうですが、「いや、まてよ」という言葉は、いつでもポケットから出せるようにしておくとよいかと思います。

いま上の文章を読んで、「うん、そうだよな」と思った人は、ポケットを探ってみてください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です