【書評】使える行動分析学(島宗 理)

「習慣化」に興味がある人なら、ぜひとも手にとっていただきたい。

使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書)
使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書) 島宗 理

筑摩書房 2014-04-07
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行動分析学の知見を用いて、自分の行動を変えるための方法が提示されている。

それだけではない。

本書を読み進めれば、「自分とは何か?」「自分は自分のことをどれだけ知っているか?」を考えざるを得ないだろう。

「じぶん実験」とライフハック

著者は法政大学文学部心理学科の教授さんで、専門は行動分析学。ライフハック界隈では、『パフォーマンス・マネジメント』がよく知られているかもしれないし、 『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか』という新書をご存じの方もいるだろう。
※ちなみに、どちらも面白い本である。

本書は「使える行動分析学」と銘打っている通り、行動分析学の話ではあるが、細かい理論には立ち入っていない。使える、つまり実用性に重きが置かれている。副題にある「じぶん実験」がメインテーマだ。そして、それが面白い。

おそらくライフハックの最先端を走っている人は、微妙に形は違えど、皆この「じぶん実験」を行っているだろう。実際、私は思うのだ。個々の__そして具体的な__ライフハック・テクニックよりも、この「じぶん実験」の考え方を手に入れることの方が大切なのではないか、と。

「じぶん実験」は、たいていのライフハックがそうであるように、大仰なものではない。グラフを作成するための紙とペン(と物差し)に、何かしらの「記録」をとれるツールがあればいい。スマートフォンは多いに助けになってくれるだろう。

「じぶん」について考える

「じぶん実験」の具体的な手順は本書で詳しく解説されているので、大ざっぱに紹介すると、

  • 変化を与えたい行動を定める
  • まずは、普段通りの生活での対象行動を記録する
  • その後、「介入」を加えて、対象行動を記録する
  • 行動が変化すればOK。変化しなければ「介入」を変えてみる

という感じになる。
※本当に大ざっぱなので、ぜひ本書をあたってもらいたい。

実に簡単そうだ。でも、実際はそうではない。随所で頭を使わなければならない。機械的に記録を取っていればそれでOKというわけにはいかないのだ。

  • 自分はどういう行動を取っているのか。
  • その行動を助長しているものは何か。
  • 取りたい行動(でも取れていない行動)を妨げているものは何か。
  • 自分はどういう要素によって行動が強化されるのか。
  • あるいは、どういう要素によって行動が弱化されるのか。

そういうことを根気よく考えていかなければいけない。しかも、そこで考えたことはいわゆる「仮説」でしかない。本当かどうかはわからないのだ。それを、「じぶん実験」で確かめていくことになる。

見方が変わる

こうした過程は、もしかしたら面倒に感じられるかもしれない。しかし、得られるものは多く、ときにクリティカルだ。

決定的なのは、自分が頭の中に描いている「自分はこういう人間だ」という考えが、所詮「仮説」の一つに過ぎないという思想的転換である。

物理学者のファインマンは以下のように述べた。

一番のルールは自分自身を欺かないことだ。
そして、一番欺きやすい人間はあなたである。

私なら、こう言ってみる。

人生とは、「自分」という思い込みを修正していく過程のことである。

世の中で、「自分」のことを一番よく知っているのは自分である。でも、それはどんぐりの背比べでしかない。他の人が2%ぐらいしか知らないのに対し、自分は5%ぐらい知っているだけだ。結局、ほとんど何も知らないのに等しい。

そんな「思い込み」に過ぎないもので、私たちは人生のいろいろなものを判断していく。危なっかしいこと極まりない。

何かにチャレンジして失敗したとき、「あぁ、やっぱり俺はダメな奴だ」と考えたり、あるいはそもそも「ダメな奴だから」とチャレンジそのものを諦めてしまったり。でも、基本的にそれは思い込みである。変数が変われば、アウトプットは変わりうる。

プログラマがコードを書き、テストを重ねて、適切なアウトプットに近づけていくように、自分自身の行動も変えていけるのだ。プログラマが「心機一転頑張ります」と宣言したところでコードが変わっていなければ、出力も変わらない。当たり前のことだ。でも、人は自分自身に関して、それと同じようなことをして「やっぱり自分はダメな奴だ」なんて思ってしまう。実に不思議だ。

さいごに

「じぶん実験」を進めていけば、自分の行動を変えることができるだろう。

そして、ほとんど必ずそこには自己理解がついてくる。自分がどういうものかだけではなく、「自分」がソリッドではないことも知ることができる。

「自分」という思い込みがやっかいなのは、すぐさま自分に対する人格攻撃が始まってしまうことだ。そして、それは他人にも波及する。

「あの人は、この環境下ならAという行動を取る」
「あいつはAな人間だ」

この二つがまったく違うのは説明するまでもないだろう。そして、どちらが他者に対する人格攻撃を引き起こしやすいのかも明白だ。

もちろん、これもメタ的に見れば、「あの人は、この環境下なら『あいつはAな人間だ』と思い込んでしまう」、という風に捉えられるわけだが。

ともあれ、「じぶん実験」というアプローチは、実用的な面から考えても__思想的な面を抜きにしても__有用だ。

少なくとも、「意志の弱さ」や「性格」を理由にしている限りは何も変えられないことは確かである。

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