6-エッセイ

ジャックポットのタイムラグ

妻がジャックポットを引き当てた。私はそれをじっと眺めていた。

ゲームセンターによくあるメダル落としだ。プッシャーゲームと呼ぶらしい。前後運動を繰り返す厚めの板があり、そこにめがけてジャンジャンバリバリとメダルを投入していく。

フィールド内に落ちたメダルは、往復する板に押されて、あらかじめ存在していた他のメダルを押すことになる。フィールドはメダルで満ち溢れているので、押されたメダルもまた、別のメダルを押す。それがドミノのように連鎖し、一番端のメダルを、サスペンスドラマの殺人シーンのようにえいっと、フィールドから突き落としてしまう。

投入したメダル1枚につき、一枚のメダルが落ちれば御の字だ。機械割りは100%。いくらでも続けられる。

もちろん、そんなことになってはゲームセンター側は困る。実際はメダルが落ちても、それがそのままリターンになることはない。パチンコで言うところの、アタッカーみたいなところに入らないとメダルが返ってこない。うまくアタッカーに入ることもあれば、入らないこともある。これで、じわじわ客側のコインは減っていく。

もちろん、それだけではゲームがつまらなすぎる。客など寄りつかないだろう。撒き餌が必要だ。

たとえばフィールドにメダルではなくボールが落ちていたりする。あるいは、複数枚のメダルが詰め合わせになっていているものもある。通常よりリターンが大きい獲物があるのだ。それらを狙って落とすことは難しいかもしれないが、そちらに向けてメダルを投入し続ければ、じわじわとフィールドの端まで持っていくことができる。時間の(そして持ちメダル枚数の)問題だ。

不確定と確定の微妙かつ絶妙なバランス。

ボールの方は、さらに不確定性が強い。

たとえば、ボール3つを落としたら、ルーレットが回り、獲得枚数が決まる。50枚というしょっぼい当たりもあれば、ジャックポットといって、千枚以上のメダルが当たることもある。ジャックポットとなれば、メダルラッシュである。ちまちました日頃の投入など笑い飛ばせるだけのメダルが投下される。そこには小さいながらも夢があるのだ。

で、妻はその小さな夢を掴まえたわけだ。私はそれをじっと眺めていた。

それは2000枚近い大当たりだったと思う。妻はメダルゲームオタクなので、ジャックポットなど何度も引き当てているだろうが、それでもニコニコとメダルが落ちてくるのを見つめていた。

2000枚は一気にフィールドに投下されるわけではない。じゃじゃじゃじゃじゃ、という感じで、雨が降るようにコインが降ってくるのだ。もちろん、コインの雨が降り注いでいる間は、妻はメダルの投下を中止している。する意味がない。お店の軒下で夕立の雨宿りをするように、二人してコインの雨を眺めていた。

2000枚のジャックポットは、即座に2000枚のリターンには変換されない。

秒間3枚ぐらいでコインが降ってくるので、一分間で180枚ぐらいがフィールドに投下される。それが前後運動する板によって押され、もともとフィールドに存在していた他のメダルを押す。

ジャックポットに当選してからすぐのリターンは、意外なほど少ないものだった。なにせ、元々のフィールドにはそれほどメダルが存在していないのだ。それが押されたところで、落とされるメダルも少ない。が、じわじわと環境が変わってくる。ジャックポット以前のフィールドが全て端に追いやられ、落とされた後は、メダルの層は厚みを持ち出す。なにせ秒間3枚のメダルの雨が降り注いでいるのだ。

そこからは、先ほどとは比べものにならないリターンが返ってくる。フィールドのメダルは積もっているし、それを押すだけのメダルも降ってくる。ぼーっと眺めていても、次々と払い出し口にメダルが貯まっていく。何もしなくてもいいのだ。

それがしばらく続く。払い出し枚数が2000枚から1500枚になり、1000枚になり、500枚になり、やがて100を切る。そして、0へ。ジャックポット終了。メダルの雨は止んだ。

それでも、まだフィールドのメダルは厚みを持っている。ジャックポットの名残があるのだ。だから、妻が再びメダルの投入を始めると、少し大きめのリターンが返ってくる。食後のお楽しみといったところだろうか。

でも、やがてそれも終わる。厚みのあるフィールドも端に追いやられ、それらが落とされれば通常の、つまり機械割り100を下回る状態に戻る。コツコツメダルを投入する世界へと。

もし、私が限定的な観察者であったら、この状況をどのように認識するだろうか。

つまり、妻が投下したメダルと、払い出し口から出てくるメダルしか見えていなかったとしたら……。

実に不思議な気がするのではないだろうか。人間の努力とその結果を見つめるかのように。

だそく

  • リターンには時差がある
  • ジャックポット中は何もしなくてもリターンが得られる
  • ジャックポットはいつかおわる

二つ目が怖い。フィードバックが機能しなくなるということだから。

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