5月13日に、Evernoteのユーザー数が一億人を超えた、というニュースを耳にした。
1億人の Evernote ユーザに感謝をこめて(Evernote日本語版ブログ)
本日は嬉しいお知らせがあります。Evernote のユーザ数が累計で 1 億人を超えました!
愛用しているサービスが大きくなっていくのは、もちろん好ましい。しかし、感慨みたいなものは特に浮かんでこない。妙な言い方になるが、なるべくしてなった、という感触が強いのだ。まるで、ドミノが倒れていくのを眺めているかのように。
以前どこかで書いたが、私はEvernoteが「あたりまえ」に使われるツールになると考えている。「Word,Excel,Evernote」ってな具合に。もう少し表現を変えれば、文章作成、表計算(※)、そして情報管理の3種は必須のツールになるであろうという予測だ。
※さらにExcelはVBAというプログラミングに道が通じている点も大きい。
で、今のところ情報管理ツールのポジションに収まっているのがEvernoteというわけである。今後、代替するツールが登場して、そのポジションを奪い去っていく可能性はあるが、ある程度まで浸透してしまえば__MS-DOSがあの時代揺るぎないポジションを築いたように__Evernoteがどっしりとその椅子に座り続けることだろう。
なぜ情報管理ツールなるものが必要なのだろうか。
別にOSだってファイルシステムがあるではないか。
梅棹忠夫は、『情報の家政学』に収められた「情報時代の教養」の中で以下のように語っている。
それからひじょうにだいじなのは、情報の保存ではなくて、とりだしのシステムなんです。つまり、ある特定の情報が必要なときに、すっととりだせるようにのこしておくことなんです。必要な情報が必要なときにでてこなけば、紙に書いた情報というのは死んでいるわけです。
ここでは__書かれた時代が時代だけに__「紙に書いた情報」となっているが、私たちが持つ情報全てに敷衍できる話だろう。MacのSpotlightは「とりだしのシステム」としては確かに優れている。ただし、それで全てうまくいくわけでもない。短いメモやウェブページについては、取り扱いが難しい。そもそも、そんなものをファイルとして保存したくないのだ。
Evernoteであれば、なんやかんやをとりあえず放り込んでおくことができる。細かいことは(そうしたければ)後から考えればいいのだ。そうして放り込んでおいて、あとから検索で「すっと」とりだす。これが情報システムおいて肝要なのだ。
3つのシフト
少しだけ大きな話をしよう。3つのシフトの話だ。
1.
現代は、工業から情報産業へとシフトしていると言う。さまざまな意味合いにおいて、情報を扱わないような仕事はほとんどないだろう。そんな社会で働く人は、(程度の差はあれ)誰しもが「知識労働者」の側面を持っている。つまり、知的生産を行うわけだ。そこでは、情報を扱う技術が必要とされる。
2.
どう定義するのかは難しいのだが、日本は高度情報化社会に向かっている。ということは、私たちは高度情報化社会に住む市民に少しずつなりつつあるわけだ。だとすれば、そうした市民としての素養が必要になってくるだろう。
梅棹は『知的生産の技術』で次のように述べている。
社会には、大量の情報があふれている。社会はまた、すべての人間が情報の生産者であることを期待し、それを前提としてくみたてられてゆく。ひとびとは、情報をえて、整理し、かんがえ、結論をだし、他の個人にそれを伝達し、行動する。それは、程度の差こそあれ、みんながやらなければならないことだ。今日においては、家庭の主婦さえもが、日常の生活のなかで、知的生産をたえずおこなわなければならないのである。それでなければ、家庭の経営も、子どもの教育もできないのである。
できれば短く「情報リテラシー」という言葉でまとめたくなるのだが、そうするとこれを読んだ人が「情報リテラシーとは何か?それはどのようなものであるべきか?」をスルーしてしまう可能性が出てきてしまう。それは本意ではない。なんといっても、本当の意味での高度情報化社会はまだ訪れていないのだ。その社会に必要なことは、これから私たちが考えていかなければならない。
梅棹は知的生産を「積極的な社会参加のしかた」としてとらえよう、と提言された。私もそれに同意したい。
3.
高度情報化には、必ずデジタル化が伴う。避けては通れない。
だから、情報を扱う技術には、デジタルの情報を扱う技術が必要になってくる。
さいごに
- 知的生産において「記録」は非常に重要な存在だ。
- Evernoteは記録を扱えるツールだ。
- 現代は情報化し、デジタル化している。
- 社会は、市民の知的生産を求める。
- Evernoteはデジタル情報を扱えるツールだ。
こうして、ドミノは倒れ続けていく。
▼こんな一冊も:
情報の家政学 (中公文庫) |
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梅棹 忠夫
中央公論新社 2000-06 |
知的生産の技術 (岩波新書) |
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![]() |
梅棹 忠夫
岩波書店 1969-07-21 |
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