クリエイティブ・コモンズについて調べていたら、ふと思いついたことがある。
それについて書く前に、まずクリエイティブ・コモンズについて書いておこう。
クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons、以下「CC」)とは、著作物の適正な再利用の促進を目的として、著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示を手軽に行えるようにするための さまざまなレベルのライセンスを策定し普及を図る国際的プロジェクト およびその運営主体である国際的非営利団体の名称である。
うむ。よくわからない。ウィキペディアにある動画をみると、少し理解が進む。
ようは、柔軟な著作権の運用法を提供しよう、ということらしい。
著作権には、「私が全ての権利を持っているので勝手に利用しちゃダメですよ」という”All rights reserved”と、「どうぞどうぞ、ご自由にご利用くださいませ」という”No rights reserved”の二つのタイプがあるのだが、その二つだけだと少々問題が残る。
著作権は保持しておきたいのだけれども、他の人も(ある程度は)自由に使ってくれていいですよ、という運用ができないのだ。インターネット時代では、「共有」は当たり前の感覚である。その感覚に、著作権が追いついていない状況がある。そこで、登場したのがクリエイティブ・コモンズというわけだ。
左端を”All rights reserved”、右端を”No rights reserved”として、その中間にあたるライセンスをクリエイティブ・コモンズは提供してくれている。
細かい話は上のウィキペディア及び、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」あたりを参考にされたい。
ざっくりまとめておくと、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスには4つの項目(以下)があり、
表示(Attribution, BY) 作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求する。
非営利(Noncommercial, NC) 作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、非営利目的での利用に限定する。
改変禁止(No Derivative Works, ND) 作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、いかなる改変も禁止する。
継承 (Share Alike, SA) クリエイティブ・コモンズのライセンスが付与された作品を改変・変形・加工してできた作品についても、元になった作品のライセンスを継承させた上で頒布を認める。
それらを組み合わせた6つのライセンスが準備されている。
- 表示(CC BY)
- 表示-改変禁止(CC BY-ND)
- 表示-継承(CC BY-SA)
- 表示-非営利(CC BY-NC)
- 表示-非営利-改変禁止(CC BY-NC-ND)
- 表示-非営利-継承(CC BY-NC-SA)
※CC……Creative Commons
たとえば、「表示(CC BY)」なら、著作権者の表示がなされていれば、基本的に何でもOKということになる。もし、このR-styleが「表示(CC BY)」であるなら、それを翻訳しようが、パクる……インスパイアされた作品を作ろうが、いちいち私の許諾を取る必要はない。R-styleが元ネタで私がその著作権者であることさえ明記されていればよい、ということだ。
6つのライセンスのうち、上に行くほど”No rights reserved”に近く、下に行くほど”All rights reserved”に近くなる。
もちろん、何が「適切なライセンス」なのかに一律の答えはない。それぞれの著作権者が、作品にどのような運用を望むのかによって、ライセンスを選んでいくことになる。
逆に言えば、著作権者は、単に作品を生み出しそれをパブリッシャーに投げて終わり、というのではなく、もう少し主体的な関わり合いを求められるということでもある。
ファンノベルという創作
本エントリーは、クリエイティブ・コモンズの解説が趣旨ではないので、この辺りで割愛しておこう。
そもそも私がクリエイティブ・コモンズに興味を持ったのは、以下の記事を読んだからである。
ファンノベル(SF小説「Gene Mapper(ジーン・マッパー)」公式サイト)
Gene Mapperは一次原稿のテキストデータをCreative Commons BYというライセンスで購入者へ配布している。KindleやKobo、iBook Storeで購入した方はEPUBなどと同列にお渡ししているので、気兼ねなく巻末のメールアドレスまでご連絡いただきたい。第一版の元になった原稿なので誤字や英語などの誤りも含まれているが、翻案のベースとしては充分に利用可能だと考えている。
先ほども登場した「CC BY」である。なぜ、「CC BY」を採用したのか、著者はこう述べている。
Gene MapperでCC-BYとした理由は、他のメディアでGene Mapperを用いることを容易にしたかったからだ。マンガの原作、戯曲のベース、読み上げソフトのサンプルとして著作が広がることを期待していたのだが、ファンノベルという形で始めて頂いたのは、大変に喜ばしい。忌川タツヤ(@imagawatatsuya)さん、ありがとうございます。
たしかに、「Gene Mapper」の世界観は独特の奥行きがあり、物語空間の余地はまだまだあるように思う。それを広げていくような試みが可能になっているわけだ。
だから、私がある日突然思い立ち、メルギアソリッド顔負けのアクションゲーム「Power Mapper」とかを勝手に作っても良いわけだ。で、上の記事では実際に書かれたファンノベルも紹介されている。
「Gene Mapper」のパロディ小説で「Gene Napper(ジーンナッパー)」とか書いてもOKらしい。(CC-BYを遵守するかぎりにおいて)(忌川タツヤのブログ)
この動きは大変面白いと思う。ただし上の記事は2012年のことであり、その後こうした動きがどこまで広がったのかは定かではない。でも、一つの芽ではあると思う。
TRPGについて
ここで思い出すのがTRPGである。テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。
たとえば、こういう本がある。
ソード・ワールド2.0 ルールブックIII (富士見ドラゴン・ブック) |
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![]() |
グループSNE 北沢 慶 輪 くすさが
KADOKAWA/富士見書房 2008-08-20 |
ゲームのルールブックだ。悲しいぐらいシンプルな目次はこうなっている。
第1部 プレイヤーキャラクター
第2部 ルール
第3部 データ
第4部 ワールド
第5部 ゲームマスター
デジタルゲーム世代の人にはよくわからないかもしれないが、この本はある意味で「ゲーム」を売っている。
ゲームマスター(とプレイヤー)はこの本を読み、その「ゲーム」を理解して、プレイに臨む。シナリオを描くのはたいていゲームマスターだ。ゲームブックには世界設定や選択できる職業も記述されているので、描けるシナリオには一定の制約がある(もちろん、ゲームバランスを無視すればいくらでも拡張は可能であるが)。
そしてプレイヤーたちは、ゲームマスターが描いたシナリオを、この「ゲーム」のルールに沿ってプレイしていく。つまり、「ゲーム」を売るとは、ルールと世界設定を売る、ということでもある。
世界の上に作品が生まれる
TRPGでは、ゲームマスターもプレイヤーもそれなりのクリエイティビティを要求される。そして、それが楽しいわけなのだ。
だったら、それを一歩先に進めてみるのもおもしろいかもしれない。つまり、作品を生み出すための「世界設定を記述した本」を作り、それを売るのだ。もちろん、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで。
世界設定オンリーでは寂しすぎるので、短編を一つぐらい加えてもよいかもしれない。もちろん、無しでもよいだろう。
たくさんのクリエーターさんに話を聞いていると、「世界設定を作り込むのが大好き」な人と「そうでもない」人がいることに気がつく。それはそれで特性なのだから別に構わないのだが、世界設定を作り込みすぎて、実際の作品に取りかかれないという人すらいる。それを本末転倒と笑わずに、いっそそのものを作品化すればよいのではないだろうか。そういうことを考えたわけだ。
別段、全ての作品が作家の内部世界を表現する必要はないだろう。エンターテイメントでは特にそうだ。それに世界設定を借り受けても、オリジナリティーのあるものは生み出せる。
「クトゥルフ神話」の体系なんて、複数の作家による産物と言えるだろうし、ある意味では「艦これ」の二次創作も、共通の「世界設定」の上に記述された(そして、バラエティー溢れる)作品群とも言える。
作家と作品の世界観が、一対一で対応している必要はない。
※もちろん、対応していてもよい。
言うなれば、アプリ開発における「フレームワーク」のようなものがあってもよいのではないだろうか。その「物語のフレームワーク」をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで販売すれば、面白いことが起きるかもしれない。
さいごに
と、書いておきながら無責任極まりないのだが、私自身がこういうことをやろうとはあまり考えていない。なぜならば、私は「そうでもない」人の方だからだ。これはもうどうしようもない。
でも、架空の世界地図描いたり、魔法の名前考えたり、近未来の電子機器を考案したりするのが好きな人は、それを突き詰めてみることで、これまでとは違ったクリエイティブが生まれるかもしれない。
いや、これはもっと卑近な話で、私がそういうものを欲しいな〜と思っているだけかもしれない。みなさんはどうだろうか。
▼こんな一冊も:
Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア) |
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![]() |
Fujii Taiyo
Taiyo Lab 2012-07-12 |