4-僕らの生存戦略

燃えやすい木材の集まり

たとえば、たくさんの木材があったとしよう。

その木材は湿気っている。とても、とても湿気っている。だから、マッチで火を付けようとしてもダメ。ロウソクでもダメ。新聞紙を燃やしたって、燃え移らない。残念。

別のバージョンを考えてみよう。

その木材は乾燥している。とても、とても乾燥している。空気だって乾いているし、気温は高く、風は弱い。そんな中ではうっかり消し忘れたタバコの火ですら、木材を燃やしかねない。

当然のように、その火は周りの木材に燃え広がっていく。大火事の発生だ。

ネットワークの構造

「原因」という文脈でみると、その大火事はタバコの火が引き起こしたように感じられる。

たしかに、最初の火は必要だった。でも、二つのバージョンを見比べてみると、火だけではどうしようもなかったことが窺える。さらにいえば、その火はタバコの火である必要もなかった。虫眼鏡で日光を集めていても、気まぐれに唱えたメラでもよかったのだ。

むしろ、乾燥した木材が密集していたことこそが重要だったのである。

偶然の科学〈数理を愉しむ〉シリーズ)
偶然の科学

というような例を使いながら、ダンカン・ワッツは『偶然の科学』で「流行」について以下のように結論づけている。

そしてつまるところ、最も重要な条件はひと握りの影響力の強い個人とはまったく関係がない。むしろ、必要数の影響されやすい人々が存在し、この人々がほかの影響されやすい人々に影響を与えるかどうかにかかっている。

私はこの部分を読んで、なるほどな、と深く頷いた。

火だねは何だってよいのだ。質は問われない。ただ火を付けるという能力があればよい。それよりも、乾燥した木をいかに集められるかということの方が大切なのだ。

ちまたで使われる「影響力」というのは、おそらくこういうことなのだろう。

つまり、影響力を持つとは、何か飛び抜けた才能を持つことではなく、影響されやすい人が周りに集まった状態を指すのだ。もし熱心な「影響されやすい人」が周りに集まれば、当人の資質とはたいして関係なく(火を付けるスキルは必要だが)、その人は影響力を持つことになる。そう考えると、いろいろ腑に落ちることは多い。

富むものはより富み、貧するものはより貧する

話がややこしくなるのは、ここに「マタイ効果」が加わることだ。

ワッツは、この効果を以下のように説明している。

個人がキャリアの早いうちに成功をおさめると、一定の構造的優位を得られるので、本来の能力にかかわりなく、その後も成功する見こみがずっと大きくなるということだ。

ある人がたまたま成功する。成功すると、そうでない人よりもチャンスが与えられるようになる。チャンスが増えれば、また成功する場面が出てくる。すると……、と成功の雪だるまは大きく膨れあがっていく。当初ほとんど能力に差がない二人でも、「たまたま」の成功で5年後、10年後の状態が大きく変わってしまうわけだ。

成功は名声と評価につながり、今度はそれが成功の機会と成功するための資源を増やし、その後の成功が注目されて功績が認められる可能性が高まる。

こうしたものを「累積的優位」と呼ぶらしい。非常に強力な優位だ。なんといっても、時間は有限の資源であり、巻き戻しがきかない。成功した人Aと、そうでなかった人Bを比べて、「10年前は二人とも同じような能力だったんです」なんて比較実験を行うことはできない。勝てば官軍である。

さいごに

ここからどんな教訓が得られるだろうか。

成功したければ、影響されやすい人をたくさん集めなさい?

それも一つの教訓だろう。でも、違った見方もある。

たとえば、成功は多くの場合「運」の影響を強く受けている、と認識することも一つの見方だ。だから、成功者でもときどきとんでもない勘違いをしていることは十分ありえるし、あなたが成功しなくても、それは能力の著しい欠損を意味しているわけでもない。

あるいは、人を教育する立場であれば、できるだけ「累積的優位」のバイアスを消すように心がけることもできる。優秀な人にチャンスを与えるのは大切なことだが、いまだ見出されていない優秀になるかもしれない人にチャンスを与えることも、土台の底上げという点では重要だろう。

他にも教訓はあるかもしれないが、とりあえず特定の人や物語だけでなく、ネットワークの構造や置かれた環境についても、注意を向けることが肝要である。

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