「笑い男事件」
本書を読んでいるとき、たびたびこのフレーズが頭に浮かんできました。『攻殻機動隊 S.A.C.』のアレですね。
もちろん、「知的生産」にオリジナルはあります。「オリジナルの不在がオリジナル無きコピーを作り出した」なんてことではありません。
しかし、「知的生産」という言葉が一人歩きし、歪んだイメージを伴って広まっている状況を考えると、あながち突飛な連想とは言えないでしょう。
本書は、その歪みをぎゅっと直してくれそうです。
知的生産の技術とセンス ~知の巨人・梅棹忠夫に学ぶ情報活用術~ (マイナビ新書) |
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堀 正岳 まつもと あつし 小長谷 有紀
マイナビ 2014-09-25 |
※献本ありがとうございます。
「知的生産」にまつわる誤解
「知的生産」とは、言葉通り「知的な生産」です。誤解の入り込む余地がないほどシンプルな言葉ですが、実際は誤解で溢れかえっています。
一番の問題は、日本語で「知的」と言う場合、「あの人って知的よね」というニュアンスを含んでしまうことでしょう。ようするに「高い知性」であることが匂わされているのです。しかし、「知的生産」の「知的」にそんなニュアンスはありません。
「知的生産」という言葉の発祥である『知的生産の技術』にはこうあります。
知的生産とは、かんがえることによる生産である。
ようするに、何かしらの情報にふれ、自分でそれについて考えて、その結果を発信する。それが知的生産です。難しいことは何もありません。高度な知性も必要ありません。というか、「人間であること」そのものが、高度な知性を有していることを意味します。「多くの言葉を操る」「連想する」といった日常的な行為ですら、他の動物には難しいのですから。
もちろん、知的生産には高度なものもありえます。でもそれは、短距離走選手ならすごく早く走る、というのと同じです。オリンピックに出場できなくても、普通に走ることはできるでしょう。それと同じで、知的生産は誰にでもできます。
しかし、『知的生産の技術』が知の巨人と呼ばれうる梅棹先生の手によって世に問われたことが原因だったのかもしれません。あるいは、その後に続々と登場した「知的生産」関係の本が、インテリな人々によって書かれたことが影響しているのかもしれません。
ともかく、「知的生産」という言葉は、ハイ・インテリジェンスな人たちが扱うものであり、「知的生産の技術」はそうした人々だけに必要とされるものだ、という認識が広まってしまいました。
でも、実際は違います。知的生産は誰にでもできることで、その技術は、現代において誰しもに必要とされるものになっています。
本書は、その誤解をとき、いわゆる「普通の人」に開かれた知的生産を解説していきます。また、私たちが身近に使えるテクノロジーが大きく変化していることも踏まえ、最新ツールを用いた知的生産の技術も紹介されています。
概要
章立ては以下。
第1章 そもそも「知的生産の技術」とは?
第2章 「知的生産の技術」を支えたツール
第3章 今は知的生産のための“センス”を磨く時代
第4章 「情報」をインプットする場所はどこなのか?
第5章 何をインプットしていくか?
第6章 情報をどうアウトプットしていくか?
第7章 世界に+(プラス)の影響を与えるために
内容を大きく分けると、以下の3つに分類できそうです。
1つめは「梅棹忠夫とはいかなる人物だったのか」。
2つめは「知的生産の技術の現状と課題」。
3つめは「発信のあとに待っている世界」。
多くの人が真っ先に興味を抱くのは2つめでしょうが、3つめも大切です。ただし、それが大切だと思えるためには、ある種の壁を越えなければならないかもしれません。
ちなみに、共著スタイルだからなのかもしれませんが、それぞれすごくクールな部分と、えらくホットな部分があります。一番ホットなのは「発信のあとに待っている世界」に関してで、これは梅棹先生のアジテーションがイメージされているように感じました(あるいは著者のキャラなのかもしれません)。
センスを磨く
本書において重要な点はいくつかあるのですが、やはり発端となっている『知的生産の技術』には存在しなかった、「センス」が大きなキーワードになるでしょう。ちなみに、「技術」が汎用的なものを指し(※)、「センス」が個性的なものを指すことを考えると、本書のタイトルはなかなか趣があります。
※個別的なもの(暗黙知)は「技能」と呼ばれる。「技術」は伝承可能。
第3章「今は知的生産のための“センス”を磨く時代」では、センスの磨き方として「3極モデル」が紹介されています。その内容は本書に譲るとして、センスを磨く(あるいは育てる)という考え方はたいへん重要です。つまり、センスなんてものは、最初から身のうちに備わっているものではないのです。
「自分らしい発信」といったものは、最初からできるわけではなく、それを志していくうちに、徐々に生まれてくるもの──と考えておけば、気が楽になるかもしれません。それはとても大切なことです。なにしろ、最初の一歩を踏み出さなければ、どこにもたどり着けないのですから。
さいごに
本書にもありますが、インプットにせよアウトプットにせよ、そのとっかかりとなるのは好奇心です。そうです、タチコマに個性を発生させたアレです。
「好奇心は猫を殺す」なんてことわざもありますが、現代において好奇心が殺すのは猫ではなく、何かの壁なのかもしれません。
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