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【書評】デジタルは人間を奪うのか(小川和也)

なかなか印象的なタイトルだ。つられて思わず本書を手に取った。

デジタルは人間を奪うのか (講談社現代新書)
デジタルは人間を奪うのか (講談社現代新書) 小川 和也

講談社 2014-09-18
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ソーシャルメディアによる失言問題、インターネット墓地、忘れられる権利、ロボット記者、ビットコイン、ブレインゲート、……デジタル技術に関するさまざまな最新トピックが紹介されている。

しかし、無批判な礼讃ではない。新しい技術が私たちにもたらしてくれるものに光を当てながらも、そこに潜む懸念は忘れられていない。

そのことはタイトルが示している通りだ。デジタル化と人間性。光があれば、影が生まれる。そして両方があることで、立体感が生まれてくる。

概要

章立ては以下の通り。

序章 デジタルの船からは、もはや降りられない
第1章 デジタル社会の光と影
第2章 モノのネット化で変わる生活
第3章 ロボットに仕事を奪われる日
第4章 仮想と現実の境界線が溶ける
第5章 脳と肉体にデジタルが融合する未来
第6章「考える葦」であり続ける
終章 デジタルは人間を奪うのか

第1章〜第5章では、新しい技術の紹介に力点が置かれている。普段インターネットで情報を摂取していない人なら、目新しい話題が多いかもしれない。あるいはゾッとする話題もあるだろう。その感覚は、きっと忘れてはいけない。

第6章では著者が考える「在るべき状態」が提示される。それは実にシンプルでわかりやすい。「人間は考える葦であり続けなければならない」。ただし、これは想像するよりもずっとずっと難しい。

テクノロジーの舟に乗って

拙著『ハイブリッド読書術』の中で、テクノロジーについて簡単に触れた部分がある。要約すると、「テクノロジーは常に人を楽な方向に導こうとする使命を課せられている」ということだ。「このテクノロジーで人の苦労が10倍アップします」なんてものがあっても誰も見向きもしないだろう。

一方「考える」ということは楽ではない。ぜんぜん楽ではない。すると、一番ありそうな帰結は、私たちはどんどん考えなくても済むようになっていく、という未来だ。テクノロジーを手放しで進化させれば、待っているのはそういう未来である可能性が高い。本書もそれを示している。

だから、意図的な選択が必要になる。意志のある決断が必要になる。

私たちの手に残すものを選ぶ

その意味で、「デジタルは人間を奪うのか」というタイトルは、こう言い換えることもできるだろう。「私たちはデジタルを手に入れる代わりに、何を手放そうとしているのか」と。

もちろんその問いには、「何を手放してはいけないのか」という問いも含まれる。

これは真剣に問われるべき問いであり、さらに言えばバランス良く問われる必要もある。つまり、マッドサイエンティスティックなテクノロジー信奉者や、その逆の無教養なアンチ・デジタル派だけが問うても不十分なもの(あるいは、非現実的なもの)になりかねないということだ。

技術だけでも、倫理だけでも足りない。複数の領域にまたがる議論が必要になってくるだろう。

本書は、その橋渡しとして、一定の役割を担っているように感じる。

(※以下は、私の雑感なので興味がない人は読み飛ばしてくれて構わない)

バカヤロー事件とTwitterの利用

1953年の衆議院予算委員会で起きた「バカヤロー事件」が紹介されている。

質疑応答中にとある議員が小声で「バカヤロー」とつぶやいたものがマイクに拾われてしまい、結果的におおごとに発展してしまった。簡単に言えば、そんな事件だ。そのマイクの機能を現代はTwitterが担っていると著者は指摘する。確かにその通りだ。

そして私はSF的妄想に思考を飛ばす。

ならいっそ、議員一人一人にピンセットマイクを付けてもらい、その音声をテキストに変換し、ネット経由でそれぞれの議員のTwitterアカウントでつぶやくようにしたら面白いに違いない。そのアカウント群のリストを作れば、Twitterから予算委員会が眺められる。なんといっても、動画を見るのですら億劫という人が多いのだから、こういう形で「開かれた国会」を作るのもよいだろう。

確実にこんな法案は通らないだろうが。

ビットコインについて

問題がいろいろ指摘されているビットコインではあるが、以下の点は非常に重要だ。

管理者が存在しないがゆえ管理コストがゼロに近いため、海外送金や電子決済にかかるコストが極めて安い。これにより遠方への送金や小額の取引がしやすく、流動もアクティブになる。

情報の移動コストを劇的に下げたインターネットがもたらした影響を考えると、海外送金や電子決済にかかるコストが極めて安いというのも、相当にインパクトがありそうだ。

もちろん、これはビットコインを使いましょう、という話ではない。コストを下げられる別の手段があるなら、それでも全然構わない。ともかく「間」のコストが下がると、信じられないことが起きる。超伝導みたいなものかもしれない。

パラリンピックとオリンピック

両足義足の選手がオリンピックに出て、好成績を残した。日本だと、苦労体験からのサクセスストーリーとして描かれるだろうが、もちろんそんな単純な話であるはずがない。

もし、義足が不自由さをもたらすもの(あまり早く走れない)ではなく、より早く走れるためのテクノロジーであったのなら。

ひとりだけがその義足を付けていて、その他の選手は生身(あえてこう書く)だったら、そのレースははたして「公平」なのだろうか。あるいは、全選手が義足だったら、その競技では何が競われていると言えるのだろうか。

この問題はマイケル・サンデルが『完全な人間を目指さなくてもよい理由』で論じている。非常に興味深い問題だ。

ニーチェの文体

タイプライターを導入したことにより、ニーチェの文体がそれ以前と変わってしまったらしい。タイトで電報めいたものに近づいた、と本書にはある。

たぶん、こうしてキーボード+テキストエディタで文章を書いている私の文体は、原稿用紙+万年筆で文章を書いていた頃とはきっと変わっているのだろう。

SF的妄想を持ち出さなくても、音声入力をテキスト表示してくれるツールはすでにある。きっとそれで文章を書けば、文体も変わる。では、その次は。

脳内をスキャンして、テキスト出力してくれるツールだろう。そこに文体というものがあるのか。あるいは逆にゴースト(注意:攻殻機動隊を観ましょう)丸出しになるのか。そんなことも文章書きとしては未来の楽しみである。

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