7-本の紹介

【書評】すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク(佐々木正悟)

2010年〜2012年にメルマガで「ジブンのトリセツ」という連載を書いていた。心理学や行動経済学を仕事術に活かすには?、というのがそのテーマだ。

なにせ全ての仕事には、どこかしらに人が関わってくる。物を売るにも、人を組織するにも、自分で自分の行動を制御するにも、心の「クセ」というものを把握しておいた方が良いことは間違いない。

結局その連載は100回ぐらい続いた。それくらい役に立つことが一杯ある分野なのだ。

すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク
すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク 佐々木 正悟

実業之日本社 2015-02-13
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※献本ありがとうございます。

本書はそういった分野をまるっと紹介する一冊である。

概要

目次は以下。

第1章 仕事のスピードを劇的に向上させる認知心理学
第2章 あなたのモチベーションを高める社会心理学
第3章 チーム力を高める産業心理学
第4章 クリエイティブなアイデアを育む深層心理学
第5章 頭も心もよくなる脳科学
第6章 交渉する前に知っておきたい経営心理学
第7章 マーケティングに使える経済心理学
第8章 心を柔らかくするストレス心理学

8つの章立てで、78の項目が紹介されている。数は多い。みっちりという感じだ。

当然、それぞれの項目はあまり掘り下げられてはいない。2ページの見開きで、完結にまとめられている。面白いのは、その中身の比重だ。

実際に読むまでは、ノウハウが前面に押し出され、心理学的なバックボーンは補足的に置かれている本のイメージがあった。たとえば、「頭を良くするためには昼寝せよ!」みたいなことが主題にあって、それを補足するための要素がちらりとだけ書いてある。そんなイメージである。おそらく、その方が親しみはやすいのだろう。近年のビジネス書に多く見られるパターンだ。

本書はむしろ心理学的な解説がメインである。そして、補足的に「応用してみよう!」という形でノウハウ的要素が提供されている。それはつまり、「他にもやり方はあるかもしれませんね」ということだ。著者のノウハウの押しつけではなく、あくまで考えるためのフレームワークを提供している。そんなスタンスである。

ある実験

16番目の項目で「ミルグラム実験」が紹介されている。「アイヒマン実験」の呼び方を聞いたことがある人も多いだろう。「電気ショックを用いた服従の実験」である。

話は少し複雑だ。問題に答える生徒がいて、その答えの正誤によって罰を与える監視役がいる。罰とは電気ショックだ。つまり、生徒が間違えれば、監視役は電気ショックを操作するボタンを押さなければいけない。しかし、この構造そのものが実はフェイクであり、ボタンを押しても電気は流れず、生徒は電気ショックを受けている演技をするだけ。と言ってもその演技は迫真であり、そこではフィクションながらも「拷問」が展開されることになる。

つまり、この実験は被験者である監視役がどこまで残忍な行動をとれるのかがテストされている。

もちろん、「そんなむごいことはできません」と電圧を上げることを拒否することもできる。しかし、白衣のいかにも偉い博士が「続行してください」とか「あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです」と強く促すと、最大450ボルトの300ボルトまでは100%の被験者がアップさせたという。もちろん、電圧を上げるたびに、生徒は強い苦悶のリアクション(演技)を返してくる。それでも、60%は最大の450ボルトまで行ってしまった。

私は何かの本でこの実験と「スタンフォード監獄実験」を知ったとき、背筋が寒くなったのを覚えている。人は「役割」次第で相当なことをやってしまうのだ。

さて、この薄ら寒い実験から何が引き出せるだろうか。一つには、行動よりも環境に注目した方が良いことがわかるだろう。「良心」と呼ばれているものは、案外フラフラと動いてしまうものなのだ。あるいは、以下のような指摘も面白い。

ミルグラムは人が権威に従いやすくなる条件として「権威者が自分の地位を示すシンボル(バッチなど)を身につけていること」や「権威者の発する命令が徐々に大きくなっていくこと」を挙げています。

コックの長い帽子もそれに当たるのかもしれない。

権威者の地位を示すシンボルが重要だということは、それはつまり自分に与えられている「役割」の正統性を担保するものが必要だということだ。それが担保されれば、呵責なく行動をとれる。心の言い訳を記述すれば「偉い人が言ってるんだから仕方ないんだ。うん」ということが(自分の中で)どれくらいもっともらしいのかによって、行動は変わってくる。役割によって着る服を分けるのもこうした要素に一助あるのだろう。

さらに面白いのは、命令を与える人間が近くにいるほど「権威」の効果が上がるという点だ。電話での指示は命令に対する服従の率は落ちたという。遠隔地を繋ぐ技術によって、良心が勝利を勝ち取ったわけだ。

先ほどの話も合わせて考えると、電話による権威の失墜は、私たちが「目に見えるもの」に重点を置いていることの表れとして捉えることができる。情報処理における視覚的情報の占める割合が多いということだ。つまり、UIは重要である。

だからたとえば、「書いてあることを実行せずにはいられないタスクリストの見た目」というのも考えられるはずだ。もちろんそれは美しさではなく(それも関係しているだろうが)、「役割」の認知に関するものだ。失礼な物言いを承知で言えば、最高のタスクリストは”秘書”であろう。代わりに記憶してくれるだけでなく、「役割」の認知にも一役買ってくれる。だとすれば、近未来におけるタスクリストの進化は、人間型にビジュアライズされたAIに行き着くに違いない。

さいごに

といった感じで、見開き2ページの項目でも、そこから連想できる「ハック」はいくらでも広がっていく。

だいたいにしてライフハックは、プログラミング的なものとマインドハック的なもので構成されているのだ。前者を展開したければコーディングを学ぶ必要がある。では、後者は?

本書はノウハウ集ではない。むしろ、入り口の本である。

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