7-本の紹介

【書評】ぼくらの時代の本(クレイグ・モド)

「本」は変化しようとしている。

電子書籍がそのトリガーを引いたことは間違いない。そう遅くないタイミングで、「本」の未来が姿を現すだろう。

でもそれは、紙の本が死滅し、電子書籍が電子本棚を埋め尽くすような未来なのだろうか。

ぼくらの時代の本
ぼくらの時代の本 クレイグ・モド 樋口武志

株式会社ボイジャー 2014-12-13
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もちろん、そんなはずはない。

概要

本書は、作家でありデザイナーでもあり、さらに開発者でもある著者が示す「本」の未来の片鱗だ。その未来像は、著者がこれまで歩いてきた「本作り」の道のりが素材となっている。

目次は以下の通り。

第一章 「iPad時代の本」を考える
第二章 表紙をハックせよ
第三章 テキストに愛を
第四章「超小型」出版
第五章 キックスタートアップ
第六章 本をプラットフォームに
第七章 形のないもの←→形のあるもの

タイトルの「ぼくらの時代の本」には、二つの意味が込められているのだろう。

一つは、現在の(あるいは現在進行形の)本、ということ。それはつまり、紙の本が当たり前だった時代から、電子書籍がそれに並ぶ時代になるまでの過渡期における本の在り方を示している、ということだ。だから本書では、(広い定義における)電子書籍と、紙の本について語られている。今「本」を語ろうとすれば、この両方を視野に入れなければ点睛を欠いてしまう。

紙の本、そして電子書籍(及びiPhone版Flipboardアプリ)の作成に関わった著者だからこそ見えてくる世界があるに違いない。本書ではそれが存分に語られている。

タイトルに込められたもう一つの意味は、「ぼくら」にある。つまり、それは私たちの本なのだ。

第五章「キックスタートアップ」では、Kickstarterというプラットフォームでお金を集め、本作りを成功させた著者の体験が語られている。資本金をクラウド(群衆)__という表現は少々失礼かもしれないが__から集める。言い換えれば、出版社という存在を通さないで作り出される本。「私」が企画案を立て、別の「私」がそれに出資する本。そういうものがありうる世界になっているのだ。

実際Amazonが提供しているKDPや楽天KoboのKWLなどを使えば、ごく小規模・低予算で本の出版が行える。たとえば、私がTwitterに「僕が原稿書きますんで、だれか編集やりませんか?あとデザインナーさんも募集。利益は4:3:3あたりでどうでしょうか」とツイートすれば、3ヶ月後ぐらいにはその本がAmazonから出版されているかもしれない。これは冗談でも誇張でもない。

それぐらい本と「ぼくら」の距離は縮まっているのだ。

シンプルな話

現在は過渡期だと述べた。そして、どのような過渡期にも混乱は起きる。今の電子書籍にまつわる言説の大半は、その混乱によって生じていると言ってもよいだろう。

電子書籍については、本の話と、出版(パブリッシュメント)の話と、出版業界の話が、カバンの中に入れたイヤフォンのようにこんがらがっている。こんな状況では、何をベースにして語るのかで、その展望も変わってしまう。

しかし、基本的なことは本当はシンプルなはずだ。本を作る人がいて、その本を読みたい人がいる。あとは、それをどのようにコネクトするのか。それが全ての話の土台となるはずだ。ビジネスモデルはその話の上に構築されるべきものだろう。しかし、現実はそういう形になっていない場合が多い。

本書の元となった原稿はDOTPLACEというウェブサイトでも読めるようになっている。従来のビジネスモデルからすれば、考えにくいやり方だ。

しかし、無料で読めると知っていても買う人はちゃんといる。もちろん、それはスケールしないかもしれない。でも、スケールだけが善ではない。コストと利益のバランスが取れているなら、それで継続性は生まれてくる。

それもまた「ぼくらの時代の本」の一つの特徴なのだろう。

さいごに

不思議なことでもなんでもないが、電子書籍の数が増えれば増えるほど、紙の本の価値が改めて確認されることになる。もちろん、「全ての紙の本の価値が」などと楽観的に語るつもりはない。紙の本というメディアでしか表現できない本、あるいは手に持ってずっとそばに置いておきたいと感じる本、そういう本はこれまでよりもバリューを持つだろう。

同じように、アマチュアの書き手が増えるほど、プロの書き手(あるいは作り手)の技術も再評価されるようになる。書店で当たり前のように並んでいるたくさんの本は、やはりプロの技術を持って作られているのだ(もちろん、全ての本がと言うつもりはない)。

おそらく読み捨てられるタイプのコンテンツは、次々にデジタルボーン化していくだろう。たぶんそれは、「紙の本」の文化にとってみれば良いことなのかもしれない(※)。
※もちろん安易な楽観はできないが。

トータルでみれば、「ぼくらの時代の本」とその未来はきっと楽しいものになっていくだろう。本書を読むと、そんな期待感がムクムクと育っていく。

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