過ぎし日の色あせた成功譚

「せんぱーい」
「ん?」
「あのですね、私、ついに決めました。一流企業に就職して、その後ぐんぐん出世しちゃいます」
「とうとう頭のネジが緩んできたのか」
「違いますよ!夢ですよ、ジャパニーズ・ドリームですよ!」
「……」
「なんですか、その沈黙は?」
「いや、なんでもない。ちなみに参考までに聞くが最近何か本を読んだか?」
「『課長 嶋孝治』と、『サラリーパーソン桃太郎』シリーズを読了しました。マンガだけど、すっごく面白かったです」
「その影響されやすい性質はなんとかならんのか」
「なりません!」
「……胸を張って言われると、いっそすがすがしいな」
「でしょ」
「いや、特に褒めてもいないんだが」
「またまた〜。でも、やっぱり大きな会社に入って、人間関係をうまくわたり歩いて、ときどき無茶なこともやって、ドカンと大きな契約を取って、いずれは役員や社長に、ってなんかこう夢があるじゃないですか。サクセスストーリー的な」
「貴様は都合良く二つの作品をごっちゃにしてるが、あれは真逆のストーリーだぞ。片方は典型的、片方は破天荒だ。ピンフと国士ぐらい違う」
「ピンフってなんですか?」
「……たとえが悪かった。サザエさんとドラえもんぐらいに違う」
「ほとんど一緒じゃないですか」
「貴様の脳はほんとうに動いているのか? もしかしたら、パターン認識のスイッチがオフになってるんじゃないか」
「大丈夫ですよ。そもそも先輩がいちいち細かすぎるんじゃないですか」
「貴様! 誰が、日本に残された最後のデリケート・サムライだ!」
「誰も、そんなこと言ってませんよ。というか、サムライはどこからきたんですか」
「なんとなくだ」
「……」
「なんだ、その沈黙は?」
「そろそろ本題に戻りましょう、の催促です」
「そうだな。典型的にしろ、破天荒にしろ、結局それは色あせた成功譚でしかない。過ぎし日の色あせた成功譚だ」
「色あせた成功譚?」
「この世界にごく一握りしかない、いつでも通用する法則を教えてやろう。それは、<時代は変化する>ということだ」
「平安とか鎌倉とか明治とか、そういうのですか」
「まあ、それでもいい。それぞれの時代は産業も文化も違う。人々の価値観だって変わってくる。当然、その時代における成功の形も、そこに至るルートも変わってくるんだ。言い換えれば、それぞれの中に、成功譚のバリエーションがある」
「でも、それと今の話がどう関係するんですか?」
「この時代だっていつかは変化するということさ。近代化が社会のアガリではない。だから、近代化における成功譚も、いずれは色あせていく。というか、もう色あせているかもしれない」
「じゃあ、私の夢は実現しえないと?」
「そこまでは言わないさ。色合いというのは、徐々に薄れていくものだからな。ただ、少しずつ難易度みたいなものはあがっていくだろうし、それによって得られる充足感も相対的に小さくなっていくだろう」
「だったら、もうサクセスストーリーは存在しないんですか」
「それは難しい話だな。存在しないと切り捨ててしまえば、楽ではある。たぶん、嘘でもないだろう。逆に、古いものとかありもしないものを称賛しておくと、財布が暖かくなる。そういうのを求める人は絶えないし、実体がないから売り切れることもない」
「じゃあ、どうしようもないじゃないですか」
「そうかもしれない。ただ一つ言えるのは、斜に構えていては何も生み出せないってことだ。それはカッコイイかもしれないが、そこから先には進めない。結局、愚直とも言える愚かさによってしか生み出せないものがある。そして、そういうものが新しい色合いを生み出していく。これからの社会に求められているのは、そこから立ち上がるポジティブさだろう。つまり、一度ネガティブさをくぐり抜けたポジティブさだ。まあ、それは俺様向きの仕事ではないがな」
「先輩はネガティブの塊ですもんね」
「そうだ。俺様と貴様の合いの子ぐらいがちょうどいいのかもしれない」
「……それってプロポーズとかじゃないですよね」
「だったらどうするんだ」
「もちろん断固として拒否します」
「俺様もだ」

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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