先に書いておくと、これは完全な書評ではありません。
HONDA、もうひとつのテクノロジー ~インターナビ×ビッグデータ×IoT×震災~ 01 それはメッカコンパスから始まった (カドカワ・ミニッツブック) |
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いしたに まさき
ブックウォーカー 2015-03-10 |
なにせ全三巻ものの第一巻を読み終えただけだからです。もうちょっと言うと、本書読了直後の感想が「つづき、はやく、たのむ」でした。
それは面白かったことに加えて、本書が全体像の中にどう位置づけられるかがわからなかった、ということでもあります。
単に分量的に1/3を担うだけなのかもしれませんし、あるいは序破急の「序」なのかもしれません。言い方を変えれば、フルーツ盛りのイチゴを食べたのか、ショートケーキのイチゴを食べたのかがまだ判断できない、ということです。なので、完全な書評とは言い難いものにならざるを得ません。
それでも、とりあえずは触っておきたい本です。
概要
カドカワ・ミニッツブックということで、手短に読める構成になっています。表紙に「28min」とあり、28分で読了できることが明示されていますが私は20分ほどで読めました。目次は以下の通り。
- サーバーは動いていた。しかし……
- 通行実績マップをやらなきゃいけない
- 世界初のカーナビはホンダから
- カーナビの始まりは「メッカコンパス」
- 1983年の東京モーターショー
- 世に出なかったナビゲーションシステムとデジタルマップ
- マップマッチングという罠
- 10年間の空白
- 車の自動運転を目指して
- 最速で準備された震災ビッグデータ
タイトルに「震災」という言葉が含まれていますが、本書の発売日が3月10日であったのはもちろん意図があるのでしょう。そして、不完全ながら私が書評を書いているのも、その意図に沿ってのことです。最終刊の発売日がいつなのかはわかりませんが、とりあえずこのタイミングで紹介しておくことに意味はあると感じます。
内容的な話をすると、本書には二つの筋が(現段階では)見えています。一つは、震災時に活躍した「通行実績マップ」について。もう一つは、そこにたどり着くためにホンダが通ってきた歴史について。
あるいは、次の一行を引用してもいいかもしれません。
「通行実績マップ」作成の判断は、これまで30年を超えるカーナビ開発を続けてきたホンダだからできた最速で最善の判断でした。
ここから次のような疑問が立ち上がります。
- 「通行実績マップ」とは何なのか。それはどのように作成され、どう役に立ったのか。
- ホンダの「30年を超えるカーナビ開発」とはどのようなものだったのか
- これらを生み出してきたホンダの理念とは何なのか
本書はこういったものにメスを入れていきます(あるいはそのように感じられます)。
特に第一巻では「30年を超えるカーナビ開発」がメインに据えられました。いわば「行動のバックグラウンド」を明らかにしたわけです。もちろん、他の二つについても言及されています。
そしてもう一つ、「データと人の関係」についても、ささやかに(そして魅力的な文章で)語られています。
さいごに
正直なところ、第二巻、第三巻と話がどう展開していくかによって、この本がどんな本であるかの評価は変わります。技術的な話を掘り下げるのか、「行動のバックグラウンド」に続いて「理念のバックグラウンド」の探求にあたるのか、あるいはデータと人の関係を、このインターナビを一つの具体例として考察していくのか……。
そうしたことはまったくわかりません。しかし、わからないなりに面白さもあります。特に、わずかに触れられている「データと人の関係」の話は、非常に広がりがあるように感じました。
個人的にはビッグデータが持つ可能性、といったことではなく、むしろデータの向こうに人がいることと、物の向こうに人がいることはほとんど同じではないかという連想に思考が飛んでいった次第です。データが単に数字の羅列ではないのと、贈与が単なる物々交換ではないというのは、同じことではないのか。だとしたら、何が言えるだろうか。みたいなことを20分ばかり考え込みました。
とりあえず、続刊の発売が期待されるところです。