真・嘘発見器

「博士、ついに完成しましたね」
「うむ。まったく新しい嘘発見器だ。いや、嘘感知器と呼んだ方いいかもしれない」
さっそく助手が完成したばかりの装置を身につける。腕時計とヘヤーバンドのような二つ装置は、同じタイミングでほのかに緑色の光を明滅させている。
「何か、嘘をついてくれたまえ」
「1+1=4」
その瞬間、ランプが黄色に変わる。博士は満足そうに頷いた。「論理エラー。よし、次だ」
「私は女性です」
再びランプの色が切り替わる。今度は赤だ。
「心象エラ−。完璧だ」
博士が開発した真・嘘発見器(嘘感知器)は、発せられた言葉を構造解析し、それを発話者の心象風景と比較することで嘘を見つける。従来の発汗や心拍数を測定する装置とは一線を画したアプローチだ。嘘をつくときの動揺は、訓練すれば抑えられる。しかし、この装置に訓練は効かない。自分が考えていることと少しでもズレたことを言った瞬間に嘘を発見してしまう。
「テストを続けよう。何か、本当のことを言ってくれたまえ」
「1+1=2」
緑に戻っていたランプの色に変化はない。うむ、うむと博士は頷く。「次だ」
「私は○田○夫です」
ランプが赤色に変わる。博士の眉が上がる。助手も不思議そうに腕時計を見つめている。その姿を博士も見つめている。
「もう一度だ」
「私は○田○夫です」
やはりランプの色は赤。
「君は、ほんとうに○田○夫くんなのか」と博士は訝しげな視線を向ける。
「疑わないでください。別人などではありません。博士がご存じの通りです。長年一緒に研究を続けてきたではありませんか。私は、○田○夫です。間違いありません。くそっ、どうなってるんだ」
ランプは赤。装置は心象エラーを警告し続けている。
「ちょっと落ち着きたまえ。二つ質問をしよう。まず、今どんな気持ちだね」
助手がわずかに沈黙してから、言葉を吐き出す。
「とても悲しいですよ。そうでしょ、だって私が嘘をついていると疑われているんですから。それに何というか機械が故障しているんじゃないかとも疑っています。でも、その反面自分の研究の成果には絶対の自信があります。だから、一体どうなっているのかよくわからないんです。混乱しているかもしれません。あぁ、うまく言えないな」
ずっと赤く点滅していたランプが、最後の瞬間だけ緑に変わる。博士は頷き、助手はさらに混乱する。
「もう一つ聞こう。今まで生きてきて、君は自己について悩んだ経験があるかね。たとえば、自分は一体誰なんだろう、と自問したことは」
「そりゃ、一度や二度はありますよ。人間ですからね。博士はないんですか」
「私はないよ。それはそれとして、そのとき答えは得られたかね。確たる答えは」
「いえ……。でも、哲学的な悩みとはそういうものじゃないんですか」
「私にはうまく理解できない。そんなことで悩んだ経験がないんだ」
博士は、またたきほどの沈黙を挟んだ。
「しかし、そういうものかもしれないな。だったら、この装置はまったくの失敗作だ」

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Rashita
物書きをやっております。実用書から小説までなんでもござれのハイブリッド物書きです。 ライフハックや仕事術、知的生産などに興味があります。

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