5-創作文

解毒剤

「博士、ついに完成しましたね」
「うむ。これで多発性認識偏向症を克服できる」
 さっそく博士と助手は、いくつかの試験を行い、効果と安全性を確認した上で、<解毒剤>として大々的に発売した。博士は研究一筋ではあったものの、研究にはお金がかかる。この<解毒剤>は、そうとうな売り上げが期待された。なにせ、いままで市場にはまったく存在しなかった薬なのだ。困っている患者は大勢いるにちがいない。博士は使えるだけのコネを使い、全国の薬局にその<解毒剤>を展開した。
 しかし、博士の読みは大きくはずれ、その<解毒剤>はまったく売れなかった。在庫は大きく積み上がるばかり。博士は困り果てていた。
「なぜこんなにも売れないのだ」
「ほんとうに不思議です」
 もしかしたら、症状を患っている人が思っているよりも少ないのかもしれない。そう思い、博士は路上でアンケートを採ることにした。立てられた仮説は、確かめるしかない。医療用に使われるチェックリストを持ち、博士は街に出た。
 当初予想していたとおり、症状を患っている人は少なからずいた。むしろ、想像よりも多かったくらいだ。しかし、現実には<解毒剤>はまったくと言っていいほど売れていない。
 博士は、いつもやるようにさまざまな手がかりを求めた。あたらしい仮説を立てる材料を探し回った。何か手がかりはないかと、大量に印刷して余っていたアンケートも自分でやってみることにした。
 50以上も続く質問に、一つ一つ回答を書き入れていく。取るに足らない質問ばかりだ。馬鹿馬鹿しい。最後の質問はこうだった。「あなたは、自分の認識が偏っていると思いますか?」
 博士は自信満々に「いいえ」に丸をし、その2秒後に全ての答えを悟った。

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