7-本の紹介

【書評】成功するにはポジティブ思考を捨てなさい(ガブリエル・エッティンゲン)

なかなか過激なタイトルだ。

成功するには ポジティブ思考を捨てなさい 願望を実行計画に変えるWOOPの法則
成功するには ポジティブ思考を捨てなさい 願望を実行計画に変えるWOOPの法則 ガブリエル・エッティンゲン 大田 直子

講談社 2015-06-10
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※献本ありがとうございます。

原題は『Rethinking Positive Thinking』と、比較的穏やかである。ポジティブ思考を再思考する。つまり、完全な否定ではない。では、どういったスタンスなのだろうか。

楽観主義と悲観主義

本書の中心的なテーマは「メンタル・コントラスティング」である。で、この「メンタル・コントラスティング」(頭のなかでの対比)とは何なのかを理解するためには、前段階としてポジティブ思考あるいは楽観主義について知っておく必要がある。

オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)

楽観主義(オプティミズム)が持つ力については、マーティン・セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するか』が参考になるだろう。この本では楽観主義が成功要因の一つでもあり、またそれが学習して身につけられるものであることも合わせて提示されている。

その後ろにあるのは、悲観主義あるいは無力感の弊害だ。学習性無力感ともいっていいのだが、ようするに「自分が何をしたって、この先起こることには何の影響も与えられない」と感じている状態のことである。自分の中から状況に対するコントロール力が一切失われているような感覚ともいえるだろう。

単純に考えてそうした人たちは行動を起こさないし、仮に起こしたとしてもパフォーマンスは著しく低い。なにせ、何をやっても変わらない感じているのだ。もちろん、そうした人が成果を得るのは難しいし、成功する確率も高くはない。

逆に、「自分はこの状況を変えていける。それだけの力が自分にはある」と感じている人は、行動に出るだろうし、打率はあるにせよ成果も得られるだろう。そのことが自信をさらに強化し、また行動が刺激される、という循環は充分に想定できる。

つまり、悲観主義と楽観主義を比べれば、楽観主義の方が成功しやすいとは言えるだろう。そこから、「ポジティブシンキングで行こう」「ネガティブなことなんて考えるな」「良い結果を強く願えば、それが得られる」といった様式が生まれてくる。

本書の著者は、それに待ったをかけているのだ。

たしかに悲観主義と楽観主義を比較すれば、楽観主義の方が成功しやすいということはいえる。しかし、楽観主義だったら何でもOKなのだろうか。良いことさえ考えていれば成功するのだろうか。いくらなんでもそれは乱暴すぎるだろう。そこで、楽観主義というものをより精緻に眺めていこうというのが本書である。

ちなみに、「楽観主義だったら何でもOK」という考え方自体が楽観主義であることは(それも極度の楽観主義であることは)指摘しておきたい。この構造は綺麗に閉じてしまっている。つまり、どこからも自己批判が出てこない。

ポジティブ思考2.0

本書が提示するメンタル・コントラスティングは、ある意味でポジティブ思考のバージョンアップである。

具体的な手順やそのメカニズムについては本書に譲るが、ごく簡単にいえば、「ポジティブな夢を見たあとすぐに、夢へと続く道に立ちはだかる現実」をイメージすることだ。つまり、ポジティブな夢をみることそのものは否定していない。ただ、それで終わってはいけない、と著者は強く主張している。

なぜだろうか。

本書内でもいくつか理由が提示されているのだが、面白いのは人がポジティブな夢をみると、血圧が下がるというお話である。つまりリラックスしてしまう。あるいはパワーを使ってしまう。だから、行動が出てこない。

昨今「意識高い系」といって、高い理想ばかりを語るが、その実ぜんぜん行動していない人が揶揄されているが、むしろそれは高い理想を語ってしまっているが故に行動が出ていないのかもしれない。しかしながら、高い理想を持ち得ないなら困難に立ち向かおうという発想そのものも出てこない。難しい問題だ。そこで、登場するのがメンタル・コントラスティングというわけである。

『ビジョナリー・カンパニー 2』に「ストックデールの逆説」という概念が登場する。

ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則
ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則 ジム・コリンズ 山岡 洋一

日経BP社 2001-12-18
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アメリカの軍人であるストックデール将軍は、厳しい捕虜収容所を生き延びた人なのだが、脱落してしまった人の特徴を「楽観主義者だ」と述べた上で、こんなことを語っている。

これはきわめて重要な教訓だ。最後にはかならず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない

本書で提示されている話とぴたり重なる。

未来を信じることは大切だ。だからといって、現実を歪めてはいけない。

さいごに

夢を見るのはよい。人間の、人間ならではの能力かもしれない。しかし、夢を見ただけでそこにたどり着いた気分になってしまっては、どこにもたどり着けない。その道中にある現実という困難を直視し、その困難にどう立ち向かうかまでを考えることで、はじめて具体的な行動をとるモチベーションが生まれてくる。

どれだけすばらしい夢を描いても、現実という道を歩いて行くことは避けられない。むしろ、すばらしい夢であればあるほど道中は困難になるだろう。その困難さをあらかじめイメージしていなければどうなるか。

もちろん、困難にぶつかり、戸惑い、やがては諦めるだろう。これは僕の夢ではなかったんだ、と。

自分の周りをイエスマンでかため、ネガティブな言葉を投げかけてくる人をひとり残らずノイズと切り捨てれば、夢の王国は保てる。しかし、それは現実という道を見えにくくしているかもしれない。ありうる困難さに準備するための機会を失っているのかもしれない。

前に進むためには、(後ろではなく)前を向かなければいけない。しかし、前を見ていても、道を見なければやっぱり歩けないのだ。

本書はノウハウ本ではあるが、ポジティブ思考についてあらためて考えるための一冊にもなっている。

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