レシピブック

(先行者利益 + 累積的優位性 + 偶然的出来事) – ノウハウ = ?


「カレーがあるとするじゃない。すごく美味しいカレーが」
「いいね。食べたくなってきたよ」
「バカね、たとえよ、たとえ。で、そのカレーがすごく美味しかったから、レジでお金を払おうとしているときに、見つけちゃったわけよ」
「何を?」
「そのカレーのレトルトパックと、レシピブック」
「ふむ」
「そう、ふむでしょ。悩むよね。レトルトパックを買って帰れば、少々味は落ちるかもしれないけど、またあのカレーを楽しめる。でも、食べきったらおしまい。ゲームオーバー。でも、レシピブックなら」
「材料があるかぎり、何度でも作れる。オープン・エンドだ」
「そうなのよ。でも、レシピブックを買って帰ったからといってすぐに食べられるわけじゃないよね」
「そりゃそうだ。自分で作らないといけない」
「手間もあるんだけど、他にも問題があるのよ」
「たとえば?」
「そうね、まずキッチンよね。うちのキッチンってコンロが二つだし火力も弱いじゃない。だから、レシピに複雑な調理工程が含まれていたら、再現するのはちょっと難しいのよね」
「まあ、その辺はなんとかなるだろ」
「あと、食材。長野県産の無農薬農家から直接契約で手に入れたジャガイモを使っています、とか言われても、そもそも無理じゃない」
「その辺のスーパーのでいいだろ」
「だったらさ、それって普通のカレーにならない?」
「いやいや、そんなことはないだろう。そんなに美味しいカレーなんだから、食材が高級なだけだなんてあるはずがないよ」
「でも、食べてみないとわからないわよね」
「まあ、そうだけどさ」
「しかも、同じレシピで、違う食材を使って作って初めてわかるわよね。あっ、これって食材の力だけでレシピはあんまり関係なかったんだ、って」
「……」
「だから、いっそレトルトを買って帰った方がいいのかなって」
「いやいや、本当にそのレシピが力を持っているかもしれないじゃないか。その真偽はまだはっきりとしていないぜ。試してみないことには」
「たとえ損する可能性があっても?」
「その可能性は引き受けないといけないよ。なんだってそうさ」
「ふ〜ん」
「いいじゃないか。わかることが一つでも増えるんだから。それに宝物を見つけられる可能性もある」
「でもさ、なんでそのカレー屋さんは、そんなレシピ売ってるんだろう」
「そりゃ、一人でも多くの人にそのカレーの味を楽しんでもらいたいからじゃないのか」
「そうかもしれないけど、もし完璧にそのレシピで再現できるなら、誰もカレー屋さんに来なくなるんじゃない?」
「なんだかんだで、人は供されたいものだから、そんなことはないと思うけど」
「たんに売り上げを最大化したい、という可能性は?」
「ゼロではないだろうね。そういうのはちょっと見ただけでは判断つかないんじゃないかな。ともかくレシピブックを買わないことには」
「虎穴に入らずんば、ね」
「虎に喰われたくなければ、さっさと逃げることさ。平穏な日常が待ってるよ。それにスーパーの食材だって、君が作ったカレーなら美味しいよ」
「それはどうも」


ノウハウ = ○○ + △△