7-本の紹介

【書評】電子出版、独立作家の執筆・出版手法 日本独立作家同盟 第一回セミナー〈藤井太洋 講演録〉 日本独立作家同盟セミナー講演録(藤井太洋, 仲俣暁生, 鷹野凌)

最初に断っておくが、たいへん有益な本である。

電子出版、独立作家の執筆・出版手法—日本独立作家同盟 第一回セミナー〈藤井太洋 講演録〉 日本独立作家同盟セミナー講演録
電子出版、独立作家の執筆・出版手法—日本独立作家同盟 第一回セミナー〈藤井太洋 講演録〉 日本独立作家同盟セミナー講演録 藤井太洋 仲俣暁生 鷹野凌

ボイジャー 2015-08-10
売り上げランキング : 2385

Amazonで詳しく見る by G-Tools

まずは本書の背景をさらっと巡り、その後内容について触れてみたい。

セミナーの講演録ということ

本書は、日本独立作家同盟が開催したセミナーの講演録である。

藤井太洋「電子時代、独立作家の執筆・出版手法」 | Peatix

セミナーは2部構成になっており、第1部は藤井太洋氏の講演、第2部はフリー編集者である仲俣暁生氏と、日本独立作家連盟理事である鷹野凌氏を交えた三者でのトークセッションとなっている。

イベントの構成と本書の目次を照らし合わせてみると、そっくりそのままの内容が書き下ろされているようだ。イベント中に使われたのであろうスライドの画像も掲載されているので、内容的な遜色はあまり感じられない。

本書のボリューム的に720円は少々高く感じられるかもしれないが、セミナーの参加費が2000円であることを考えれば非常にお得である。また、そうした背景がなくても、文章執筆を生業としていきたい人には役立つ内容になっている。具体的な内容については後述するが、この手法は面白いと思う。

正直、現役の作家を招くセミナーが、しかも実践的な内容のセミナーが2000円というのはNPO主催であることを考えても安すぎるだろう。しかし、講演内容の書き起こしを、こうして電子出版すれば、マネタイズの圧力は少し緩和される。また、私のように関西住まいで、こうしたセミナーになかなか足を運べない人間にとってもありがたいものだ。

現在は第二回のセミナーも本になっているようだが(同時発売)、引き続きの展開に期待したい。

文章生活20年。現役ライターが初めて教える文章のコツ講座—NPO法人日本独立作家同盟 第二回セミナー〈古田靖 講演録〉 日本独立作家同盟セミナー講演録
文章生活20年。現役ライターが初めて教える文章のコツ講座—NPO法人日本独立作家同盟 第二回セミナー〈古田靖 講演録〉 日本独立作家同盟セミナー講演録 古田靖 仲俣暁生 波野發作

ボイジャー 2015-08-10
売り上げランキング : 6227

Amazonで詳しく見る by G-Tools

プロモーションは大切に

さて、肝心の内容である。ここでは第一部の藤井太洋氏の講演を中心に取り上げることにする。

取り上げられているのは3つのテーマだ。「執筆」「編集」「プロモーション」。比重としては「執筆」の部分が大きいが、その他の分野の話も面白い。というか、さらりと書かれている「プロモーション」部分は、もっと突っ込んで欲しいぐらいである。

そもそも私が藤井氏とその処女作『Gene Mapper』を最初にみたとき一番驚いたのは、作品の世界観でも、美しい表紙でもなく、プロモーション(&マーケティング)のセンスだった。

個人がWebで作品を販売しているのを見かけたとき「う〜ん、そうじゃないんだよな〜」と思うことが少なくない。「もったいない」と言うといかにも上からではあるが、もうちょっと買う人の立場に立ってみようぜと感じてしまうのだ。『Gene Mapper』にはそうした違和感が一切なかった。むしろ、「そうだな。うん、たしかにそうだ」と感心させられることの方が多かったくらいである。

作品の販売力というのは、そうした少しずつのプロモーション(&マーケティング)の積み重ねで変わってきてしまう。極端なことを言ってしまえば、そこに十分な力をかければ、作品自体にたいした力が無くても売り上げは作れてしまう。ただし、その場合は、持続的な人気にはならない。二作目、三作目と売り上げを作るためには、やはり作品の力は欠かせないものだ。つまり「執筆」の手抜きに、長期的なメリットは何も存在しない。

認識として「執筆」と「プロモーション」は、両輪と呼べるほど同等ではないにせよ、両方とも大切にしなければいけない。独立作家ならば、これは必須である(言い換えれば、仕事の一部である)。

ピッチとプロット

脱線がひどくなってきたので、そろそろ「執筆」の話に戻ろう。

執筆作業は大まかに分けると、取りかかる前の準備、実際の執筆、その後の編集の3つに分解できる。

執筆前の準備段階では、ピッチ(梗概)とプロットの手法が紹介されている。ピッチは、ごく短い文章でその作品の5W1Hを説明したものだ。プロットは、ストーリーラインの見取り図といったところだろうか。こういうのをあらかじめ書いておくと内容のブレが少なくなり、展開や密度が計算された作品となる。

これはまあ本当にその通りなのだろう。ただ、私はこれまで書いてきた小説にこの手法を用いたことがない。いや、それは正確な表現ではないだろう。用いることができないのだ。

筆のおもむくままに書いて、いい作品が書ける方もおそらくいると思いますけれども、それはできる人にしかできないのです。

私の感覚では、筆のおもむくままに書く人は、そうしないと書けないのだと思う。プロットを作ってしまうと、どうしても筆が進まなくなるのだ。先ほど私は「この手法を用いたことがない」と書いた。実はそれは嘘で、用いようとしたことはあるのだ。しかし、それで作品が完成したためしがない。

プロットを用いないのは、たぶん効率的な執筆手法ではない。しかし、書けないのではどうしようもない。よって、仕方なく筆のおもむくままに書く。それを繰り返すことで、それなりに書けるようになっていく。おそらくそんな感じではないだろうか。

よって、これから取りかかる人は、とりあえずピッチとプロット作ってみるのがいいだろう。それを試して、どうしても無理ならば筆のままスタイルに切り替えればいい。

執筆のトレーニング

もう一つ、本書で何度も強調されている「写経」について書いておきたい。好きな作家の作品を書き写す、というある種のトレーニングだ。

これはもうはっきり効果がある。手書きでも良いし、キーボードでも良い。ただしコピペはダメである。自分で手を動かして、なぞるように言葉を紡いでいくことだ。

「文体」なんて大げさな言葉を持ち出さなくてもよい。「、」「。」の使い方。どんな言葉を漢字にするのか、しないのか。漢字にするとしたらどの漢字を当てるのか。そうしたことが「感じられる」。これは、ただ読んでいるだけでは、つまり音に変換して処理しているだけでは認識しにくい事柄である。だから、自分で手を動かして言葉を紡ぐしかない。

本書では他にも面白い「トレーニング」の話が出てくる。気になる方は直接参照されたい。

さいごに

私は基本的にひねくれものなので__ひねくれものでない部分もある、というぐらいにひねくれものだ__、他人の文章作法にあまり興味はない。特に創作講座なんてまっぴらである。小説の書き方なんて、他人に教わるものじゃないとすら思っている。それでも不思議に本書には引き込まれた。語り口に特徴があるのかもしれない。

本書を読み終えて、__かなりの確率でまた失敗する気はしているが__ピッチとプロットを作って中編小説を書いてみたくなった。そういう気持ちにさせてくれる一冊である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です