3-叛逆の仕事術

【書評】マシュマロ・テスト(ウォルター・ミシェル)

非常に有名なテストである。

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 ウォルター・ ミシェル 柴田 裕之

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子どもの前に美味しそうなマシュマロを置いて、こう言う。「すぐに食べるなら1個だけ、しばらく我慢するなら2個あげるよ」

ある意味とてもシンプルな実験だ。しかし、この実験とその後の追跡調査からいろいろなことがわかってくる。

部屋にひとり残された子どもは、非常に難しいジレンマに直面する。美味しいマシュマロはできれば二個もらいたい。でも、ああ、なんと美味しそうなマシュマロなんだ。食べたい。今すぐ食べたい。多くの子どもたちは、実験者が帰ってくるまで待つことができず、パクリとマシュマロを食べてしまう。しかし、中にはちゃんと待てる子どももいて、彼ら・彼女らは意気揚々とマシュマロを二個獲得する。

ここで疑問が浮上する。待てる子どもたちと、そうでない子どもたちの違いはなんだろうか。

話がここで終わるならば、おそらくこの実験が社会で注目されることはなかっただろうし、本書のサブタイトルが「成功する子・しない子」にもならなかっただろう。

マシュマロ・テストを行った実験者__つまり、本書の著者__は、あるきっかけから追跡調査を行うことにした。結果それは半世紀も続く追跡調査となったのだが、驚くべき結果が出たのだ。マシュマロを我慢できる時間が長かった子どもほど、のちのち社会的成功を収めている可能性が高いというのだ。

四歳か五歳のときに待てる秒数が多いほど、大学進学適性試験の点数が良く、青年期の社会的・認知的機能の評価が高かった。就学前にマシュマロ・テストで長く待てた人は、二七歳から三二歳にかけて、肥満指数が低く、自尊心が高く、目標を効果的に追求し、欲求不満やストレスにうまく対処できた。

「社会的成功」が何を意味するのかはともかく、こうした人たちが満足感の高い人生を送れているだろうことは想像に難くない。

そして、このような結果が出てくると、先ほどの疑問が強い重要性を帯びてくる。待てる子どもたちと、そうでない子どもたちの違いはなんだろうか。本書は、その疑問に取り組んだ一冊だ。

概要

目次は以下の通り。

  • 第1部 先延ばしにする能力にけい自制を可能にする
    • 第1章 スタンフォード大学のサプライズ・ルームで
    • 第2章 彼らはどうやって成し遂げるのか?
    • 第3章 ホットに考える/クールに考える
    • 第4章 自制のおおもと
    • 第5章 万全の計画
    • 第6章 怠け者のキリギリスと働き者のアリ
    • 第7章 あらかじめ組み込めているのか?──新しい遺伝学
  • 第2部 保育園時代のマシュマロから老後の資金まで
    • 第8章 成功の原動力──「できると思う!」
    • 第9章 将来の自分
    • 第10章 「今、ここ」を乗り越える
    • 第11章 傷ついた自にけい守るにけい自分と距離を置く
    • 第12章 つらい情動を「冷却」する
    • 第13章 心理的な免疫系
    • 第14章 賢い人が愚かな振る舞いをするとき
    • 第15章 「イフ・ゼン(もし〜したら、そのときには〜)」に見られる人格表出のパターン
    • 第16章 麻痺した意志
    • 第17章 疲労した意志
  • 第3部 研究室から実世界へ
    • 第18章 マシュマロと公共政策
    • 第19章 中核戦略を応用する
    • 第20章 人間の本質

ご覧の通り、話は多岐にわたっている。「自制心」が中心的なテーマではあるのだが、話が広いおかげで、具体的な要素は掴まえにくいかもしれない。その辺りは、またこのブログで掘り下げていこう。

とりあえず、重要な要素を挙げておくと、「ホットとクールなシステム」「イフ・ゼン戦略」「脳の可塑性」あたりになる。

ホットなシステムとクールなシステムは、カーネマンの『ファスト&スロー』におけるシステム1とシステム2が近しいだろう。いろいろな表現はあるが、脳は少なくとも二つの種類の反応を持ち、それらが相互作用している。まずはこれを押さえる必要がある。

ホットなシステムが優位なとき、人は近視的になり、クールなシステムが優位になるとそれが逆転する。欲望を先延ばしするためには、このクールなシステムが活発になっていないといけない。

では、どうすればクールなシステムが活発になるのか。それが「イフ・ゼン戦略」だ。詳しくは本書をあたってもらいたいが、「もし、こういう状況に陥ったら、このように行動する」ということをあらかじめ決めておく。オデュッセウスがセイレーンの歌声に抗するために取ったのと同じことをするわけだ。

もちろん、そんなことを決めたからといって、その通りになるわけではない。しかし、あらかじめ準備していないときに比べれば実行できる可能性は増える。あとは、それを何度も繰り返していけばいい。そうすれば、脳にそれが「すり込まれ」、意識しなくてもできるようになる。

これは脳が可塑性を持っているからできることであり、ようするにそれは脳を「プログラミング」することだともいえる。なにせプログラミングとはIf thenの集合体のようなものなのだから。

さいごに

本書は学術書というわけではないが、少しだけ難しい部分があるかもしれない。「成功する子を育てるにはどうすればいいか?」みたいな問いの答えがすぐにわかるわけではない。自分でひとつひとつ読み解いていく必要がある。本書を手に取る前に、その点は了解しておいた方がよいだろう。

ちなみに、『マシュマロを、もう一つ』という拙著のタイトルは本書で紹介されている実験からきている。この本も、本書とは違った意味で答えがない本ではあるが、セルフマネジメントに関するヒントは詰まっている。よければご覧頂きたい。

その他の関連書籍としては、先ほど挙げたカーネマンの『ファスト&スロー』以外に、バウマイスターの『意志力の科学』、セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するのか』、アリエリーの『予想通りに不合理』あたりがある。どれも面白い本なので、興味を持ったら一読されるとよいだろう。

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