先日発売となりました、以下の新刊。
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無事、Kobo版とBookWalker版も出版されました。
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さて今回は、この本の執筆裏話(ワタシノアタマノナカ)を書いてみます。
アイデアの始まり
当初念頭にあったのは「知的生産の技術に関する本を10冊紹介する」というアイデアだけでした。
その段階では、どんな形で、どんな本を紹介するのかはまったくの空白です。もちろんこれでは、企画は前には進みません。方向性と呼べるものが必要です。
そこでいろいろ考えました。その思考は、複数の方向から同時多発的に進んでいったのですが、それを線上に正確に落とし込むことは不可能なので、いくつか分割を行ってみます。
アイデアの膨らみ
まず、どんな形で紹介するかのアイデアを求めました。
まっさきに思いつくのは、当然「よくある形」です。一番シンプルなのは、ほとんど事務的なまでに書誌情報と本の概要を並べていくものでしょう。いかにもBotでも作れそうな本です。もちろん、レファレンスとしては有用でしょうが、面白いかと問われれば首を横に振るしかありません。
では、もう少し著者が前に出た形はどうでしょうか。それぞれの本について「私」がどのように読んだのかを紹介していくのです。紹介する本は、私が愛読していた本なので難しいことはありません。きっとハイボリュームな本に仕上がり、読み応えもそこに付随してくるでしょう。面白い本にはなりそうです。
このあたりで、思考の枝が分岐し「誰がこの本を読むのか?」という問いが生じてくるのですが、それは後回しにしておきましょう。
アイデアの展開
続いて思いついたのは、もう少しライトな語り口の本でした。
まずは「アルテさんと僕」の形式。僕がアルテさんに読むべき本を教わるというフォーマットですね。それに関連して「読書好きの先輩」のアイデアも浮かんできました。どちらも、当ブログに登場しているキャラクター(と呼んでも差し支えないでしょうか)です。
さらにそこからひねって「B-tender」という舞台装置も考えました。BarではなくBook-tenderです。カウンターの向こうにマスターがいて、カクテルのうんちくみたいに本のうんちくを語っていく、という構成です。このアイデアはなかなか良さそうでした。容れ物はよくある形でも、中身はなかなか新しいものです。
さて、どれにしましょうか?
アイデアの選別
ここでジャッジメントの基準となるのが、先ほど出てきた「誰がこの本を読むのか?」という問いに対する答えです。
もちろん、紹介する本を読んだことがある人たちではありません。本を紹介するのだから、その本を読んだことがない人がターゲットです。では、それはどのような人でしょうか。逆に言えば、私はどんな人たちにこれらの古典を知ってもらいたいのでしょうか。
こういう場合は極端をスタートラインにすると、うまく前に進みます。小学五年生? 60歳の引退間近のおっちゃん? ノー、ノー、ノー。おそらくは、青年あたりでしょう。大学生〜社会人数年目で、知的生産の技術的なものを必要としているが、そうした概念を持っていない人が対象読者です。
アイデアの転換
となると、「読書好きの先輩」のコンセプトはうまく機能しそうです。ちょうど年齢的にドンピシャでもあります。
が、少し考えてこれは却下しました。「読書好きの先輩」の構成は先輩が視点の持ち主であり、読み手が共感を覚えるのは先輩の方であって、後輩くんではないのです(あるいはそのはずです)。簡単に言えば、先輩の一人称なわけですね。
その考え方でいくと、「アルテさんと僕」の方は、視点の持ち主は「僕」の方なので、もう少し機能しそうです。ただし、問題がありました。「知的生産の技術」が持つ重厚さと、「アルテさんと僕」のライトさに、かなりの乖離があるのです。その乖離が、うまい具合に橋渡しとして機能してくれればよいのですが、最悪の場合真空状態が生まれて窒息します。難しいところです。
では、B-tenderはどうでしょうか。Barの雰囲気は、重さ的にはぴったりですし、視点の構成も難しそうではありません。これでいけるのではないか。書き出してみるまでは、そんな風に考えていました。資料として漫画「バーテンダー」を全巻読み返したのもこのころです。
執筆の現実
で、実際書き進めてみると、問題が生じました。予想していたよりも、文章が「重く」なりすぎるのです。
少しご覧にいれましょう。『知的生産の技術』の章の冒頭です。
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これから10冊の本をご提示させていただきますが、それらの本はどんな順番で読んでもらっても構いません。もし相性が悪い本があるなら、スルーされても結構です。本は人に似ています。合う本もあれば、合わない本もある。無理して付き合う必要はありません。
それでも、この本だけは手にとり、お読みになってください。それも、一番最初にご覧ください。ほかの本には目もくれず、本書に飛びかかるのです。大丈夫、心配ありません。多くの先達が「もっと早くにこの本を読んでいれば・・・・・・」と悔恨されています。その悔恨は、本書が持つ力をまざまざと示してくれています。わざわざ先達の過ちを繰り返さなくともよいでしょう。
なぜ本書が必読で、さらに最初の一冊になりえるのか。それはこの本が、二つの意味で始まりの本だからです。一つには、「知的生産とその技術」の始まりであり、もう一つには、お客様の知的生産の始まりでもあるのです。
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なんというか重いです。私が想定していた「若い者向け」の文章にはまったくなっていません。ちなみに、幾度かリライトしてみた結果ですら、これなのです。まるで舞台装置に私の文体が引っ張られているかのように、どのように書いても重たくなってしまいます。
心をフラットにして、自分の書いたものを読み返し、「はたしてこれで若い人向けの文章となっているのだろうか?」と問うてみると、ノー、という答えが返ってきます。
書いたものは、「私」が読んで面白い文章にはなっている。でも、その「私」はどこに属しているのだろうか?
ここで、私は頭の中の原稿用紙をくしゃくしゃに丸めて、ぽいと捨てました。
リスタートです。
書き直しと到着点
一つ残してあった、「アルテさんと僕」を採択して、文章を書き始めました。冒頭の場面は浮かんでいたので、スタートはスムーズです。
書いてみると、手応えはなかなか良いものでした。むしろ、これを待っていたかのような軽さが舞い降りてきます。軽さに重きを置くため(変な表現ですね)、当初は小説風であったものを完全会話文に切り替えました。ただ、それだけだとあまりにも軽くなりすぎるので、章と章の間に「箸休め」を置き、プロローグとエピローグだけは小説風にまとめました。
結果、会話文の部分だけを読んでも良く、また「箸休め」だけをピックアップすることもできる変わった本となりました。私の想定通りに機能しているかはともかく、これまで私が書いてきた本とはまったく異色の存在となったことはたしかです。
前回(月刊くらした9月号)も、ある意味ではチャレンジな一冊でしたが、本書は想定読者の移動と文体の大幅な変容という意味でチャレンジな本となりました。
さいごに
かなりはしょった部分と、闇に消えた原稿はありますが、おおよその私の頭の中の推移はこのような感じです。だからどう? と言われれば返す答えはないのですが、本作りを進めている人の参考にでもなれば幸いです。
ちなみに、本文中にも描写がありますが「アルテさん」はメガネをかけているので、イラストを描く人はお忘れなく。まあ、そんな人がいればですが。
あと、本稿のタイトルに「2」とついていますが、1はメルマガの方で書きましたので、ご興味あればそちらをどうぞ。
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